満月の特別なふたり前哨戦

LasFallasのおさださんの「満月まで待って」の三次創作です。
満月の度に発情してしまうという病気のロマーノと付き合っている親分が、思いのほか激しく迫ってくるロマーノに先にダウンしてしまうという話です。(この親分のリベンジ編をおさださんの新刊に寄稿しています。)
詳しくはおさださんのサイトへ※R18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。

ロマーノに対して不満があるわけではない。確かに彼は不器用で口が悪いが、そんなところも含めて可愛らしい恋人だ。スペインの過去だって顔を青ざめさせながらも受け入れてくれた。マイナスなイメージが付き纏っているはずのセックスだって制限はあるものの許されている。ともに暮らす日々は順調で、けんかをしてもどちらかが拗ねればどちらかが折れた。さらには愛娘のくつしたもすくすくと育ってくれて、ふたりによく懐いている。
一体何の不満があるのだろう。愛する人と慈しむべき家族。まさに幸せそのものだ。世界を呪っていた頃のスペインには考えられないような平和でやさしい日々だった。
そう、不満はない。ないのだけれど、多少の物足りなさを感じてしまうのも確かだった。

「なあ、ロマーノ……」

寝る用意を済ませベッドでくつろぐロマーノの耳もとに唇を寄せた。風呂上がりの彼の髪からはシャンプーの良い匂いがする。

「スペイン」

指通りの良い髪を撫でているとロマーノが振り返る。黄色みの強い瞳はまるで狼のように夜闇の中でかがやいている。気の強そうな眼差しに思わず生唾を飲み込んだ。ゆっくりと瞬きをして見つめていると、ロマーノの唇が薄く開かれる。血流が良くなっているせいか、常より赤い色をしていてしっとりと濡れているそれは小悪魔的な魅力があってスペインを誘惑した。

「疲れてんだよ。今日はしたくない」

かたちの良い小さな口の奥にチラチラと舌が覗く。そっけない返事にすらどうしようもなく興奮して、どくどくと心臓が高鳴った。

「ロマは寝とったらええよ、俺が全部やるし」
「……昨日もそう言って散々ヤったじゃねぇか」
「やってロマーノ途中でバテるんやもん。新月で我慢しとった分取り返せてへん」

こめかみにキスを落としながらねだるような甘い声で乞うと、ロマーノが僅かに肩を震わせる。その手を取って気障ったらしく口付け、至近距離で瞳を見上げた。体内にこもった熱を伝えたくて視線に乗せればロマーノが眉をひそめた。ぎゅっと眉間にしわを寄せる仕草に煽られる。

「スペイン……っ」
「なあ、ロマーノが足りへんねん……」
「ん……だめ、だって」

そんな甘ったるい声でだめだと言われたって、誘われているようにしか聞こえない。互いの吐息がふれ合うほどの距離でロマーノの声が揺れる。

「優しくするから……」

一回だけでええから。そんな確約できないような約束で以って是と言わせようと躍起になる。
ロマーノが顔をしかめた。

「だめ……だっ。今日はもう寝るんだ」
「明日ちょっと寝坊したらええやん、朝飯は俺が作るし」
「も、やめろって言ってんだろ……」

睨み付けてくるロマーノに首を竦めつつもどうしても諦めきれなくて、往生際悪く腰を撫でていると遂にぺしりと手を叩き落とされてしまった。

「手ぇ出してくるって言うなら一緒に寝ないぞ」

これにはさすがのスペインも諦めざるを得なかった。

「……わかった、何もせぇへんよ」

両手を挙げて降参の意を示せば、あからさまに安堵して見せるロマーノに複雑な気持ちが込み上げる。
今日は新月から四日目、月齢五の夜だ。昨晩はお預け解禁とばかりに行為に及んだのだが不完全燃焼だったスペインはまだ熱が燻っている。今日こそはと、一日期待して過ごしていただけに落胆もあった。
はあっとため息をついた。ロマーノが申し訳なさそうな顔を見せる。先ほどの有無を言わさない態度とは打って変わって不安げな表情をするのが儚く感じて、慌てて取り繕うように

