俺なー最近キャベツ男子って言われるねん。キャベツってなんやねんな。親分、生粋のスペイン男子やっちゅうねん! どっちかって言うとトマティーナ系男子とか、闘牛系男子やんかあ。あ、とりあえず寝室行く? 今、うちのリビングが散らかっとって人の座れる場所がないねんよ。内職のバラで。とにかく納期がほんまにやばいねん。そうそう、まあどんなにしんどい時でも寝るとこはちゃんと確保するシエスタ系男子でもあるわな。ん? 何? あ、キャベツ男子が違う? あー……あ、そういや何かちゃうかった気がするかもなあ。何やったかな、うしー男子? まあええわ。とにかくな、俺が全然害なさそうに見えるんやって。あ、ごめんなあ、掃除終わってへんからベッドの上にでも上がってて。今ざーっと掃除機かけるわ! 最近はダスキンだったか吸引力が変わらないだったか言うけど、親分ちの掃除機も結構やるねんで。うるさいのが玉に瑕やけど、俺デカい声出すの平気やしー。ほんでなあ、男としての危険性? とにかくそういうやつらしいわ。うん。危ない匂いが全然しない安全パイ系男子やから、油断してホイホイ部屋に行ってまいそうやって言われてん。なあなあ、どう思う? 俺ってそんなへたれに見えるんかなあ。親分かて男やから、好きな子を家に誘って何もせえへんほど聖人でもないんやけどな。え? 想像できへん? なんでやねんな、お前俺のこと何やと思ってんねん。そのうち見せたろか? 親分が男しているところ。へあ? 気持ち悪い? つれへんなあ……あ、ちょい失礼。そっちのハンガー取らせてもらうな。ちょっと屈んでなーよいしょーっと……まあ、とにかくそんな感じで、ロマーノ。お前なんでお前に惚れててどうにかしようとしている男の家にホイホイ上がり込んで、ベッドに寝転んでるねんな。そんな油断しとったら、襲われても文句言われへんで。
「……お前、わかりにくすぎるぞ、ちくしょー……」
いつの間にかベッドに寝転がされてスペインに上からのしかかられていた。あまりの手際の良さに、始めからそういうつもりで家に呼んだのかと彼の手練手管を疑いそうになったが、そんなことを聞くのも野暮というものだろう。
「それとお前の場合、草食系男子でもキャベツ男子でも何でもねぇよ、スペインこのやろーテメーなんかただのドスケベ男子だ、ばーか」
「押し倒されてんのに、ようそんな強気な態度に出られるなあ」
呆れながらも顔を寄せてくる。ここで俺が拒絶したらこいつはどんな顔をするのだろうと思いつつ、すぐそばに迫った瞳が近すぎてぼやけるのを認めて、俺はそっとまぶたを下ろした。
没になった話。
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最近ではめっきり吸っている姿を見かけることがなくなったが、スペインは愛煙家だった。特に俺とベッドを共にするような関係になったあたりから世間で紙巻き煙草が出まわりだしたのもあって、わりと気軽に吸うようになっていたと思う。
まず目覚めの一服から始まって、内職や書類を片付ける間も銜え煙草でプカプカ吹かしまくり、飯の後にももう一服。下手をすればベッドにまで持ち込んでいるような、とにかくひどいヘビースモーカーっぷりだった。そのくせ俺には匂いが移るから吸うななんてむちゃくちゃなことを言って、一本も吸わせてはくれないようなひどい男なんだ、あいつは。あの頃の俺は一日中スペインのそばにいたから、吸ってなくても煙草の匂いなんてとっくに体に染み付いていて消せなかったと思うが、あんまりにも嫌がるもんだから結局俺がそれを吸うことはなかった。今となってはそんな健気な真似、いくらあいつのことを好きだからって絶対にするべきじゃなかったって思うんだけどさ。
スペインからはいつも葉巻とは違う、安っぽくて目に沁みるようなヤニの匂いがしていた。紙の焦げる匂いと鼻につくタールの悪臭、それに混じって漂う甘ったるい香り。それがスペインの匂いだった。俺があいつにベッドへと引き入れられて、はじめて朝まで抱き合って過ごした日に散々嗅いだ匂いだ。
あの頃のスペインは一緒に寝ると、俺よりも早くから起きていることが多かった。俺が行為に慣れてなくて、そういう時はなかなか起きれなかったというのもある。それで夢うつつの狭間をうとうととさまよっていると、遠くでマッチを擦る音がする。しばらくして不健康そうなあの煙に包まれ、慣れ親しんだスペインのタバコの匂いがあたりに漂った。薄目を開けてとなりをうかがう。俺があいつの右腕を枕代わりにしているせいか、スペインは右腕を投げ出してベッドに寝そべったまま煙草を吹かしていた。そういう時のスペインは、やけに神妙な眼差しで天井を睨みつけていた。思わず声をかけるのを躊躇って何も言えなくなるほどに真剣な面持ちで。あ、起きたん? 俺に気づいたスペインが何でもないような顔で笑いかけてくる。何かあったのか、なんて聞けない俺は、腹が減ったぞこのやろー、といつも通りの憎まれ口を叩く。スペインは、ちょお待ってなあ、これが吸い終わったら用意するわ、と微笑んで俺の頭を撫でくり回す。お前また煙草吸っているのかよ、呆れてみせれば、やって口さみしいんやもんロマーノが塞いでくれるん? なんて軽口を叩かれて。ばーか何言ってんだよ俺は朝メシが食いたいんだぞ、せやったら俺が晴れやかに起き出せるように手伝ってくれてもええやん、やなこったお前は飴でもしゃぶってろ、ひどいわー。ばかみたいに平和な朝だった。それがずっと続くと思っていたんだ。
