FIGHT

 目を覚ましたら後ろ手に縛られていた。細い紐が手首に食い込んで痛い。腕を動かそうと手をひねったが、結び目が食い込んでくるだけでビクともしなかった。

「ロマーノさん、これ何?」

 スペインの腹の上にまたがる恋人の名前を呼ぶと寝起きで声が掠れていた。この態勢では水を飲むこともできないので軽く咳払いをして、胸のあたりをペタペタとさわっているロマーノに問いかける。
 チラリと視線を寄越してきた琥珀色の瞳は、明らかな情欲で濡れていた。日に焼けた肌に褐色の混じったオリーブの瞳はよく映えて、室内に差し込む太陽の光をキラキラと反射している。薄っすらと涙の膜が張った眼差しはなかなかそそるものがあったが、さて、シエスタをしようと共にベッドへ入った時には情事を匂わせるような空気など一切なかったのに、一体どうしたのだろうか。
 単純に推測すれば、眠っている間か目が覚めてから彼の身に何かあったと言うことになるが、視線を落として探ってみても未だ彼の性は何の反応も見せていない。

「なんや、発情期?」

 わかりやすい揶揄の言葉にも、面倒くさそうに目を細められただけだった。いつもの照れた反応もないので、肩を竦めて冷たい空気をごまかした。
 そのままロマーノは何も言わずに上体を倒し、スペインの首筋へと頬をすり寄せてくる。裸の肌と肌がふれ合って熱が生まれた。室内とは言え暖房も付けていない。二月の外気はシンと冷たく、暖を求めてスペインもロマーノに体を寄せる。
 間近に迫った赤銅色の髪からベルガモットの香りがする。スンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぐと柑橘系の爽やかな匂いに混じって、どちらのものともつかない汗の匂いがする。

「んー……ロマーノの汗の匂い」

 甘い香水よりも何よりも興奮すると喉を鳴らしていると、彼の湿った唇が喉もとに吸い付いてくる。ちゅっちゅ、とリップ音が聞こえてくる度にチリチリとした鈍い痛みが走ったが、それで困ることはないので好きにさせておく。きっと内出血の跡が残るだろう。

「ほんまにどうしたん? 今日はやけに積極的やん」
「うっせぇよ、黙れって」

 ロマーノがフンと鼻を鳴らしながら不満そうに口を尖らせた。雰囲気が台無しだと文句を言われれば、口を噤んで黙るほかない。
 今までにもロマーノからセックスを仕掛けてくることはあった。度々見てきた積極的なロマーノは大変可愛らしく、一生懸命にスペインの性を育てようとしている姿はとてもいやらしいのだが、さすがに今回のように手を縛られたのは初めてのことだった。長い付き合いの中でいつも同じやり方で抱いていてはマンネリも避けられないし、スペインだって嫌がるロマーノの手を縛り目を隠して行為に及んだこともある。いつもと違う気分や態勢と言うのも大事なものだし、ロマーノの突飛な行動も、おそらくそれと同じようなものなのだろう。
 静かにしているとロマーノが再び首筋に吸い付いてきた。何が楽しいのやら、右側ばかりキスを落としていく。
 ふと、寝そべったままの態勢で足を折り曲げた。持ち上げた膝をロマーノの足の付け根に押し付けると、短くなった呼吸の合間に、ふっと甘い声が漏れ聞こえてくる。それが可愛らしくてグリグリと押し付ける力を強くしてやれば、柔らかな性器が少し硬くなったのがわかった。耳のそばでロマーノの吐息が乱れるのが聞こえてきて興奮する。

「んん? ロマーノは手じゃなくても感じるんや」

 いやらしい、淫乱みたいだと嘲って足先を伸ばす。立ち上がりかけたロマーノのペニスを足の指で掴んだら、一体どんな反応を返してくれるのだろう。気の強い彼のことだから反発してくるかもしれないと、想像するだけで愉しくなって、だらしなく頬を緩めた。
 しかし、足指があと少しで届くというところで、突如ロマーノにガブリと噛み付かれて悲鳴を上げる羽目になった。

「いっ……ッ!」

 容赦ない力で歯を立てられ思わず背が浮きかけたのだが、腹に乗っているロマーノの重みもあって再びシーツへと沈み込んだ。油断していたのもあって噛み付かれたところがジクジクと疼く。