「もう何もせえへんから、一緒に寝よ」

と、わざと明るい調子で言ってみせた。期待していた分がっかりもしたが、別に罪悪感を感じてほしいわけでもない。シーツに横たえた体をぎゅっと抱きしめてやると、ロマーノもホッとした様子で身を委ねてきた。それを愛おしく感じて、そうだロマーノとはセックスだけが全てじゃないんだと自分に言い聞かせた。可愛い、守りたい、それだけで済めば何の問題もないのに。

「……おやすみ」
「おやすみ」

安心しきって目を閉じたロマーノに視線を落としつつ、明日はできるのだろうかとあまり期待できなさそうなことを考え、その脈のなさにがっくりと肩を落とした。

元よりロマーノとは「時々」という約束だった。さらには新月周辺の前後五日間は何もできない。その時期にどうしてもしたければ自分で慰めれば良いわけなのだが、同じ屋根の下に恋人がいるにも関わらず自慰に耽るなんて、どうにも情けなくてむなしい話だ。せめてロマーノがそばにいてくれればまだ何とか、と思ったのだが、そんなスペインのささやかな願いは顔を真っ赤にしたロマーノによって即座に却下され聞き入れてもらえなかった。
おかげで全然足りていない。何がと言えば、ロマーノとのセックスである。もちろんロマーノの具合が悪いわけではなく、むしろそういう意味では良すぎるぐらいで余計に困っている。
回数がこなせていないためか、はたまた発情期の後ろめたさでセーブがかかっているせいなのか、ロマーノは普段のセックスにおいて淡白すぎるきらいがあった。しかも体力もないからすぐにバテてしまう。スペインとしてはまだできるんじゃないのかと思うのだが、ぐったりした面持ちでもう無理だと泣いて訴えられれば無理強いすることもできなくて、結果的に発散しきれない熱を持て余したまま終わる夜もある。先に眠ってしまった彼の横でひとり抜いたりもした。そういう時の射精後の倦怠感とむなしさが通常の比ではなくて、なるべくしたくないというのが率直な感想だ。
力任せに抱きたいと思わなくもない。スペインの性欲はごく健康的な成人男性のそれで、ロマーノのように自制する必要もなかったから、今の状況は生殺しとまでは言わないものの辛いものはある。できれば我慢などせずに衝動と情熱のままに想いをぶつけ、彼に応えてもらいたい。あの潔白すぎるぐらいに性欲から遠ざかろうとする彼を快楽の淵に追い詰めてぐちゃぐちゃに感じさせ、まだ若い体を、彼の感覚を、全て支配して征服したい。本人には聞かせられないようなどろどろとした欲求は、ロマーノを愛するがゆえに込み上げてくるものだ。
その一方で、強引になることをためらってしまうのもまたロマーノを想っているからこそだった。もちろんロマーノに嫌われたくないのもある。だが、家出をして当てもない旅をするほど自身の性欲を嫌悪していた彼のことを思えば、気軽に大丈夫だと言いくるめるなんてできなくて、かくしてスペインの煩悶とした夜は増えていく。
スペインにとって幸いなことは、ふたりには月に二回だけ特別なセックスができる日があることだった。それが満月、そしてその前兆である。その時ばかりはロマーノも、本能のままに過ぎた快感を受け入れ快楽の指令に従順になる。自ら積極的に誘って求めてくる姿はスペインを大いに喜ばせたし、大胆に乱れ喘ぐ姿は大変可愛らしい。それは日頃の欲求不満を満たすには十分な刺激だった。
だからスペインが物足りない夜に、早く月が満ちてくれと願ってしまうのは仕方のないことだろう。月齢カレンダーを見て早くはやくと急く心は贅沢だと知りながらも、抑えられるものではない。

その時はちょうど多忙とタイミングが合わないのが重なって、十日ほど無沙汰になっていた。忙しいと言ったって、スペインのほうは体力も性欲も持て余している。今晩こそはと決意しつつ、すげなく断られた夜の記憶が蘇る。
しかしロマーノのほうも同じだったのか、普段なら前日にやってくるはずの前兆がまだ満月の三日前だと言うのに早まってやって来たのだ。久しぶりだったのもあった。その日ふたりは発情期であることを差し引いても、相当盛り上がっていた。