あの頃の俺はひどく世間知らずで、スペインが世界の全てだった。あいつに与えられた上等な服を着て、あの狭すぎる二国だけの世界で、あいつに養われて生きていくことに何の疑問もなかった。……いや、きっと今からだって、もしスペインがあの頃と同じように俺とふたりきりでやっていこうと言い出したなら、俺はやっぱり何の疑問も抱かずに従うんだろう。俺はとても怠惰で、打算的なくせに愚かだから、未だにスペインに全てを委ねて貢がれていることの何が悪かったのかをわかっていない。わかっていないから俺たちは恋人になったんだと思う。俺が何もわかっていないから、スペインはあの頃ヘビースモーカーのように煙草を吸っていた。
「お前またあのマッチョじゃがいものとこに行ってたんじゃねぇだろうな!」
「ヴェ?! に、兄ちゃん! おはよ……」
「おはようじゃねぇよ! もう昼メシの時間だぞ、このやろー!」
こっそりと帰ってきたつもりなのだろう。馬鹿弟が足音を立てないように忍び足でキッチンへと寄ってきた。たぶんこれから昼メシのパスタを作るつもりでソースを温めていたから、その匂いにつられてきたんだ。こういうところが馬鹿なんだ。
「ちくしょー! お前のせいで家の中がじゃがいも臭くなるだろうが!」
最近、ドイツと仲良くしたいらしい俺の馬鹿でへたれな弟は、しょっちゅうあの野郎の家まで遊びに行っている。俺としてはドイツ人なんて絶対に嫌だしお断りだって言うのに、この馬鹿は俺の意向も無視して勝手なことばっかしてやがる。
「そんなことないよ! ドイツは綺麗好きだし、臭くなんかないもん!」
「あん? あんなムキムキマッチョが汗臭くないわけねぇだろ!」
「ちゃんと毎日シャワーも浴びてるし、いつも石鹸の良い匂いがするよ!」
「フン、どうだか! だいたい俺はあいつの……」
売り言葉に買い言葉で言い合っている最中に、ふっとどこからともなくあの煙草の匂いがしたような気がした。ヴェネチアーノは煙草を吸わないし、俺だって喫煙の習慣はないからこの家でその匂いを感じたのははじめてのことだった。思わず目を見開いてあたりを見回すが、家の中には俺と馬鹿弟以外の人の気配はしない。
「兄ちゃん?」
突然黙った俺にヴェネチアーノが首を傾げる。確かに煙草の匂いがしたのに、今はもう全然そのかけらも掴めない。
「……おい、ドイツのヤローは煙草は吸うのかよ」
どうかそうであってくれと、半ば祈るような気持ちで訊ねる。ヴェネチアーノは怪訝そうな顔をしながら、俺の質問を否定した。
「ヴェ? 吸わないよーあいつは健康志向だもん」
「…………」
ああ、俺は未だに囚われているのか。唐突に胸をせり上がってくる郷愁が、どうしようもない感傷を引き連れて過去の記憶を色あせたものに変えていく。それは思い出となって、俺にとってはやけに輝かしい出来事だったかのように錯覚させるんだ。
「フン、つまんねぇ奴……」
弱々しい声では説得力なんて何もない。実際ヴェネチアーノが、兄ちゃん……? と不安そうな顔をしている。その俺よりも爺ちゃんの色に近いアンバーの瞳にはひどく情けない南イタリアの姿が映っている。
スペインとはほとんど連絡を取れていない。それどころじゃないと言うのもわかっていたが、意図的に避けられているような気もした。ドイツとはそれなりに接触しているようだが、弟づてに聞いた話ですら、もっともらしいことを言ってのらりくらりとはぐらかされているような印象だ。この現在の世界情勢に関わる気がないんだろう。
会えない時間が積み上がっていく。それは普段は何てことのないように思えるのに、ふとした瞬間、強い衝動でもって俺をがんじがらめに絡めとっていく。
「……でもそうだな、煙草を吸っているような奴と付き合ってもろくなもんじゃねぇよ」
スペインと暮らしている時はあいつが嫌がったから煙草を吸わなかったが、アメリカの家にいた時に一度だけ煙草を口にしたことがある。マッチを擦って火をつけて、肺に煙を吸い込むその瞬間、ふわりと香った煙草の匂いで泣きそうになった。スペインが吸っていたものと同じではなかったけど、紙の焦げる匂いとタールの悪臭、煙草特有の目に沁みるような煙が慣れ親しんだものと似ていたから、忘れられなくなった。結局、俺が煙草を吸ったのはその一度きり。そしてたぶん二度と吸うことはない。
