トゥルースオアデア

「トゥルースオアデアって知っとる?」
 ワインが空になり新しいボトルに手を伸ばそうとしたら、それを見ていたスペインが何かを思い出したように、あ、と声を上げた。何が楽しいのやらキラキラと顔を輝かせて長ったらしい呪文のような言葉を口にしているが、記憶を探らなくてもわかる。俺がそんな言葉を聞いたことなどあるわけない。自慢じゃないがこちとら英語なんか一切喋れないんだよ。社交的なヴェネチアーノならいざ知らず、そんな難しい単語なんか覚えらんねぇ。
「知らねぇ。けど、どうせアメリカ絡みなんだろ」
 英語だしな。
 おっと、失礼。しつこかったか? 一応言っておくと、俺は英語には恨みはない。ただ、スペインがペラペラ喋っているのを見るとインテリぶっているのが腹立つだけなんだ。それでじろりと睨み付けたらスペインが情けなく眉を下げた。
「ちゃうねん、俺もフランスとプロイセンから聞いたんやで。王様ゲームみたいなやつやねん」
 そうして続けられた言葉に、やっぱりとため息が漏れそうになった。想像した通りの『ろくでもない』メンツが揃っているじゃねぇか。あの二人から吹き込まれたってことは発信源はイギリスだろうか。何にしても嫌な予感しかない。
「あんなあ、歌うたいながら空のボトルを回していくねん。ほんで歌い終わった時にボトル持ってた人は他の人からの質問に正直に答えるか、答えられへんかったら服を一枚脱がなあかんの! こないだ三人でやったけどプロイセンがあっちゅうまに素っ裸になってもうておもろかったで」
「なんつうむさ苦しい状況だよ……。大体、お前らゲームなんかしなくても酒が入ったら勝手に脱いでんじゃねぇか」
「すぐ脱ぐのはフランスだけや。それにゲームやったら負けたないから本気でやるやろ?」
「知らねぇよ……」
「まああいつらのことはええねんけど。でな! それをやりたいねん、ロマーノと」
 そらきた。眉間にしわが寄るのがわかる。けれど、しょうがねぇだろ。何が楽しくて小さい時から保護者みたいに過ごしてきた男と、合コンみたいな宴会ゲームをしなきゃなんねぇんだ。
 俺がこんなに嫌だって気持ちを隠しもせずげんなりとしているのに、スペインは気付いていないのかやたらと上機嫌だ。鼻歌を歌いながら俺が持っていた空のボトルを取り上げて、そそくさとゲームの準備を始めちまった。
 テーブルの上にはつまみに出させた生ハムとチーズがほとんど手つかずのまま残っている。しかも、窓の外はまだ明るいので、飲みはじめてからあまり時間は経っていないだろう。酔ってしまうには早過ぎるが、スペインはシラフでも正気じゃないのでアルコールは関係ないのかもしれない。
 百歩譲って可愛い女の子がいるのならばわかる。ちょっとした下心と、ゲームで盛り上がって距離が近付けばいろいろ楽しいんだろうなあって思う。けれど、残念ながらここにはスペインと俺の二人しかいない。二人だ。つまり強制的にどちらかがどちらかに質問して答えられなかったら脱ぐことになる。それってボトルいるのか? ゲームの大前提からして揺らいでいるじゃねぇか。
「なあ、俺とお前でそれやって何が楽しいんだよ」
 こめかみに指を当てて呆れて言えば、スペインが大げさに目を見開いて固まっている。何だよ、その反応。逆に俺が「オッケー! ゲームやろうぜ!」ってなってもおかしいだろ。
「なんで? めっちゃ燃えるで! 相手が絶対答えられへんような質問考えるのおもろいもん」
「今さら俺もお前も答えらんねぇようなことねぇだろ。お互いてめぇの黒歴史知ってんだぜ」
「うーん、わからへんで。それに答えられへんかったら服脱ぐんやで?」
「裸だってさんざん見てきただろ。しかも野郎が素っ裸になったって何が楽しいんだよ、このやろー」
「わかってへんなあ。罰ゲームで一枚一枚脱いでいくんやでー。自分で、しかも相手の目の前で。絶対えろいやんなあ」