「っんぅ……、ふ」

キッチンの流し台にもたれかかり、覆い被さってくるロマーノの腰を抱き寄せる。吸い付く唇はやわらかく、ふれた先からじりじりと熱を生んだ。薄っすらと目を開くと、顔を赤らめたロマーノが懸命にまぶたを閉じようとしているのが見える。何度か音を立てながらふれては離れる唇が、スペインの口端に押し付けられる。ちろちろと下唇を舐められて、やわく歯を立てられた。すでに余裕をなくしていたスペインは、忙しなくロマーノの背中をまさぐる。それがくすぐったいのか、彼は僅かに首を竦めた。構わず背骨を指先で辿り腰骨からさわさわとくすぐっていくと、スペインの腕を掴んでいたロマーノの指先がぴくりと反応を示した。

「ロマーノ……」

息継ぎの合間に名を呼べば、自分でも驚くほど低い声が出た。ロマーノがうつむき、視線をさまよわせている。背中から辿った手のひらを首の後ろに置いて上を向かせた。潤んだ瞳がスペインを見据える。口を開き唾液をたっぷりと絡ませた舌を出して見せると、つられたロマーノも無防備に舌を出した。

「ふ……ぁ、ぅ」

頭を引き寄せ口付ければ、反射的に引っ込みかける舌。それを強引に絡め取って表面のざらざらとした部分を擦り付ける。ぴくりと反応する体を抱き込んで深くふかく口内をまさぐる度に唾液がいやらしい水音を立てる。その度にロマーノが鼻にかかった甘い声を漏らすので、もっと引き出したくて愛撫が性急なものになっていく。
次第にロマーノの舌が甘くなっていく。それを味わうかのように、舌の根から側面、表側、奥へと丹念に舐める。

「あっ……く、んぅ」

口内にまで性感帯のある彼は感じ入ったような喘ぎ声を聞かせてくれる。何ていやらしい。舌先を尖らせて上顎をつつく。ぴくんとロマーノの肩が跳ねた。その頃には体から力が抜けきり、ずるずるとスペインへともたれかかってくる。崩れ落ちないように抱えてやりながら、引きずり出した舌に強く吸い付いた。

「ふぁ……あ、すぺ……んぅ」

指先が小刻みに震えている。もう立っていられないのだろう。縋るような仕草に頭の裏側が燃え立つのを感じた。

「はっ……ロマーノ、立って」

名残惜しく感じつつ唇を離す。一瞬ロマーノがそれを追いかけるように揺れた。煽られる。早口で立ち上がるように指示をしながら、腰を支えつつ起き上がらせようとする。しかし彼は踵を床につけた途端、かくんと腰を抜かしたみたいにへたり込んだ。

「え……っ」
「な、ちょ……! だ、大丈夫か?」

慌てて腕を伸ばした。ロマーノ自身も何が起きているのか理解できないのだろう、きょとんとしたあどけない顔を見せている。ぱちぱちと瞬く瞳。長いまつ毛の根元が濡れているのは、涙か汗か。

「あー……、そんなに良かった?」

気まずく思いつつ濁した言葉に、酸欠で意識がはっきりしていないのかロマーノがぼんやりとした視線を返してくる。それに頭の後ろを掻きながら、キスが、と呟けば、少し間があって徐々に彼の顔が赤くなっていった。面白いぐらいに変化する頬を見つめていると、ロマーノは耳まで真っ赤にして、は、え、と動揺しだす。その姿が先ほどのキスに夢中になっていた彼と結びつかなくて目まいがする。こんな初心な表情を見せるのに、この後はスペインですら手に負えないぐらい淫蕩に耽るのだ。
罪悪感にちりちりと胸を焦がされつつ、どうしたものかと思考を巡らせる。その後ろめたささえも癖になるのだから、どうしようもない。
実際には僅かな時間だったが、ふたりに奇妙な沈黙が落ちる。
先にそれを破ったのはロマーノだった。放ったらかされて手持ち無沙汰になった彼の指がスペインの服の裾を引っ張った。それに応えるように腰を屈めれば、おずおずといった風に、しかしやけにいやらしい声でおねだりされた。