「いったー! ひどいわ、何で噛むん?!」

 何をするんだと涙目で見上げれば、してやったりの顔でロマーノが笑っていた。

「お前の足癖が悪いからだ」

 言いながらスペインの足を自らの膝で抑え付けてくる。無理やりシーツに押し付けられて痛いいたいと首を振って訴えるも、ロマーノは肩を竦めるだけで力を緩めてはくれなかった。

「良いか、今日は俺のターンだ! お前の出番はないからな」

 言いながらスペインを見下ろしふんぞり返っている。ターンって一体何なんだと首を傾げるが、偉そうにしている彼がいちいち説明してくれることはなかった。
 腕は拘束され足は押さえつけられている。身動きがほとんど取れない態勢に不満の声を上げた。

「うう、なあ、せめてこれだけでも外してや」
「外したらお前、手ぇ出してくるだろ」
「当たり前やん」
「じゃあダメだ」
「なんでなんで! 煽っておいて放置する気?!」
「放っておいたりはしねぇけど……お前に好き勝手されんのが嫌だ」
「なんで? いつもと同じにするし、ひどくはせえへんやん」
「だ、だから……そのいつも通りがダメなんだって」
「なんで?」
「たまには俺の好きにさせろよ……」

 ここで、でもいつもちゃんとロマーノのこと気持ち良くさせてるのに何がダメなんだ、などと空気の読めないことを言えば怒られるのが目に見えている。さすがのスペインにもそれだけはわかったので口にはせずにいた。いつだってセックスの時はロマーノが先に音を上げ泣きながら気持ち良すぎてもう嫌だと訴えてくるので、彼が行為に対して不満を抱いているなんてことは(少なくともスペインの見立てでは)ないはずなのに、一体どうしてこんなことをしたいと言い出したのか。

「あ……なあ、まさかロマーノ、突っ込みたいん?」
「あ? お前のケツに興味はねぇよ」

 確かに興味を持たれても困るのだが、即座に否定されるとそこまで無関心なのも恋人としては複雑な気になり、曖昧なうなり声を上げることしかできない。いやいや、ここはロマーノに我慢を強いているわけではないのならば良かったと喜ぶべきなのか。

「そうじゃないけど、俺がやりたいようにしたいんだよ」

 拗ねた言い方がいじらしくて思わず黙り込む。彼は不意打ちでかっこ良くなったり可愛くなったりするから心臓に悪い。
 ひとり胸の内で愛おしさに悶えていると、ロマーノの手のひらが肩へとふれてきた。冷たい空気に晒されていた肌は冷えていて、熱い手の温度が気持ち良い。ひどくゆっくり、もったいつけるような動きで鎖骨から中心の窪んだところまで手を滑らされる。胸の筋肉のかたちを確かめるように際どいラインを撫でていくそのふれ方が、いつもスペインがロマーノにしている愛撫と同じだと気付き軽い目まいを覚えた。
 擽るように肌を撫でてくる不埒なロマーノの細い指先が視界の端でちらついた。スペインの手とは違いかたちの良いそれは、均整が取れていてうつくしい。ロマーノの体の中でも特に気に入ってる部分が、ゆるゆると糸を手繰るようにスペインの肌にふれてくるのがひどくいやらしくて、悪寒と紙一重の興奮で背筋が震える。
 はっ、と吐き出した息が乱れた。
 みぞおち、脇腹、腰骨と辿っていく手のひら。どんなに丁寧に愛撫されても感度の良いロマーノとは違い鈍感なスペインがそれを快感と感じることはないのだが、あのロマーノがスペインの性感を引き出そうと躍起になっているのに興奮する。女性のようにしなやかなわけではないが、綺麗な指先が淫らに蠢く様も視覚的な刺激になった。
 口の中がカラカラに渇いていて意図せず喉が鳴る。生々しく響いた音にロマーノがニヤリと笑いながらスペインのことを見下ろしている。

「かたくなってる」
「さわられてるんやから当たり前やん」
「珍しいな」

 胸先を爪で突きながら珍しいものを見るような目でまじまじと見つめられた。ロマーノほどではないが普段から多少はかたくなったりしていると告げれば、へぇと感嘆の声が上がった。その反応がまるで好奇心旺盛な子どものようで妙な気にもなってくる。