「匂いがする度に思い出しちまうからな」
それは何もスペインへの健気な恋心によってしないのではない。
照りつける太陽がまぶしくて、咄嗟に目を細めた。額に浮かんだ汗を拭うが、拭った手の甲もベタついていて、ただ汗を引き伸ばしただけだった。肌を刺すような太陽光は鋭く、皮膚の表面を焦がしていく。ジリジリと焼けていく頭のてっぺんから茹だるようだった。
「おい、スペイン! こっち見てみろよ!」
やけに機嫌の良い声に呼ばれて顔を上げた。視線をやると、青い空を背にしたロマーノが真っ赤に熟れたトマトを掲げて笑っている。
「もう赤なっているん?」
「こいつだけだぞ! 早熟だ」
何が面白いのかケラケラと笑っている。その無邪気な笑顔に胸がざわついた。
「……ロマーノと一緒やな」
軽口のつもりだったのに、暑さで朦朧としていたせいか。声に軽さがなかったせいで、冗談のようには響かなかった。しかしロマーノはそれすらも笑う。
「そうだ、俺は早熟だったからな!」
ニヤリと笑って、自らもいだトマトに唇を寄せる。まるでスペインに見せつけるかのように、上目遣いで視線を寄越してくるから、まともな思考は一層掻き乱されて。ぐらりと視界が揺れた。
以前にトマト畑の真ん中で彼を抱いたことがある。まだロマーノが少年の面影を残していた頃のことだ。その日も今日のような炎天下で、彼は無邪気に笑っていた。日に日に成長し手足を伸ばす彼の体は着実に青年のものへと近づいていたが、本人は未だその自覚がないのか、スペインの庇護に安心しきって子どもそのもののいたいけな表情を見せた。それが、堪らなかった。気がつけばまだスペインよりも随分幼い彼の体を抱き寄せて、土の上に押し倒していた。トマトの枝が隠してくれると嘯いて、だから大丈夫だなんて何の根拠もない言葉で言いくるめた。その日のロマーノが真実スペインの言葉を鵜呑みにしたのかはわからない。ただ、それ以来、彼は大人びた表情を見せるようになっていった。
遠い記憶をほじくり返して呆然と突っ立っているだけのスペインと、トマトにかじりつくロマーノ。何も言わずにいると、彼はそのまま赤い球体に歯を立てた。
ロマーノは昔から歯並びが良い。整った骨格に沿うように均等な大きさで揃ったツヤツヤとした白い歯は、彼の小さな口の中に綺麗に収まっている。それはいっそ芸術のようだった。
「……ッ」
薄い皮を突き破った前歯に透明な赤い汁が滴る。白と赤のコントラストが、強いぐらいの太陽の光とあいまってやけに映えた。じゅるり、と音を立ててトマトの汁を啜る音を聞く。むわっとむせ返るような外気に中てられて、気が狂いそうな激情を覚えた。あ、と間の抜けた声を発してしまった。それを聞いたロマーノが妖艶に微笑んでみせる。
おいおいと茂る深い緑、まだ青いトマトの実が生る中でひとつだけ真っ赤に熟れた早熟のトマト、青い空、早々にもがれた実。くらりとして、僅かに後ずさる。
ロマーノの手のひらから手首、腕の内側を伝って肘へとトマトの汁が滴り落ちる。成人した男のもののはずなのに、まだ未熟な彼の筋肉はしなやかで薄い。それはどこかアンバランスさを醸し出していて、目まいがするような色香を醸し出していた。
「ロマーノ……!」
思わず足を踏み出して、気が付いた時にはその体を掻き抱いていた。瞬間、ふわりと香るロマーノの匂い。
「な、なんだよ」
切羽詰まったようなスペインの反応に戸惑ったような反応が返ってくる。構わず腕の力を強めたら、いたい、と抗議の声が上がった。それでも力を緩めることができなくて、ぎゅうぎゅう、と締めつける。次第に彼は諦めたのか、はあ、とため息をついただけで文句を言うことはやめた。
「ロマーノ……?」
「ったく、しょうがねぇやつ……」
「……」
「何考えてんのかしんねぇけど、ここでヤんのはまっぴらだからな。泥まみれになるし、痛ぇし、暑いし。最悪だ」
彼もまたトマト畑で行ったセックスを覚えていたのか、不満げに漏らす。それに責めるような色はなかったが、ひどく呆れているようではあった。
「やって……!」
「やってじゃねぇよ」
「ロマーノが……っ、トマトに攫われるかと思ったんやもん!」
「はあ?」
やがてジトりと目を細めたロマーノに頭突きをされるのだが、スペインだってまさか過去の自分にこうまで苛まれると思っていなかったのだ。
そう、自ら成熟させたトマトに揺さぶられる日々。
R15。
一時間でタイムアタックした習作。
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短編など完結している話
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