そのくちびるで囁いて

 ロマーノとはもう何度もセックスはしているし、そういったことをする関係になってから何十年と経っている。最初の頃は年上の見栄でつけていたはずの格好も、今や完全に剥がれ落ちて、セックスの始まりにすらロマンティックなムードや色気のかけらもない。いつも通り一緒にご飯を食べて、並んで皿を片付け、惰性でテレビを見ている最中に、何となく目が合ったタイミングでキスをするのが合図。当たり前のようにベッドへ連れて行って、我が物顔で服を脱がす間、ロマーノが何も言わなかったらそのまま抱く。きっと互いに相手の一挙手一投足にいちいち心臓を跳ねさせていたような初々しい恋心はなくなったが、今でも相変わらず飽きもしないでセックスをする。傍から見れば生産性のないこの行為に、意味なんて与える気もないが、いつだって目眩がするぐらい幸せを感じられる。
 しかし、いくら日頃からムードがないとは言え、さあ始めましょうとお互い全裸になった途端、ロマーノがゲラゲラと笑い出したのには困り果てた。その日のスペインが無口でいたのが珍しかったらしい。いつもならスペインのほうがうるさいぐらいに喋って、「もう黙れ」と怒られるぐらいなのだが、いざ黙って静かに事を進めれば「似合わない」だの何だの、それまでの空気をぶち壊す勢いで笑い出す。「それはマナー違反やでー」とおどけつつも、ちゃんと集中して欲しくてキスを仕掛けたのに、何がおかしいのか、ロマーノは一層くすくすと笑って楽しそうにしている。果たしてちゃんとやる気になってくれるのだろうか。
いつもそういったマナー違反をするのはスペインのほうだとは言え、さあこれからって状態でこれはないと肩を落とす。目尻に涙を浮かべてまで笑い転げている姿に、一度盛り上がった熱が引いていくのを感じたが、しかしここまできてしないという選択肢もないので、ほとんどムキになってロマーノの首に唇を寄せた。
 「くすぐってぇ」とじゃれ合いの続きみたいな声を上げられ、「気のせい気のせい」と適当な相槌を返す。拒否さえされなければ、彼をその気にすることなんて容易いのだ。触れるか触れないかのギリギリのところで肌を辿り、耳の裏や首筋、手首や足の付け根はしつこいぐらいに何度も強弱を付けて吸い付く。まだ柔らかい乳首を避けるように周りを舐め、薄く色のついた部分を焦らすように唇で挟んだ。そうすると、笑い声の合間に短く息を呑む音が聞こえた。

「これ気持ちええ?」
「はっ……、お前に、言ったらしつこいから言わねぇ……んっぅ」

 胸から顔を上げず目線だけでうかがうと、ロマーノも挑発的に笑うので簡単に煽られた。「言われへんかったらわからんわあ」と、それを口実に、しつこく舌を這わせる。時々、くちびるが突起に当たるのに反応して肩が弾む。スペインに抗議しているつもりだろうか、後ろ髪を緩く引っ張られたが気付かないふりをして、舌を押し広げてべろりと舐めた。
 恋人同士になった当初、まだアナルセックスを始める前は、それこそ一晩中でも愛撫を続けて、気が狂ったみたいに嬌声を上げていたロマーノから、毎回のように「もう許して」と涙ながらに縋られたものだ。その姿が可愛らしいから、夢中になって何度も同じことを繰り返してしまったのだけれど、当時は何とかその姿を残しておけないものかと、今ほど性能の良くなかったカメラで写真を撮ろうと四苦八苦しては怒られたっけ。未だにその時のことを思い出しては、ひとりで慰めることもあるぐらい、その時のロマーノの姿は艶やかだった。……やはり残しておけば良かった。
 スペインはロマーノほど触られて感じることもないので、そんなに気持ちが良いのだろうかと、いつも不思議に思うのだが、下腹部へ視線を下げれば彼のペニスがしっかりと勃ち上がって主張している。透明な液が先端から零れベタベタになっているのを、やや強引に掴んで上下に擦った。