「なあ、ロマ、こっちも硬くなってるんやけど」
「さわってほしいのか?」

 腰を浮かせて股間を押し付けるとロマーノの視線が下がった。すっかり息が上がっているスペインとは違い、ロマーノの声は平静を保っているように聞こえる。常とは逆の状況に少なからず悔しさも感じていたが、それを彼に告げるのもみっともない気がして、どうにか見栄を張って何でもない風を装った。もしかすると、彼はそんなつまらない意地すら気付いているのかもしれないが。

「えー、こんなにしたのロマーノやのにさわってくれへんの?」

 渋られるかとも思ったが、望みは存外あっさり叶えられた。中途半端にかかっていたシーツはぐしゃぐしゃに端へと寄せられる。粗雑な仕草は子どもの時から変わっていない。シワになるだろうなと思いつつも口にはしなかった。
 下半身へ手を伸ばされる。シエスタのために衣服を脱いでいたので、シーツを取り払ってしまえば互いに裸を晒すことになる。あっさり手に取られた性器は興奮してすっかり硬く立ち上がっていた。散々スペインに見せつけていたロマーノの綺麗な手のひらが、そろりそろりとふれてくる。

「先っぽのとこちょっと濡れてんじゃねぇか」
「はっ……、そりゃ、な」

 ふと、視線を下へ移すとロマーノが慌てたように身じろぎをして態勢を変えた。しかし、その程度では足の間で主張しているものが隠れるわけもない。平然としているように見えていた彼もまた、スペインにふれることで興奮しているのだとわかって、自身の先端へと血が集まっていくのがわかった。

「手でさわらんでもロマの中に入れさせてくれたってええねんで」

 うっせ、と乱暴な返答とともに熱い手のひらに覆われる。そのまま緩やかに二度、三度と根元から先まで扱かれる。握ってくるロマーノの力は、スペインが自分でする時よりもずっと弱かった。わざとなのか彼が普段しているのがそれぐらいのものなのか、ただ擽られているようにしか感じられなくて、敏感な先端や尿道の入り口にふれてくるのが堪らない気持ちにさせる。しゅるしゅると肌を擦っていく音が響く。扱き上げる速度が速くなるにつれてじれったさを感じるようになった。もどかしさから落ち着きなく体を揺らす度にシーツがザリザリと音を立てた。
 規則正しいリズムで強弱を付けながら、親指で先端をぐりぐりと擦られる。いつもより刺激が足りない分、どうにか僅かな感触からも快感を得ようとして、皮膚にピリピリと痺れが走った。その度に先端から透明な粘り気のある液体が溢れロマーノの指を汚していく。傾きかけた太陽の光が部屋の中を照らし、彼の手がぬらりと光るのが見えた。その光景にこめかみがズキズキと痛みを訴えている。

「……ぅ、もう、ちょっと強くしてや」
「ん」
「……ッ」

 これでどうだと、うかがうようにこちらを見上げてくる瞳に煽られて頭の中が真っ白になる。暴力的な衝動で手を上げようとすると、背中の後ろで嫌な音が聞こえてきた。ギチッ、と張り詰めた繊維が限界を訴えている。細い紐が手首に食い込んでいるので痛いはずなのだが、不思議と何も感じなかった。ただ手先に血が回っていないことはわかる。痺れる手では上手く力が入らず紐はただ軋むだけだった。その間もロマーノの手は止まらない。ひどく緩やかに追い詰めてくる手の動きに汗が吹き出した。

「イきそうか?」

 ロマーノの頬は赤く染まっていて、瞳はトロンと溶けきっている。涙で濡れたその目尻に吸い付きたくて、目の前にいるロマーノを思う様に喘がせたくて、正常な思考が追いやられていく。
 期待に満ちた声音、尋常ではなく熱い手のひら、時おり腹にふれる彼の性器。
 グラグラと煮えきっていて今にも爆発しそうなほど興奮しきった頭の中と、やわやわと与えられている刺激が結び付かなくてどうにかなってしまいそうだ。

「なあ、イく?」
「……まだ」

 良くないわけではないが、達してしまうには物理的な刺激が足りない。
 正直にそれを伝えると、ロマーノは何を思ったのか体を引いて下に下がっていった。そうして、スペインの性器の前で口を開く。赤い舌がチラチラと動いているのがわかって全身に寒気が走る。何をしようとしているのかはわかっていたが、声をかけることはしなかった。どのみち、浅ましい欲で声が上手く出そうにない。
 黙ってされるがままになっていると、ロマーノが唇を窄めて性器を咥え込んでくる。迎え入れられた口内の柔らかさに、まるで彼の体内へと埋めているかのような感覚が沸き起こった。口の中は熱く轟いていて、音を立てながら吸い付かれると、いっそう錯覚はひどくなる。