「……な、なんでもいいから……はやく。いっぱい気持ち良くして……っ」

はあ、と呼吸を荒げて縋られて、燃えない男などいるのだろうか。衝動のままに座り込むロマーノを抱き起こし、担ぎ上げて寝室へと向かった。

「ッやぁ! はっ、やだあっ、スペイ、ン! あっ、あンん……やっ あァあっ!」

挿入した性器を入り口付近で抜き差ししながら、勃ち上がった彼の性に指をかけ上下に扱き上げる。すでに数度と精を放っているにも関わらず未だ萎えないそれは充血して真っ赤に腫れ上がり、白濁の液ですっかり濡れそぼっていた。ほとんど悲鳴のような嬌声を聞きながら手のひら全体を使って竿を刺激し、親指の腹で先端を苛めてやる。裏筋をぐりぐりと弄り、出っ張った膨らみを強めに握って押し潰す。するとロマーノはすすり泣きながらよがるので、ぐらぐらと煮え立った血液が下肢に集まってスペイン自身の質量を膨れ上がらせた。

「あ……っ、あァああ! う、ぁ……っ、んぅ! あ、あァあ!」

意味のなさない声を上げながら全身をガクガクと震わせ、襲いくる快感を耐えようとするロマーノ。髪を振り乱しながら強烈な感覚を散らそうとするのを許さず、容赦なく快感を与えてやった。手を動かす速度を上げる。時おり爪を立てて強弱をつけながら扱けば、ずっと弄り続けたせいで敏感になっているためか、ほどなくして彼は極めてしまう。

「ひっ、あァあ、ん―――……っ!」

シーツを掴み、眉をぎゅっと寄せて精液を零す。全身を使って快楽を追いかけ、感じ入る姿にどうしようもなく興奮した。何度も吐き出した後だったから、精液自体はもうそれほど量が出なかった。パタパタとシーツに落ちるそれを見やり、はあ、と熱い息を零す。全て絞り出させるつもりで大きく上下させると、どく、どく、と遅れて透明な液体が溢れ出た。それを見届け、そっと手を緩めてやる。

「はっ……あ、はあ……ぅ、あ」

不規則にびくびくと体を跳ねさせ射精の余韻に浸るロマーノの目はどこか虚ろで、焦点が結ばれていないように見えた。いったん休ませようと思った。挿入からこちら、ロマーノは立て続けに達している。さらに入れる前にも二回ほど射精させているので、これ以上はいくら発情期とはいえ限界だろう。
涙でぐしゃぐしゃになった頬に唇を落とす。ちゅ、と吸い付けばロマーノの肩が震えだした。労わるように優しく髪を撫でてやる。冬だというのに毛先には汗を含んでじっとりと重くなっている。

「ロマーノ、はあ……めっちゃ可愛え」
「ん、あ……あ、ふ」
「はあ、気持ちええの?」

意識が混濁しているのか、ロマーノはあっさりと頷いた。それがまた可愛くて、まぶしさに目を細めた。唇にキスを落としながら背中に腕を回す。
休ませるつもりなのに緩々と腰を揺らしてしまうのは、スペイン自身はまだ一度も達していないからだ。惰性で快感を追ってしまう。入り口ギリギリまで引き抜いた性器で浅いところを緩やかに攻めながら、心地良い快楽とどうしようもない征服欲を満たしていく。弛緩する体がびくびくと跳ねる度に思いがけない締め付けに襲われる。耐えるように眉間にしわを寄せて奥歯を噛み締めた。
普段ならばとうにロマーノの体力が尽き限界を訴えられているところだが、彼の体は貪欲に次の快感を求めはじめていた。
不意に気持ち良いところを突いたのだろう、ロマーノの背が弓なりにしなった。

「くっ……ぁ!」
「あァああ……ッ! ん、ぅ……ふ、ぁあっ!」

思いがけず入り口に引き絞られうなり声を上げると、ロマーノがそれ以上の声でしゃくり上げる。意外な反応に驚き目を見張るが、すぐにきつい胎内に敏感な先端が押し潰されて強い快感に襲われ、それどころではなくなった。