「はっ……も、俺ばっか……!」

 スペインの頭に手を伸ばし、髪をかきむしって緩やかな愛撫に耐えるロマーノが掠れた声でそう言った。もうロマーノは笑わない。ずいぶん前から切羽詰まったように息を詰めて、時々、喉の奥で唸る以外に言葉を発しなくなった。
 優越感を得られて機嫌良く手で扱いてやる。ロマーノはよくスペインのやり方が乱暴すぎると怒るのだが、そうすると頭を振って気持ち良さそうに喘ぐので、つい強めに掴んでしまうのだ。

「ンッ、……しつこい!」

 薄ら目を開けて、眉をきつく寄せた切なげな表情でスペインの胸板を叩く。力の抜け切った状態でそんなことをされても、かえって征服欲を煽られるだけなのに。覆いかぶさる体を押し返そうとする手首を取って、ベッドに押さえつけた。

「慣れてるやろ」

 言葉を聞かせるために耳に寄せたついでに、こめかみにキスをする。額に滲んだ汗の味を確かめようと舐め上げた。ロマーノが手を動かそうと藻掻くのを力付くで抑えると、涙目で見上げてくる。

(あんま味せん……)

 先ほどからスペイン自身が流す汗が口に入ってきて、ずっと口内が塩辛いせいだろうか。何の味も感じられない。動物みたいに顔中を舐め回しながら、左手で下腹をまさぐる。指で輪を作って素早く手を動かし、親指の腹で尿道を引っ掻くと声にならない悲鳴が上がった。

「んぅっ」
「ああ、もう。声がまんするから息が苦しいんやで?」

 浅い呼吸を繰り返すくちびるが薄く開いて、何度も息を吸おうと喘ぐ。急な快感に追いつかなくなったロマーノの昔からの癖だった。手首を抑えていた手を離して口の中に人差し指を入れる。

「歯ぁ食い縛らんで」
「うぅ……、もっ……スペイン、あっ!」
「うん」

 感じ入っているようすを観察しながら、次はどうしようかと考えた時だった。

「も、やめっ!」

 鋭い声に静止する。普段の睦言のような「やめろ」とは違って、強い意思のあるはっきりした声。

「え、なに?」

 驚いて動きを止め顔を覗き込んで尋ねると、くちびるを突き出す子どもっぽい表情で不満を表す。ロマーノの、どこか甘えの抜けきらない少年みたいなところが、それを見せる相手が自分だけと知っている優越感と、ただ可愛いと思う愛おしさを感じる。

「口でしてやる」

 ぶっきらぼうにそう言ったロマーノが視線を下げる仕草だけで、何をと伝えた。

「え」
「フェラ、してやる」

 長く付き合っているが、今までロマーノに口でされたことはない。スペインがあまり興味がなかったからだ。ロマーノが主導権を握ってセックスをすることもあったが、上に乗って感じてくれるほうがよっぽど楽しい。

「あー……、俺、あんまその、フェラに興味ないって言うか、騎乗位のほうがいいっていうか」
「あんなの、結局、俺ばっか喘いで面白くねぇだろうが」
「それがええんやんか」
「何がいいんだ! 却下だ、却下」

 ロマーノはいつも絶対動くなと言うが、入れられてるだけでいっぱいいっぱいになっているロマーノの緩やかな動きでは、どうしても余裕があって、つい戯れに突き上げては返ってくる反応を楽しんでしまう。最初は強気のきつめの表情で睨み付けてくるのに、最終的にはぐずぐずになってスペインに縋ってくるのが楽しい。
 確かに、口で奉仕してもらうことに全く興味がないと言えば嘘になる。その手のビデオを見ていると、一生懸命にペニスを舐めている女優がいじらしいと言えなくもないし、されているほうも、演技かもしれないが気持ち良さそうにしているので、どんなものか好奇心はあった。まして、日頃気の強いロマーノが、一体どんな顔で男のものを咥えるのか、想像したことぐらいはある。
 しかし、行為自体にあまり良い経験はない。元々、あまり感じないせいか口だけで最後まで達したことはないし、入りきらないせいか歯が当たるのが痛い。やってくれている相手が途中で疲れてうんざりしたようになるのも、見ていて面白いものではなかった。ロマーノが嫌々、自分のペニスを咥えているのを見て興奮するかーー、少なくとも空想の中では楽しそうに思えない。