「ん……ぅ、ふ」

 鼻にかかった甘い吐息が聞こえてきた。口いっぱいに頬張っても入りきらない分は指で握られ、そろそろと舌を這わされる。歯の裏にくびれた部分が引っかかり、上顎に敏感な先端が押し付けられる。裏筋をザラザラとした粘膜が舐めていくのが気持ち良くて、上り詰めることしか考えられなくなった。
 少し首を傾げためらう素ぶりを見せたロマーノが、そのままゆっくりと頭を前後に動かし始めると、体が快感で打ち震えて止まらなくなった。彼の動きに合わせて緩やかに突き上げたり引いたりを繰り返していると、息苦しいのだろう。ロマーノが軽くえづいたのがわかった。苦しそうに涙を目いっぱいに浮かべて見上げてくる視線が扇情的で、煽られるままに腰を動かしてしまう。

「ぅ、ン! ふぁっ……ん、ふぅ」

 時おり唾液を飲み込むためかロマーノの喉が鳴る。その度に咥えられたものを強く吸い付かれて性器がビクビクと脈打った。先走りの液体がロマーノの唾液と混じり卑猥な水音が立つ。しかし、溜め込んだ欲を吐き出そうと意識を集中すると、ちょうどそのタイミングでロマーノも酸素が足りなくなるのか、息継ぎのために頭を後ろに引いて口から性器を離される。駆け上がろうと走り出した感覚が、あと一歩のところで遠ざかっていった。

「く……ぁ、あっ……はっ」
「はあ、はあ……ンぅ、ふ」

 強張っていた体が大きく弛緩し、全身が跳ねた。一点に集中していた血が一気に流れだして、どこもかしこも脈を持っているみたいに、ごうごうとうなりを上げていた。心臓が痛いぐらいに走っている。ろっ骨を叩く脈があたりに響き渡っているのではないかと思うほどだった。
 追い上げられかけて離されたために体中、力が入らずぐったりと横たわっていると、ロマーノは止める気がないのか大きく息を吸い込んで、再びスペインの性器を咥え込んだ。二度目はためらいも見せず勢い良く吸い付いてくる。鋭敏な神経がジクジクと疼いてスペインを苛んだ。

「ひぅ……ン、ぁ……スペイ、ン」

 何度か達しそうになっては止められ途方に暮れる。いつもあと少しのところで遠ざかっていくので、もしかするとわざとやっているのではないかと疑いすらした。しかし、ロマーノは邪気のない瞳で、そろそろかと訊ねてくるので悪気はないのだろう。
 そうして、焦らされては再び追い上げられることを繰り返している内に、思考が白みがかってぼんやりとしてくる。もどかしさから踵でシーツを伸ばし、ごそごそと身をよじった。奥歯を食い縛って気が狂いそうになるのを堪えていたが、気まぐれに咥えられては離される刺激に理性はほとんど焼き切れていた。
 規則正しいリズムで前後に揺れている頭を掴み無理やりねじ込んで動かしたい衝動に駆られる。しかし、手足が拘束されている状態では、ただ体をくねらせることしかできなかった。
 背後で紐が嫌な音を立てた。噛み殺しきれなかった声がひっきりなしに口から漏れる。まるで本能に任せた獣みたいな声だった。
 ギチギチと紐を騎士ませながらうなり続けているスペインに、不意にロマーノが顔を上げた。自身を咥えるロマーノのことをずっと見ていたので視線が絡み合う。よほどスペインの顔が切羽詰まっていたのだろう。目が合った瞬間、ロマーノの喉がひゅうっと鳴った。

「ロマぁ……」

 呼びかけるとロマーノが性器から口を離した。唾液と先走りの混ざったものだろう、彼の口端を粘着性のある透明な液体が汚していた。口だけではない。目もとから頬から顔中をグズグズにしていて、彼もまたスペインと同様に追い詰められているのがわかった。
 はあはあ、と荒く息を吐きながら見つめ合う。

(このまま突っ込んで、思いっきり突いて泣かして)