「あっ……あァああ、あ? ふっ、あっ! ん、ぁ」

どろどろとうごめいている襞がスペインの射精を促しているようで、反射的に少しばかり精液が漏れてしまった。一瞬達してしまったのではないかと焦る。

「―――っ! うぁ、ロマー、ノ……!」

しかしロマーノの中で硬度を保ったままの性器は痺れるような快感を伝えてくるものの射精した時のような強烈な感覚はなく、まだまだ貪りたいと訴えている。心臓が早鐘を打つ。痛いぐらいに体内を血が駆け巡り、頭の中が白く塗り潰されていく。
理性なんてほとんど機能しなかった。ただ目の前の体を掻き抱き押さえ付けることしか考えられない。

「あっ、あァああ! な、なんで、ぇ……あ、あン、ま……ぁ! まってぇ!」

まだ余韻の醒めきらない内から激しく腰を打ち付けると、ロマーノはほとんど悲鳴のような喘ぎ声を上げて体をくねらせる。それを力づくで抱きしめて、ひたすら自身の快感を追いかけた。はあはあ、と荒くなる呼吸が不規則に途切れる。ただ息をするだけでも処理しきれないほど背筋を這い上がってくる快感が強烈すぎて、何かを気づかう余裕もなかった。
腕の上から拘束したロマーノが暴れだす。彼もまた強い快感に苛まれ、本能的に逃れようとしているのだろう。それを許さずにガツガツと腰を打ち付ける。

「やっだぁ……ッ! あ、あぁあ、んぅ! はっ、すぺ、すぺいぃい……っ」

体全体でのしかかるように覆い被さり乱暴に弱いところを攻め立てれば、耐えられないとばかりにロマーノの脚が震えだす。限界が近いようだ。構わず突き上げを速めていく。

「あっ、あァああ―――!」

絶叫に近い嬌声を上げたロマーノの赤く腫れた性器からほとんど粘りけのない透明な精液が吐き出され、スペインとロマーノの腹を濡らした。びくつく体を抱きかかえて、休む間もなく突き続ける。

「ひっ、あ? ちょ、あ……っ! も、むりぃ、あァん! ふ、あっ」
「むり、ちゃうやろ……っ」

久しぶりに出した声はひどく切羽詰まっていて、自分のものではないようだった。喘ぎ声を上げ続け開きっぱなしのロマーノの口から唾液が伝い落ちる。涙で濡れ虚ろになった目がぼんやりと宙を見つめている。その視線に興奮して、ガンガンと警鐘を鳴らすように頭に響く。

「すご……っ、めっちゃ締め付けてくる……!」
「あぁ、あ、あ……っ」

もはや声すら出せないのか息を詰めて一際体を強張らせるロマーノが、埋めるスペイン自身を信じられない力で締め付けてくる。突き入れる度にめくり上がり、腰を引く度に引き止めるように動く淫らな襞がスペインに絡み付いて離れない。好き勝手に突き上げる度にロマーノが狂ったように善がる。
やがて腕の中の彼が急に大人しくなった。呼吸すら忘れたかのように、しんと静かになって全身を縮こまらせる。かと思えば小刻みに震え出して、ガクガクと激しく揺れる。脚に力が入っているのか腿の内側に筋が浮き出る。胎内の収縮も忙しないものになる。信じられないほどの力がかかり、性器に鋭い快感が走る。

「ひぅ……っ!!」

ロマーノの目が大きく見開かれるが、震えっぱなしのロマーノを押さえ込んでひたすらに抽挿を繰り返した。引き抜いては押し込む腰にじわじわと熱が集まって、やがて体の中心から激しい衝動がせり上がってくる。
どうしようもなく気持ちが良かった。視界がブレるのはそれだけ激しく動いているせいか理性が失われているためなのか。びくびくと跳ね続けるロマーノに促されるように強い射精感に呑まれる。