「たぶん最後までイかれへんと思うし、なんかこう、ロマが感じてるの見てる方が楽しいっていうか……」

 しどろもどろに言葉を選んで伝えたつもりが、ちらりと視線をやったロマーノは胡乱な目でこちらを見ていた。

「え、あれ、なんで怒ってるん?」
「俺はお前を楽しませるためのおもちゃじゃねぇ……」

 低い声でつぶやく。

「い、いやいや! そういう意味とちゃうで? ロマーノいっぱい感じてくれるから、気持ち良いんかなあって」
「……どうせ、俺ばっか楽しんでるよ。悪かったな」
「やから、そうじゃなくて!」

 だって、スペインはそこまで感じられない。一人でしていたって、淡々と性欲を処理しているだけで、ロマーノを自身の手で乱れさせている時ほどの興奮も快感もなかった。自分が何かされるより、しているほうがよっぽど気持ち良い。

「……やる」
「え?」
「俺だってお前をイかせれるって証明してやる」

 静かにそう宣言したロマーノは、急に起き上がってスペインを押し倒した。視界が反転して何が起こったか把握出来ずに一瞬、思考が止まる。スペインが戸惑っている間にロマーノは足の付け根へと唇を寄せた。

「俺がヘタだから不安だって?」

 ふっと息を吹きかけて、にやっと笑った。猫みたいな大きな目の目尻がきゅっと上がっていて、何とも言えず艶っぽい。

「うっ……、そんなん言うてへん……」

 その顔を直視できなくて目を逸らす。そんな態度をどう受け取ったのか、「ふうん?」とほとんど音にならない声で返して、スペインのペニスをべろりと舐め上げた。

「うっわ……」

 唐突に襲った舌の感触に色気のない声を上げて下腹へと視線を戻すと、ちょうどロマーノが目の前にあるそれを咥え込むところだった。完全に勃ち上がったスペインのペニスを咥内へと迎え入れられる。歯の裏がちょうどカリの部分に当たり、裏側を広げた舌に包まれた。

「えっ……」

 半分も入らなかったが、残りの部分を手で包み緩く数回、扱かれる。スペインが戸惑っているものの、痛がってはいないと判断したのか、睨み上げていた目を伏せて、そのままゆっくり手の動きに合わせて頭を上下させた。
 歯を立てないようにするためか強く窄められた唇と舌にだけ包まれる。上下する動きに合わせて先端をチロチロと舐められ、舌の裏側から分泌された唾液をたっぷり塗り付けられた。

(こんな、気持ち良かったっけ……?)

 腹の底から出すようなため息をついて目を閉じた。長くしてもらった記憶がないが、それとも、その間に自分の体質も変わったのだろうか。それにしても気持ちが良い。こうして目を瞑ってしまえば、まるでロマーノの中に突き入れている時のようだ。いつもより少し熱くてきつい。そうして緩やかな快楽に揺蕩うような心地良さだった。
 唾液で充分に濡らされたせいか滑りの良くなった唇が、少しずつ扱き上げるペースを早めていく。

「んぁ……っ、ふ……」

 水音の合間に息継ぎをするロマーノが、喘いでるみたいで肌がざわつく。どんな表情で咥えているのだろうかと気になって顔を見ようと視線を下げると、ロマーノは耳を赤くしてきつく目を閉じていた。

(反則やろ……)