 揺さぶりたい。早く彼の体内に入れることしか考えられなくて、無意識で乾いた唇を舌で舐めていた。

「ロマーノ……ね、もうええから、はよ入れたい」

 名前を呼ぶ声は低く掠れていた。けれど、そんなことに構ってられなくて、今にもはち切れんばかりに張り詰めている欲の象徴へと視線を下げる。ロマーノもぼんやりとした目を逸らすことなく、スペインの言葉に素直に従い、手を体に沿わせて下ろしていく。ふれてもいない彼の性器はすっかり立ち上がっていて、だらだらと透明な液体が零れ濡れていた。淫猥な光景に目が細くなる。
 見開いた目が乾いてゴロゴロとした痛みすら感じたが、視線を逸らすことはできなかった。時間が過ぎるのがひどくゆっくりに感じる。凝視するスペインから逃れるようにロマーノが身をよじったが、名前を呼んで引き止めた。隠してしまうだなんてもったいない。逃げることを許さない強さで見つめる続けていると、やがて観念したのか、ロマーノの指が体の奥へと伸ばされる。
 暗くてそこがどうなっているか鮮明には見えなかったが、肘から伸びた筋がグニグニと動くのが見える。突き立てた長い人さし指が、ゆっくりとロマーノの体内へ埋められていくのがわかった。は、とひと息吐いて中をかき混ぜ始める。

「はっ……ぁ、ん」

 ロマーノの苦しそうなあえぎ声に艶が混じるようになるまで、そう時間はかからなかった。顔を見れば、重そうなまぶたを一生懸命に開いて、頬を真っ赤に染め上げ眉根をきつく寄せている。扇情的な表情に頭の中が煮立っていった。

「ン、ぁ……はっ」

 時おり短く上がる嬌声が色付いたものになってくると、彼の目尻から涙が零れ落ちた。

「ロマーノぉ」

 間延びした声はどこか平坦で、感情のこもっていないものになった。ロマーノが薄目を開いてこちらを見やる。彼の腿に自身の性器を擦り付けた。半端に煽られたまま放っておかれているそれは、萎えるどころかいっそう膨らみ硬さを増していた。

「ぁ……ン、かたい、……な」

 この状況でも挑発的にニヤリと笑って煽ってくるのをやめない。生意気な態度に余計に興奮して腰を押し付ける力を強くする。
 スラリと伸びる真っすぐな足は、彼の逃げ足を支えるための薄い筋肉がバランス良く付いていてとても綺麗だ。細いくせに肉付きの良い腿を、先端から溢れる先走りの液で汚していく。その背徳感に再び頭の中が煮え立って、執拗に腰を押し付けていた。

「ンぁ……ふ、ッ……ぁ、ん」

 ロマーノは、うっとりとまぶたを閉じて感じ入る姿を見せ付けてくる。いつもはなかなか聞かせてくれない声も、こんな時に限って抑えることもしない。可愛さが余って憎たらしいほどだった。

「今日はやけに煽ってくるんやね」
「……燃えるだろ?」
「そんなんして、後で泣いても知らんで」

 言いながら腹筋を使って上半身を起こす。態勢が変わったせいか背中の後ろで結ばれていた紐に少し隙間が生まれて、ギチギチに食い込んでいたそれが緩んだ。せき止められていた血が巡りだしたのか、手先が熱くなっていく。
 勝手に体を起き上がらせたスペインに、間近に迫ったロマーノの唇がムッと尖らされたのがわかった。構わずに噛み付いて濡れそぼった口の周りを舐め取ってやる。先ほどまでスペインの性器を咥えていたせいか、いつもは甘く感じられるはずの彼の唇が青くさくとても苦い。目の前の瞳を覗き込みながら視線を逸らさず丹念に口もとを舐め続けていると、ロマーノはとても嫌そうな顔をした。ギロリと細められた瞳に笑いかけてやって、優しく下唇を唇で挟み柔く歯を立て甘噛みを繰り返す。何度も何度も執拗に続けていると、遂に彼も諦めたのかまぶたが閉じられた。今日はまだ一度もキスをしていない。彼だって物足りないはずだと勝手に決め付けて、舌を口の中に差し入れた。角度を変えて深く口付け、彼の唇から自分の精液の味がしなくなるまで吸い続けていた。