「くっ、あぁ、ろ、ま……!」

襲いくるそれに逆らわずに最奥へと突き入れた性器を爆ぜさせる。長く続く射精の間、腰を軽く揺らめかせながらもまるで中に刷り込むように精液を注いでやった。
しばらくそのままの態勢でいたスペインが、ほとんど感覚のなくなった自身をロマーノの中から一度抜き出した。はあはあ、と肩で息をついて陶酔から意識を引き戻す。はあっと息を吐き出せば白く濁る。それほど肌寒い室内が汗の浮いた肌を冷やしていく。心地良い気だるさに身を委ねながら、汗で張り付いた前髪を掻き上げた。

「んぁ……あぁ」

意味のなさないうわ言のような声を聞いてロマーノへと視線をやる。彼は未だ体を痙攣させていた。

「……っ!?」

まるで夢見心地でいるような、うっとりとした瞳にスペインは映っていない。もう愛撫だってやめているのに、ロマーノのそれは完全に快楽へと沈みきっていた。見やれば彼の性器は何も吐き出していない。それどころかくったりと首を垂れ、硬さもなくなっていた。

「もしかして、空イキしてるん?」

言いながら手を伸ばし、ふれてやる。途端に大げさに跳ねる体。そのまま扱き上げると、足がピンと伸ばされ踵がシーツを蹴り上げた。

「ふぁ……あ、あぁ」

力なく喘ぐもののやはり手の中の彼自身は硬度を取り戻さない。
発情期の彼はどんなに吐き出させてもすぐに力を取り戻し、尽きることのない精をスペインに見せつける。普段の彼は淡白なぐらいで、そもそも体力の限界を訴えられてここまで極められない。タイミングがずれてやってきた前兆とはいえ、こんな姿になるのははじめて見た。

「くせついてもうたんかな、イきっぱなしやん」

先ほどまで自身を収めていた後ろへと指を伸ばす。すんなりと侵入を許す結び目は期待したようにうごめいた。ああ、なんていやらしい。再びスペインの欲が力を取り戻すのを感じる。
指で前立腺を弄る。硬いしこりを指の腹で押し潰し、ぐりぐりと擦る。射精時と同じか、それ以上の強さで締め付け続ける入り口に興奮を覚えた。ここに突っ込めば気持ち良いことを知っている。中は熱くて、やわらかくて。すぐにでも挿入したいぐらいだったが、すぐには入れずに先ほど吐き出したばかりの自身の精液を掻き出すように指を動かし続けた。

「はっ……あ、も、すぺいっ」
「……ロマーノ、どうしてほしい?」

この期に及んで自分を求める言葉をねだる。普段ならば詰まってなかなか答えてくれないようなことも、理性のなくなった行為中は容易に引き出せる。

「あ、あぅ……いれて、スペインの、ほし……っ」

自分が何を言っているかもわかっていないだろう、その言葉に一瞬の安らぎを得る。そうしてすらっとした脚を掴み折り曲げると、再びスペインの性器を彼の胎内に埋め、尽きることのない欲に互いに溺れていったのだった。

ほとんど寝落ち同然で眠りに就いた翌日、疲れ果てたのだろうロマーノはなかなか起きてこなかった。ここのところ欲求不満が続いていたスペインは久しぶりに思う存分、愛おしい恋人を抱き潰したとあってふくふくとした気持ちで遅すぎる朝食の準備をしていた。

(はあ、しっかし昨日のロマーノは輪にかけて可愛かったなあ)

出すものも尽きてドライオーガズムに達した彼は、それでも満月が連れてくる発情期の呪縛からは逃れられなかったのか、ひたすらスペインを求め続けた。日頃の欲求不満もあって有り余っていたスペインも尽きることのない欲を吐き出し、妙にすっきりとした目覚めを迎えたのだ。
今日は満月前日、いつも通りの前兆がやってくる。昨夜あれだけ鳴かせたのだから、今夜は少し抑え気味でも良いかもしれない。明日本番がやって来るのだから、ロマーノだって一日で尽きた精を取り戻せないだろうし。
この時スペインは大事なことを失念していた。ロマーノの発情期が誰かによってコントロールできるものではないということを。ふたりがセーブしようと思って何とかなったことなどない。ただ溺れるような快感に力尽きて意識を落とすまで続く。だからこそ昨夜のロマーノに激しく求められたというのに、そんな大事なことを忘れていたスペインもまた、すっかり疲れきっていたのだ。