 ニヨニヨと笑うスペインに背筋が寒くなって思わず二の腕をさする。昔はこんなこと言うようなヤツじゃなかったんだけど、最近ちょくちょくこういった下ネタというか、変態ネタを挟んでくるのが本気で困る。
 思わず逃がれるように視線を逸らした。いっそのことこのまま聞かなかったことにしたいのだが、それはスペインの大きな手のひらに手首を掴まれ阻まれた。眉をひそめて顔を上げると、やたら真剣なみどりの瞳とかち合う。冗談混じりの緩い笑みを浮かべているくせに、目だけは笑っていない。掴まれた手が異常に熱くて軽く汗ばんでいる。ごまかしきれない雰囲気が気まずくなって眉をひそめた。
「だったら余計に嫌だろ」
「なんで?」
「なんでって……、俺とお前だぞ」
「そうやで。でもロマーノ、今さらって言ったやん」
「だけど……お前、俺のこといやらしい目で見るんじゃねぇか」
「そんな自意識過剰みたいなこと言わんといてよ」
「じゃあ、さっきの発言は何なんだよ!」
「うん、まあいやらしい目で見るけど、なんでそれが困るん?」
 埒が明かない。子供の駄々みたいなむちゃくちゃな理屈を捏ねくり回すスペインにイライラする。
 なんで困るかって、そりゃあお前が俺のことを好きで、俺もお前のことが好きだからに決まってんだろ! 俺はてめぇの裸には興味ねぇけど、そういう目で見られたら困るんだよ! 頭の中でいくら罵倒したって、わかっていながら首を傾げているスペインには一ミリも伝わらないんだけどな。むしろ今ここでそれを言えたらどれだけ楽か……言えないから、いまだに中途半端な親分と子分の関係が続いているんだけど。
 俺もたいがいヘタレだけど、この状況を放置してきたのはスペインにも原因の一端はある。こうやって思わせぶりなことをするわりに肝心なことを言わないんだ。
 だんだんイライラしてきて舌打ちを打つが、もうその時点で、あいつの手のひらに乗せられちまっているし俺のほうが分が悪い。わかってんだけど、なぜか言い合っている時は気付かないんだよな。それでいつも良いように踊らせれるんだから、堪ったもんじゃねぇよ。
「それともロマーノ、負けるって思っているん?」
 そうして、トドメのひと言がこれだった。後はもう売り言葉に買い言葉。
「あ? 誰が何に負けるって?」
「やってぇ、答えられへんようなこと聞かれるって思ってるんやろ? やから親分に裸見られんの気にしてるんちゃうん?」
「んなわけあるか。今さら言えないようなことなんかねぇよ」
「ふうん、ほんまにぃ?」
 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてあからさまな煽り文句。いつも勢いで言ったことを後になって悔やむんだ。
「んなこと言って、てめぇのほうこそ素っ裸になるんじゃねぇの」
「俺はロマーノに隠し事なんかあらへんよ?」
「はん、どうだか!」
「そんなに言うんやったらやってみるか?」
「おう、後でほえ面かくなよ!」
 かくしてゲームは始まったのだった。

 歌を歌いながらボトルを回すという行為には何の意味も感じられなかったので省略することにした。交互に質問をして答えられなかったら服を脱ぐ。これ以上、脱げないところまできたら降参して負けになるわけだ。至ってシンプルなルールである。
 最初に質問を出してきたのはスペインだった。それはじゃんけんで決めた。
「ほな、いくで。昨日の夜、メール返ってこぉへんかったけど何してたん?」
「あん? 楽勝じゃねぇか。寝てた」
「ほんまに?」
「こんなとこで嘘ついてどうすんだよ。大体、昨日きてたメールってお前が近所のノラ猫と仲良くなったとか何とかって、どうでも良いやつじゃねぇか」
「……ロマーノ、嘘ついてる時は俺の目見いひんよね」
 言われて視線を上げるが、なぜかスペインの顔を真正面から見れずに俯いてしまう。首がグギギ、と固まっているみたいに動かない。あれ、あれ。おかしいな。
 ぎこちない動きで視線をキョロキョロさせていると、スペインがおもむろに腕を組んで鼻を鳴らした。俺がガキだった頃からの、説教をする時の姿勢だ。