「ふぁ……っ」

 音を立てて唇を離すと、キスの余韻かロマーノはどこかぼんやりとして、焦点の合っていない瞳をどろりと向けてくる。

「ん、……もう、ロマーノってば全然チューしてくれんもんな」

 あからさまなからかいの言葉に怒ることもなかった。大人しくしてくれているのならば都合が良いと、その間にあぐらをかいて自分の膝の上に跨るよう彼を誘導する。
 ロマーノが先ほど自身の手でほぐしていた後ろの孔へと性器を宛がうと、きゅうと吸い付いてくるのがわかった。奥の熱い襞がスペインの侵入を待ち望んでいるかのように蠢いている。そのまま腰を押し付けて先端を尻に擦り付けていると、ロマーノが正気を取り戻したのか慌てたように声を上げた。

「ちょ、ちょっと……、ぁっ……ン ま、待て!」
「ムリや、待たれへん」

 言いながらも先端を押し付ける。少しだけ中に入った気がしたが、すぐに跳ね返されて表面を滑った。互いの先走りでぬるぬると濡れているそこは滑りが良く、擦り付けているだけでも気持ちは良かったが、煽られすぎて膨らんだ欲はそれだけでは物足りないと、さらなる刺激を求めている。
 常にはない性急なスペインの態度にロマーノが目尻を赤く染める。すでに顔中、真っ赤でその変化はわかりにくかったが、そっぽを向いて視線を下げる仕草からも彼が照れているのが伝わってきた。
 耳もとに唇を寄せて、ふうっと息を吹きかける。なあ、と囁くとロマーノの首が縦に振られた。
 スペインの性器に手を添えると、ゆっくり腰を下ろした。よく慣らしてあったせいか、あんなに拒まれていた狭い内部にすんなりと侵入を果たす。一番膨らんでいるところが呑み込まれると、その勢いでずるりと根元まで入っていった。ぎゅっと首の後ろに回された腕に力がこもり、しがみ付かれる形になった。向かい合う姿勢で抱き合っていると彼の声や呼吸が耳のすぐそばで聞こえてきて知らず興奮した。

「はあ……ぁ、ン」

 満足げに吐かれた吐息が耳裏にかかる。ロマーノの熱い内壁に包まれた自分の性器が更に膨らんだのがわかった。ひぃ、とロマーノの悲鳴が上がる。覗き込むように睨み付けてくる視線は、中に入れたまま大きくするなという非難の意味がこめられていたのだろうが、涙に濡れて真っ赤な瞳では逆効果でしかない。中で自分のものが大きく脈打ったのがわかった。それに反応したのかロマーノの入り口が収縮してスペインを締め付けてくる。応えるように下から突き上げ軽く揺さぶると、はあ、と甘い吐息を漏らされ余裕を奪われる。
 身じろいで態勢を立て直そうとすると、振動のせいか再び性器を締め付けられた。その強さに奥歯を食いしばって息を詰め耐えているとロマーノが微かに笑ったのがわかった。眉根をきつく寄せて苦しそうな表情で、力なく微笑む姿に胸が締め付けられる。

「きもち、い?」
「ん……めっちゃええで」
「ふうん、……なあ、これは?」

 ロマーノの内壁が波打つ。奥へと吸い込まれるように轟き吸い付いてくる襞に持っていかれそうになった。

「ロ、マーノ……ッ!」

 至近距離で見つめ合った瞳は弧を描いていた。わざとやっているのだとわかって顔をしかめる。余裕なんてとうになくなっているし、今はそんなじゃれ合いを楽しむ気力も残っていない。しかし、ようやく収めた体内は収縮を繰り返し、ロマーノは気まぐれに腰を揺らしてくる。その度に体に緊張が走り強張った。煽られ続けた性器は些細な動きにも敏感に反応して、凝りもせずに先走りを迸らせている。果たして目の前で楽しそうにしている恋人は、内部を濡らすものに気付いているのかいないのか。どちらにしても決定的な摩擦を与えてはくれず、またスペインのことを放ったらかすように動きを止めて焦らしてくるのだから堪らなかった。
 うう、とうなっていると、ぎゅうっと抱き付いてくる。いつもならば諸手を挙げて喜ぶ甘える仕草も、今はただ拷問のようにしか思えなかった。ピッタリと引っ付いた肌の滑らかさや、近付いてきた匂いにすら反応し、血が腰に集まっていく。心臓が破裂しそうなほどうるさく鳴っていて、ロマーノの胸にも打ち付けているようだった。
 もはや快楽を追うことしか考えられなくて、みっともないぐらい情けない声で懇願をした。頼むから手を自由にしてくれとねだると、うん、とだけ返ってくる。