ロマーノが起き出したのは昼過ぎになってからだった。世界中の不機嫌を集めたようなしかめつらをする恋人を甲斐甲斐しく世話する。歩く気力もないのかベッドで半身を起こしたきり動かないロマーノのために、用意しておいた朝食を出してやる。もう朝という時間でもなかったが、彼は黙って出されたものを食べきった。

「頭いてぇ……」

こめかみを抑え頭痛を訴える彼の声は涸れて掠れていた。昨夜あれだけ声を上げればそうもなるかと、緩みそうになる頬を引き締めて水を飲ませる。

「今日はベッドで寝とき」
「……ん」

優しく頬を撫でて毛布をかけてやる。夜になれば再び穏やかではいられなくなるのだ。今の間にしっかり体力を回復させられるように仕向ける。
しかし前夜の情欲が尾を引いていたのだろうか。確かに寝かしつけたはずのロマーノは、まだ日のある時間から盛りだした。

「スペイン……」

起きた時は意識のはっきりしていた瞳が欲に濡れ、混濁している。カーテンを引く暇もなかったせいで窓から差し込む夕陽が、少し日に焼けたロマーノの肌を浮かび上がらせた。なまめかしく誘う若い体はふれると手のひらに吸い付くように滑らかだ。全身でスペインを興奮させる彼はしなやかで、おそろしいほどだった。

「ちょ、ろ、ロマーノさん……これ以上はヤってもイかれへんのやけど」

自分から積極的にスペインを求める彼を喜んだのも束の間。一瞬意識が遠のいた隙にロマーノに乗り上げられ、騎乗位で挿入された。珍しい体位を、ええ眺めやなあ、と思えていたのは最初のうちだけだ。立て続けに二度射精させられてからは地獄のようだった。大いに乱れ喘ぐロマーノに搾り取られ、それでもなお腰を振られている。出しても出しても終わりのない快感に恐怖すら覚えはじめた。
前戯がほとんどなかったのも災いした。普段以上に大胆なロマーノがもどかしいと言って挿入を望んだのだ。今思えば最初から飛ばし気味だったロマーノを、おかしいと思う余裕はスペインにもなかった。互いにどうかしていたのかもしれない。

「く……っぁああ! ちょ、ろま……ロマーノっ!」
「やだあ、もっといっぱいする……!」

ぐずぐずに蕩けた彼の中は熱くて痛いぐらいに締め付けてくる。そもそも何度も吐き出させられたスペインの先端はじくじくと熱を持ち敏感になっているのか、抜き差しする度に気持ち良いのかどうかもわからないような鋭い刺激が背筋を這い上がってくる。それに耐えきれなくて動きを止めさせようと腰を掴む。しかし強引な仕草に感じたのか、ロマーノの入り口が引き絞られる。

「くぁ……っ! く、そ……も、ロマ……ロマーノ!」
「ひぁ、あン……あっあ、ああァあ! はっ、あふ あぁ!」
「―――っ?!」

感じたくもないのに快楽に支配された脳が快感を得ようと刺激を欲している。無意識に腰を揺らめかせてしまい、それがロマーノの悦いところを突いたのだろう。彼は悲鳴を上げながらぎゅうぎゅうと締め付けてくる。思わず腹筋に力が入り込み上げてくる快感に耐えようとする。ロマーノが腰を浮かすので勝手に腰が引けるが、止めようとしても容赦なく動きを早められてスペインを追い詰めてくる。

「どこ、で……っ、こんなん、覚えてくんねん…」

情けなく絞り出したスペインの声は低く掠れて、途切れ途切れなものになる。それにロマーノが優越に塗れた瞳を向けた。にぃっと口の端を上げて目を細める表情は、何て淫猥なのだろう。
かく言うロマーノはもっとひどい有り様だ。充血した性器は真っ赤になっていて、かわいそうなぐらいだった。トロトロと透明な液体が溢れ出していたが、嬌声を上げながらも精液はほとんど出ていない。やはり昨夜から回復しきれていないのだろう、彼ははじめからほとんど熱を迸らせることはなく薄くなった精液をだらだらと零し続けていた。