「言っとくけど、嘘なんかすぐバレるんやからな。さあ、何してたか吐いてもらおか!」
「ちぎー!」
 迫ってくるスペインから身をよじって逃げようとする。が、こういう時は負けず嫌いで絶対に譲らない男だ。きっと俺が答えるか服を脱ぐまで退かないだろう。
 それで渋々、質問に答えることになった。
「ちっ……。昨夜はあれだ。女の子をナンパしてたんだぞ、このやろー」
「もう、なんで嘘つくねん」
「う、うっせ! 言いたくなかったからに決まってんだろ!」
「ああ、失敗したん? ロマーノ成功したことないんやから落ち込むことないで」
 何気に失礼な事を言ってくるが、事実なので言い返せない。ちくしょう、今に見てろよ。
「じゃあ、次は俺の質問だっ! 先週、髭と芋やろうと飲みに行くっつってたけど、本当は何してたんだ?」
「本当も何も飲みに行っとったよ?」
「ふうん、あいつら俺ん家の近くでウロウロしてたけど」
「え?! なんでや!」
「ついでにセクハラされたけど」
「なんやて! 許さへんで!」
「で、お前は何してたんだよ」
「……」
 今度はスペインが視線をさまよわせる番だった。こいつは嘘をつく時、小鼻が少し膨らみ眉が跳ねる癖があるのでわかりやすい。
「おい、スペイン」
「……近々、ロマーノをそそのかして女装させたろうと、衣装を買いに行ってました」
「ほほう」
 まさか、そうくるとは思っていなかったが聞いておいて良かった。変態やろーのとんでもない企みを事前に潰せたことに少し気を良くしながら、その時買ったという服を出させる。スペインはせっかく用意したのにと渋っていたが、最終的には妙に派手なネグリジェを持って俺の前に差し出した。やたら布の面積が少ないくせにサイズだけは大きくて、確かに男用に仕立てているっぽい。だけど、俺がこんなもん着るわけねぇだろ!
「没収だ」
「やめてやー! ちゃんと仕立ててもろたから高かってんで!」
「知るか、ばか! そんなに言うならてめぇに着させるぞ」
「すみませんでした」
 大人しくなったスペインから服を取り上げて、くしゃくしゃに丸める。このゲームが終わったら処分しよう。
「うう、ひどいわ……」
「大体、なんだよこのケバいデザイン。男がこんなん着ても寒
いだろうが」
「大人しかったらええの?」
「良くねぇけどこれよりはマシだな」
 そっかそっかと頷くこいつが新たなろくでもないことを企てていたのだが、それを知るのはハロウィンになってからの話だ。
 しばらくそうやって軽いジャブで探りを入れていたが、互いに嘘は通用しないと悟ったあたり――ちょうど質問が五往復ぐらいした頃だろうか。スペインが核心を突いた質問をしてきた。
「ほな、次は俺な。ロマが小さい時、トルコにさらわれそうになったことあったやん。あの時、俺に助けを求めたやんな。なあ、あれなんで?」
 鋭いところにギクリと背筋が伸びる。聞いてきた当の本人は、なぜか頬を少し赤らめて照れている。もじもじしながらも期待に満ちた視線を向けてくるスペインのことを咄嗟に殴りたくなったが、ぐっと堪えて俺はカーディガンのボタンに手をかけた。
「え?! 脱ぐん?」
「答えたくねぇからな」
「えーそんなあ!」
 スペインは残念そうにしていたが、正直なところなんて一生言えるわけがない。あの頃の俺は、こいつに懐いていなくて嫌っていたという設定なんだから。
 恥ずかしがったら余計にやりにくくなると思ってカーディガンを脱ぎ去り、ソファの端に寄せた。まだこれぐらいなら大丈夫だけど、こんな質問が続いたらちょっとやばいかもしれない。
 焦りつつも、そういう質問もありなんだなって気が付いた。始めは下らないって思ってたけど、もしかすると普段は聞きたくても聞けないような相手の本音を引き出せるチャンスなのかもしれない。
「じゃあ、次いくぞ。あの頃、なんで俺と弟を取り替えようとしなかったんだ? それまでのヤツらはみんな替えてくれって言ってたぞ」