「なあ、お願い……もう、ガマンできへんねん……ッ」
「もうちょっとだけ……、お前がそういうの、珍しいから」

 このままでいたいと囁く声に目の前が真っ白になる。可愛らしいロマーノのワガママならなるべく聞いてやりたいが、今はそんな余裕がない。ムリだと首を横に振るが、抱き付いてくる腕の力は緩められず、スペインが自ら動く術も奪われてしまう。
 早く思う様に奥まで突いて泣かせたい欲求と、ままならない実際の状況に挟まれてジリジリとせめぎ合っている。
 ロマーノの鼻に、額に、顎に、頬にキスを降らせていく。甘い吐息の合間に何度も囁いた。言葉はほとんど声にならなくて、吐息だけのような囁きだったが、ほとんど隙間なくくっ付いて至近距離にいるロマーノには間違いなく聞こえているだろう。

「ね、もう限界……ロマーノが可愛いから、ガマンできん」
「ン……ぁ」

 頼むから、と哀願すると、スペインに抱き付くロマーノの体が震えだしたのがわかった。耳に、うなじに唇を寄せていく。

「好き……ロマーノ、おねがい」
「ふ、ぅ……ァ、ん」

 手が動かない分、肩を突き出して彼にふれようとする。ふれ合った肌の温度はもうわからなくなっていた。

「……ッ!」

 ほとんど身動きがとれない中で何とか腰を回してみると、ロマーノが、ア、と小さく声を上げた。その反応を追いかけるように僅かな隙間を作ってどうにか動かしてみる。

「だ、め……だめ、だって…ぇ、ンぁ」

 脳裏がグラグラと燃え上がっていた。目の前の肩に噛み付いて暴れ出しそうな熱を押し留める。ロマーノが痛いと泣いたが、その声すら興奮の材料にしかならないのだ。
 腹筋の力だけで腰を上下に振っていると、次第にロマーノもその動きに合わせて動いてくれるようになった。時おり良いところに当たるのか、高い声で鳴く。その嬌声を頼りに不自由な体で狙いをつけていくと、ロマーノが身をくねらせた。

「ぁ、あ……んァ っ! あ、ぁアあ! あンぅ」

 緩やかだった動きが徐々に快楽を求め始め、確かなものになるにつれて大胆になっていく。
 上下に体を揺さぶりながらスペインの性器を抜き差し、自分の良いところに当たるよう腰を揺らすロマーノがひどく淫猥で。

「は……ッ、そんな、ええの? 俺の、コレ」

 彼の羞恥を煽るような言葉をかける。ロマーノは首を横に振って違うとうわ言のように繰り返したが、そうではないことは彼の反応から明らかだった。

「嘘やん……俺、何もしてへんで?」

 お前が動いているのだと背を反らして見せ付けてやると、ロマーノの目が見開いた。涙でグズグズの瞳に舌を伸ばしてべろりと舐めてやる。しかし、スペインが吸い取った後から、どんどんと涙が溢れてきて止まることはなかった。
 恥ずかしいのかロマーノは目を強く瞑ったが、それで動きを止めることはなかった。むしろ、腰の動きは激しくなっていて、高みに上り詰めようとしている。

「う、ん……ぁ、あ……ぅ、はっ、あ あァああ!」

 タイミングを合わせて下から突き上げてやると、一際高い声が上がった。ロマーノの手先がピンと伸ばされ体が強張る。

「気持ちええ?」
「ン、ん……っ、あァあぅ……ッ! い、い…イイ、よ!」

 一度、口にしてしまえば理性もなくなるのか、堰を切ったように気持ち良いとそればかりを繰り返す。もう自分が何を言っているのかもわからなくなっているのだろう。

「ひぁ、ぅあ ンぅ! は、ぁ あァああっ、あ!」

 ロマーノの体が強張りブルブルと震えだした。ひっきりなしに上がっていたあえぎ声が不規則に途切れ、その度に息を止めて肩を跳ねさせる。全身に力が入るせいか、体内にあるスペイン自身も容赦なく締め付けられた。まるで絞り上げるかのように轟きに強い射精感を覚えたが、体がその快感を追いかける前にロマーノの体が弛緩しビクビクと震えだした。ずるりと抜かれた性器を腰ごと押し付け奥深くまで突き入れた。ロマーノの背が弓なりにしなり、スペインにしがみ付くように手を伸ばされる。