 スペインのペニスを咥え、無心に愛撫する姿に頭の中が真っ白になった。視線に気付いていないのか、時々、うっとりしたようにため息をつく。その声も表情も、普段の追い詰めるようなセックスでは見られない姿だった。

「……ぅ、ふ」

 無意識でその頭へと手を伸ばしていた。後ろ髪をかき混ぜ、前髪を分け横髪を耳にかける。よくロマーノが感じ入っている時にスペインの髪を撫でるのだが、その行為をする気持ちがよくわかった。確かに気持ちが良いのだが、緩やかすぎて耐えられない。所在のない手をどこかに置いて落ち着かせていないと、勢いに任せた行動を取ってしまいそうだった。

「あ……ん、きもち、い?」

 髪を梳く指に引かれるように視線を上げたロマーノが、舌ったらずに聞いてくる。その瞼がとろんと重たそうに瞬いて、その度に長いまつ毛が上下した。

「ん、めっちゃ気持ちえ……どうしたらいいかわからんぐらい」

 少し余裕を失いつつあるせいか声が乱れたが、その答えに満足したのか、ロマーノはふっと笑うとまた目を伏せて愛撫を再開する。慣れてきたのか、滑らかな動きで一定のリズムを刻んでいく。
 自然と髪を掴む指に力が入った。

「ぅ……」

 時折、スペインが唸るように漏らす声にチラチラと視線を寄越してくる。こんな大胆なことをしておきながら、おっかなびっくりスペインの反応をうかがっては、様子を見ながら少し深くまで咥え込む。そんな態度に煽られて呼吸が速くなっていくのがわかった。

「んゃ……ふっ、あ……」

(やから、その声があかんって)

 ほとんど苛立ち混じりにサラサラと手触りの良いその髪を強く掴んだ。普段は息を潜めてなかなか聞かせてくれない甘い声。息継ぎの度に漏れているのに気付いていないのだろうか。

「ぅ、ん……っ! ふぁ……」

 手でしてもらったこともあるが、それに比べれば幾らか緩やかな動きが、だんだんと焦れったくなってくる。指先が痺れて、口の中に入っている部分に血が集まっていく。上り詰めていく時と同じ、皮膚の下を這うざわざわとした神経が集中してくるのだが、それがやけにゆっくりに感じられて思わず腰を揺すった。

「んんっ……ぅ!!」

 思いがけず喉の奥を突いてしまったらしく、ロマーノが唸って睨み付けてくる。涙の膜が張ったオリーブの瞳が「勝手に動くな」と言っている。頭に回していた手で宥めながら軽く謝って続きを促した。

「ごめん、邪魔してもうた……。続きしたって」

 細い髪の毛を一本一本、掬って縋るように見詰めた。それに納得したのか、何も反論されずに再び彼の咥内へ迎え入れられる。
 裏筋を一度、丁寧に舐め上げられ、またすっぽりとくちびるに包まれた。先ほどよりは少し強めに吸われ、先端を中心に小刻みに動かされる。その動きにじりじりと脳裏が燃えていくのを感じた。

「んぅ……っ」

 しばらくそうしていただろうか。両手を忙しなくロマーノの髪をいじることで気を紛らわせていたのだが、不意にロマーノが口から取り出し、そそり立ったそれに顔を近付けため息をついた。うっとりと目を細め、上気した頬がトマトのように赤く染まっている。
 唾を飲み込もうとして、口の中がからからになっていることに気付いた。ほとんど空気を呑み込む音が生々しく響く。
 そんなスペインに気付いているのかいないのか、ロマーノはちらりと視線を寄越すとこれ見よがしに舌を出して先端を舐める。先ほどまで収まっていた口の中が見えて、その赤が卑猥だ。もう耐えられないと思った。
 彼の後頭部に回していた手に力を込めて頭を掴んだ。勢い余って己の猛ったペニスに近付いたくちびるへと、やや強引に突き入れる。存外あっさりと入った。そのまま、驚くロマーノは無視して、ほとんど無理やり腰を使って口の中を出し入れする。唾液が零れてスペインの腿を伝っていった。