 オーストリアは嫌いじゃないが、あの家は息がつまりそうだったので俺としてはスペインの家のほうが良かったんだけど、あんなに弟を可愛がっていたスペインがそれを言い出さなかったのは不思議だった。ちょうど良い機会だし聞いてみようと首を傾げれば、今度はスペインが無言でシャツを脱ぎだした。
「え? な、なんでだ?!」
「答えられへんかったら脱ぐルールやろ」
「そんな答えにくいことか?」
 聞けば聞くほど、スペインが居たたまれないと言ったように視線を逸らすので、それ以上の追及はやめておく。元々、大して疑問に思ってなかったのに、スペインのその態度のせいで逆に気になったが、いつかわかる日が来るんだろうか。
 次はシャツを脱ぎ捨てタンクトップ一枚になったスペインが質問する番だ。
「プロイセンから聞いたんやけど。靴を買うより大事なもんってなんやったん?」
 これはおそらく俺が答えられないのを見越した質問なんだろう。こいつの想い通りになるのは悔しかったが、俺は期待された通りにシャツを脱いだ。
「潔ええなあ」
「言っとくけど俺に色気なんか求めんなよ」
「いやいや、男らしい脱ぎっぷりもけっこうそそるよ」
 気持ち悪いこと言いやがって、と思うのに上手く言い返せなくて黙りこむ。腹が立つし、絶対こいつが困るような質問をしてやるんだ。
「お前むかしから弟のこと好きだよな」
「イタちゃんかわええからなあ」
「俺より弟が好きだよな」
「そんなわけないやん! ロマーノはロマーノやもん。二人とも大好きやで!」
「へー」
「ほんまやって!!」
「じゃあ質問。本当は弟のほうが良かったって思ってただろ」
 スペインがついに上半身裸になった。ここで嘘をつけないスペインの馬鹿正直さは俺にとって複雑だ。わかっていたとは言え、やっぱりそうなんだなって思うと微妙な気持ちになる。
 勝負はカーディガンを着ていたおかげで俺のほうが一枚分有利だった。このまま順調にいけば勝てそうだとほくそ笑む。
 スペインは室内とは言え裸でいるには肌寒いのか、窓を閉めに行った。しょっちゅう見ているのに、晒された背中や腕のあたりが俺とは違い過ぎて、つい目で追いかけてしまう。いかにも硬そうな筋肉で覆われていて、腕を動かす度に盛り上がって強調される。
「よし、ほな次俺やで! オーストリアん家に行ってた時、何度か脱走してスペインまで歩いて帰ろうとしたってほんま?」
 それは絶対スペインにだけは言わないって約束しただろ! 思わず叫びそうになってぐっと堪える。大体、聞いてきている時点で知っているんだろって思うけど、だからと言って答えられない俺もたいがい素直じゃない。
 シャツの下に着ていたタンクトップを脱ぐと、スペインの視線が突き刺さる。検分するようにじろじろと見られるのは嫌だったが、見るなよと言えば、ロマーノも見てたやん、と返されてしまった。見てねぇよ! って言いたいけど、まあ確かに。実際は見ていたな。
 二人とも残りはジーパンだけだった。これを脱がせれば終わりだろうと真剣に質問を考える。
 今まで弟絡みのことを聞くとスペインは答えられないようだった。何か俺に後ろめたいことでもあるのかもしれない。だから、最後も弟のことを聞けば良いんだろうが、これだけはどうしても聞いておきたいことがあった。
「あの、さ。お前、俺のこと手放してたら、借金そんなに背負う必要なかったんだろ」
 先日からずっと気になっていたこと。スペインの家で読んだスペインの歴史の本に書かれていた一節がずっと心に引っかかっていた。あの時は上手くはぐらかされてしまったが、どうしても聞いておきたかった。
 けれど、スペインは否定する。
「それはちゃうよ」
「何でだよ。本にも書いてたぞ。新大陸の利益を俺につぎ込んだって」
「それを書いたやつがそう思っているだけや」
 スペインの顔を見る。ヤツは真っすぐにこちらを見ていた。鼻も眉もいつも通り、嘘をついている顔ではない。