「ひァあ、あぅ、あっは……あァ、んぅ、あっ!」

ロマーノが上に跨り動くと正常位とは違った角度で彼の中を抉ることになる。昨夜突いたところとは違う箇所に当たり、その度にロマーノが背を仰け反らせて嬌声を上げた。そもそも敏感なロマーノはどこもかしこも気持ち良いのか、入り口で揺すっても奥を突いても、悦楽に浸り快楽を得ている。おかげで中に挿入したスペインの性器は締め付けられ続け、感覚も麻痺しはじめていた。
頭の中がぐらぐらする。目の前が真っ白になる。

「はっ、も……イっく」

絞り出した声。奥歯を噛み締めるがせり上がってくる射精感は逃せそうにない。

「はっ、ん……、イって、なかぁ……だしてっ! あ、すぺ、スペイン!」
「くぅ……っ!」

言いながらロマーノが体をひねり後ろ手に挿入したスペインの根元を掴んでくる。熱い手のひらにふれられて、思考が焼き切れていく。そのまま上下に腰を揺すられ轟く内壁に促されるように、体内へと精液を叩き付けた。
目の前にチカチカと星が散った。どこかロマーノの声も、繋がっているところから響く水音も遠く感じた。絶頂を極めた余韻の心地良さを感じることはなかった。それよりも意識が遠のいていく。

「はっ、あ……ッ、あんぅ、あァああ! あ、ンあ」

シーツに横たえたスペインの体がびくびくと跳ねるが、まるで夢うつつを彷徨う時のようにぼんやりとしていてはっきりしない。そんなスペインに構うことなくロマーノが腰を振り続けている。

「ふぁ、あっ―――!」

ごぽり、とロマーノの先端から透明な液体が溢れ出し恍惚とした表情を見せるが、彼には未だ限界がきていないのか自分のペースで好き勝手に快楽を貪りだす。甘ったるい声を上げながら自分の快楽を追うその姿は淫靡そのもので、スペインを、男を食い尽くさんとする。
スペインは力の入らない体をシーツに横たえて、虚ろな目でロマーノを見つめる。可愛いと思う余裕はない。それでも性器だけは力を持っていて硬度を保っているので、ロマーノの胎内から引き抜かれることもなかった。

「ひぁあァ、すぺ、しゅ、スペイぃ……っ! きもち、あっ、ああ」

普段は言ってくれとねだっても絶対に口にはしてくれない卑猥な言葉を言いながら、動かなくなったスペインの上で踊っている。一体どこにそれだけの体力があるのだろう。病気がもたらす異常さを今さらながらに思い知って、気が遠くなっていった。
結局スペインは時折強い快感に無理やり起こされ意識を戻され、あたりがすっかり暗くなるまで付き合わされることになったのだった。

「こんなん! ありえへん!!」

翌朝、スペインはフライパンに卵を落としながら叫んだ。ロマーノは例の如く深い眠りに就いている。今日起きてくるのだろうか。
深夜に目を覚ましたスペインが最初に見たのは、萎えたスペインの性器を入れたまま折り重なるように抱きついて眠るロマーノだった。ロマーノよりも先に意識を手放したのは初めてのことだった。いつどうやって終わったのかも記憶にないが、当然のように後始末はされていないため、慌てて彼の中に吐き出した精液を掻き出し体を拭い、シーツを取り替えた。

「俺は自分が主導権握って好き勝手するのは好きやけど! されたいわけちゃうねん!」

確かに発情期の時のロマーノの性欲は並大抵ではない。昨日は常よりも激しかったが、だからと言って自分が先に力尽きるなんてあってはならないことだった。

「……今日大丈夫なんかな」

はあっとため息をつく。付き合いはじめてから満月に不安を抱くなんてことも初めてである。いつもは楽しみで仕方がなかったはずなのに。
ぐっと拳を握りしめる。

「絶対リベンジしたる……。アンアン喘がせまくって善がらせたんねん」

強く誓うスペインがその夜ロマーノの性欲に打ち勝てたかは別の話だ。

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