「や、だ……あ、ァああ! すぺ、スペイン……! ふぁっ!」

 構わず怒張した性器を先ほどから何度も当ててきていた前立腺と思われる内部のしこりに擦り付けていると、ロマーノが呼吸を忘れたように息を詰めて何かに耐えていた。そうして、しばらく腰の震えが止まらなくなり、痙攣しているよう全身を引きつらせている。スペインの性器を咥え込んだ入り口に信じられない力が加わって、決して離さないかのごとく噛み付いてくる。

「くぁ……ぅ、ロマ……!」

 堪えきれずに漏れた声にロマーノがビクリと体を強張らせた。そのまま腰の動きだけで緩く揺さぶっていると、二人の間で挟まれていた彼の性器から勢い良く精液が吐き出される。

「はっ……はあ、はあ」

 出し切るまで惰性のように腰を揺さぶると、ぐったりしたロマーノがしなだれかかってきた。やがて、体の震えが治まるにつれて、上げ続けていた嬌声もやんだ。ロマーノは唾液が垂れるのも構わずぼんやりした眼で虚空を見つめている。余韻が抜けきらないのか、時おり体をビクリと跳ねさせうっとりした姿が凄艶で。

「ァ……、んぅ きもちい……」

 思わず零れた本音、といった風だった。スペインに聞かせるつもりもないような小さな声だ。ともすれば聞き逃してしまいそうな、けれど確かに聞いた。それが決定打だった。
 手首をひねり両手を上下に揺らして態勢を変え、できた隙間を広げるように無理やり親指を引っかけた。そのまま、皮膚が擦られ擦り傷ができるのも構わず紐をずり下げていくと、結び目のひとつがほどけた。緩くなった輪っかから手を抜いて、ようやく自由になった手首を上下に振った。

「いったー……ほんまむちゃくちゃするなあ」

 ずっとスペインの手を戒めていた紐の細さにも驚く。せめてタオルとか、もう少し痛くなさそうなものを選んでほしい。スペインがロマーノを縛った時は、彼を傷付けないように柔らかな布を使ったのに。
 今は興奮で痛みがそれほどわからなかったから、まあ良いだろうと切り替えて、いまだぐったりと横たわるロマーノに覆い被さった。一度も精を吐き出すことなく、今も張り詰めたままの性器を彼の体内に埋めたまま、ゆっくりと彼をシーツへ押し倒していく。

「ひ、ぁ……ン」

 挿入する角度が変わったせいか、ロマーノの声が引きつった。けれど、まだ意識がはっきりとしていないのかどこか視線は茫洋としたもので、スペインのされるがままになっている。落ち着かせる暇を与えず、腰を強く掴んだ。男のものではあるが、スペインと比べて肉の薄い彼の腰にゾクリとする。
 そのまま埋めていたものを入り口まで引き抜いて、素早く奥まで突き入れる。すると、ロマーノの口から嬌声が上がった。

「ァああ、ンぅ! ふ、ぁ…はっ、あァああ!」

 抜き差しを繰り返し、徐々にスピードを上げていく。中をかき混ぜ、腰を揺さぶり、ひたすら責め続けていると、入り口がスペインを引き絞るようにギリギリと収縮した。全身がビリビリと痺れて神経が鋭敏になっていく。力付くで体を引き寄せ、肩の上から抱き込んだ。身動きが取れなくなったせいか、ロマーノがちぎちぎと鳴いた、気がした。
 力任せに抱いたせいか、苦しそうな声が上がった。しかし、もう構ってられない。何度も掴みかけては遠のいていった感覚がすぐ目の前までやって来ていた。視界が真っ白になって、何も考えられなくなった。襲い来る濁流に逆らうことなく呑み込まれていく。
 焼き切れていく思考の最中、抱き寄せたロマーノが緩く微笑んだのが見えた。満足そうな表情に、一度や二度では終わらなそうだと悟って心の中でそっと謝る。僅かに感じた罪悪感はすぐに熱に攫われていった。謝るのは目が覚めてからでもできると、明日の自分に丸投げして、ただひたすら目の前の体に溺れていったのだった。

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