「……負けたくないからって嘘つくんじゃねぇよ」
「ほんまやって。ほんまにあの時の俺じゃあ、お前がおってもおらんでも借金背負うことになってたわ」
 嘘偽りのない真面目な顔なのに情けない苦笑い。どうしてそんな顔をするのかがわからなくて言葉を失った。黙り込む俺を見て、ますますスペインの表情は困ったものになっていく。
「そういう情勢やったんよ。利益出たって言ってもちゃんとした運用なんか考えたことなかったしなあ」
「何だよそれ」
「やから言うたやん。宵越しのなんちゃらは持たへん主義やったって」
「……今もあまり変わってねぇな」
「ははは、痛いところ突かれてもうたなあ」
 最近もちょっと調子が良くなったからって欲しいもの買っていたような気がする。まあ、好きにすれば良いんだけれど。
「ロマーノはそんな昔のこと気にしとったん?」
「ちがっ……! あ、あれはページやろーのせいだ!」
「なんのこっちゃ」
 意味がわからないと首を傾げられる。その反応すら恥ずかしくて、勝手にちぎーと怒っていると、不意にスペインが真面目なことを言い出す。
「ずっと思っててん。お前じゃなくイタちゃんやったら、こんな深みにはまらんかったのにって。……貧乏が嫌で後悔してたんとちゃうで。それとは別でお前をそばに置いておくのがしんどかった」
 胸がズキッと痛くなる。顔に出たのかスペインが傷つかんといて、と苦笑した。
 いつまで経ってもこんなんなんだ。中途半端な親分と子分。スペインが俺のことを甘やかして、俺もそれにべったりで。
「でもお前につぎ込めるようなもんがあって良かったかもな。何もなかったら、今こうして一緒に飲んでなかったかもしれへん。……お前のこと守れて良かったと思うよ」
 絆されるものかって思うのに、頭を優しく撫でられ完全な子供扱いに流される。
 何だよ、スペインのくせに。大人ぶりやがって。俺はこいつのこういうところが嫌いだ。それに絆される俺も含めて。
 だからふてくされながら言った。
「……ゲームはどうすんだよ」
「あは、まだやるん? 言っとくけど俺はロマーノが裸になるまで降参せえへんでー」
「フン、俺はまだ質問してねぇぞ」
「え、さっきのちゃうかったん?」
「おう」
 ずるいわーと言いつつも、すっかり親分モードに切り替わっているスペインはニコニコと笑いながら、俺が質問を言い出すのを待っている。どうしようもないことを言い出した子供のワガママに付き合うような顔。言っておくけど、このしょうもないゲームをやりたいって駄々こねたのはお前なんだからな! それを忘れんじゃねぇぞ!
 しかし、俺としても何が何でもここで一泡吹かせてやりたい。
 それにはこれしかないだろう。わりとこのゲームの最初のほうからずっと考えていた質問。すうっと息を吸い込んで切り出した。
「俺、お前のことが好きなんだ」
「へーそうなん……ん?」
「こういうゲームで服を脱いだり、じろじろ見られたりすると困るぐらい好きなんだ。もう親分と子分はやめたいし……こ、恋人になりたい。スペインは」
 こういうのは服を脱ぐときと同じで変に恥ずかしがるとダメだ。勢いをつけて一気に言い切ろうとするが、途中で酸素が足りなくなって深呼吸をする。
「スペインはどう思う?」
 ちらりと窺い見れば、さっきまで余裕ぶった大人の顔をしていたスペインが、顔を真っ赤にして目を丸くしていた。まさか俺から言い出すとは思っていなかったんだろう。え? へ? と意味のない音を何度も口にして慌てている。
 案外言ってしまえば何てことないひと言だったな。俺から言ったからかもしれない。向こうから言われたら俺が今のスペインみたいに慌てていたのだろうか。
 いまだ、あたふたしている親分様を横目に、シャツとカーディガンをのろのろと羽織った。今度こそ新しいボトルに手を伸ばし、栓を開けると、スペインからの返事を待つのだった。

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