「ふっ……ぅ、ん、ん!」

 呼吸をする暇がないのだろう。苦しいのか抗議のような声を上げている。しかし、そんなことに構っている余裕もなくて何度も突き上げて咥内を犯した。強引にしているせいか、時折、喉の奥まで入ってロマーノがえづきかけている。気付いていても、止まれる気がしない。

「ごめ、ロマ……!」

 短く息を切らす間に名前を呼んだ。強く掴んだせいで髪を引っ張ってしまった気がする。まるで自慰行為だ。ものを扱うみたいに乱暴にしてしまっているのに、辛いのか時々唸るロマーノが、それでも歯を立てないようくちびるを窄めて受け入れるので一層興奮してしまう。彼の強く閉じられた瞼も眉根に寄る皺も、額に流れる汗すら、自分が与える苦痛に耐えているせいだと思えば、脊椎を寒気に似た快楽が走る。

「ぅっ……あ、出る……!」

 肩をびくつかせたロマーノを強く引き寄せ口の中に精液を注いだ。離してやれ、とどこかで冷静な自分が警告していて、なのに実際にやっていることは逃げ出せないよう押さえ込んで咥内に射精している。
 緩く腰を揺すってすべて出しきってから、ようやくロマーノを開放した。

「ぅっ、ぐ……げほっげほっ……!」
「あああ、ごめんなあ! 苦しいやんな」

 えづき始めたロマーノの背をさすってやる。湿った咳を繰り返すロマーノが、何か言いたげにしているのを、「ちゃんと聞くから」と制してしばらく咳が止まるまでそうしていた。

「鼻、に……入るかと」
「うぅ……ご、ごめんなあ」

 自分でも驚いている。あまりの気持ち良さに我を忘れるなんて、フィクションの話だと思っていたのに。

「あんなん初めてやったわ……こんな気持ちいいなんて思ってへんかった」
「気持ち良かったか?!」
「ん、めっちゃ良かったでー。思わず強引なことしてもうた」
「そうか……」

 そう言うと、苦しそうにしていた顔がふっと綻ぶ。普段ならここぞとばかりに「どうだ!」って顔をするくせに、そんな控えめに喜ばれると愛おしくて困ってしまう。
 懲りずに欲望は頭をもたげてくるし。

「なんか……今日のロマーノ反則やあ」
「な、なんだよ」
「めっちゃ可愛えもん……ずるい」

 深刻にならないよう、茶化して言ったつもりが思ったより子どもっぽくなってしまって、それをロマーノが「なに可愛い子ぶってんだよ……」と不満そうにつぶやく。決して彼の可愛さに対抗するつもりではないが、そういうふうに受け取られたのかと赤く染まった耳たぶを眺めてぼんやりと思った。

「なあ、あの……続きしてもええ?」

 さっきの今で怒られるだろうかと聞くと、ロマーノがきょとんとした顔をする。

「その、フェラもええねんけど、ロマーノの中にも入れたいので」
「さっきイっただろ」
「まだいけるいける」

 その言葉に信じられないといった顔をするので、右手を掴んでその証拠にふれさせる。呆れたと言わんばかりのロマーノが、それでも「別に……」と言う。
 別に、と言われれば、勝手に都合良く解釈するだけだ。

「あ、次は親分が口でしたろか?」
「もうなんでもいいから、とっととヤって寝ようぜ……疲れた」
「ほんま色気ないなあ……」

 そんな投げやりな態度、だからと言って萎えないこちらもこちらなのだけれど。がっかりと項垂れるスペインに「いまさらだろ」ともっともなことを言う。「そうやねんけど」とぶつぶつ言いながら落ち込む姿にさすがに哀れに思ったのか、遥か昔よりずっとスペインの楽園でいた凶悪な天使は、とびっきりの笑顔で

「ムードとかいらねぇから、さっさとてめぇを寄越しやがれ」
 と囁いた。

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