空気で縛って

 今日のロマーノはあまり乗り気ではないらしい。程良くお酒も入り上機嫌で近況を話す姿に、今夜はいける!なんて期待していたのに、シャワーを浴びて一緒にベッドに入った途端、スペインに剥き出しの背を向けテレビを見始めた。

「なあ、ロマーノ聞いとる?」
「ああ、聞いてる聞いてる。トマトの話だろ」
「トマトはトマトでも畑になるやつじゃなくて、俺のトマトちゃんの話や」
「はいはい」

 熱心な視線の先にはセクシーなお姉さんが、なぜかバスタブに浸かりながらテレフォンショッピングのご案内。一体、何の因果があって風呂場で掃除用のモップを紹介しているのだろうか。
 お姉さんを見つめるロマーノはさっきからちっとも話を聞いてくれない。隣にいるというのにつれない態度をとる恋人に、スペインの自然と不満が育っていく。

「……むぅ、ロマーノーロマー、ロマロマロマー」
「……なんだよ」

 背後から腕を回し脇腹を擽って、そっと反応を窺うと苦笑混じりの反応が返された。この後にしょうがないなと続く諦めに似た包容力だ。
 どんなにテレビや雑誌に夢中になっているのを邪魔しても、邪険にしないで聞いてくれるロマーノが好き。以前に、自分に都合の良い相手なら誰でもいいんだろなんて詰められたけど、己のワガママを許してくれるのはロマーノじゃなきゃ意味がないとスペインは思っている。不器用でなかなか人に心を開けない彼が、自分にだけ明け渡してくれる優しさに、優越感のような愛おしさが込み上げてくるのだ。

「好きやで」

 自分の唇を舐めて湿らせながら囁いて、二の腕を掴んで背中に覆い被さり、伸び上がってキスをした。ロマーノの息が短く切れる音が部屋に響いて、期待から胸が高揚するのを感じる。
 乾いたロマーノの唇に吸い付いて、音を立てながら重ねていく。強く吸って、呼吸が漏れる音と同時に離れ、角度を変えて再び合わせる。
 キスをしたまま肩を押して仰向けに寝返らせて、顎を捉えた。親指に軽く力を入れて唇を開かせ舌をねじ込む。優しく歯列をなぞり口内を探りながら、首の後ろに手を差し込んで髪を梳いた。気まぐれに頭を強く押し付けて、更に奥まで舌が届くよう深く口付けていく。

「んぅ……っ! はっ! うっ、……んっう」

 表面を擦り合わせようと舌を抑えれば、助けを求めるみたいな喘ぎ声が上がった。目尻に涙を溜めて何かを堪える姿が、どうしようもない快楽を耐えている時の表情と同じで容易く煽られる。もっと深くまで、がっつくように貪れば、唸り声のような声と共に肩に手を添えられた。
 歯で軽く唇を引っ掻き喉奥へと舌を伸ばせば、切羽詰まったようなロマーノが胸を押し返そうとしてくる。体を小刻みに震わせて弱々しい抵抗をされるのが可愛くて、つい興奮してしまいキスが手荒になっていく。ロマーノが逃げるように体を捩るのを全身でのしかかって封じ、たっぷり口内を堪能してやる。一層、激しくなった抵抗が戯れみたいに全然力が入っていなくて、どう見たって煽ってるとしか思えないその両手首を片手でまとめ、頭上で抑え付けた。

「んぅー……っ! んん!」

 唾液を送り込んみながら乱れた姿が見たくて瞳を開くと、色気のない唸り声を上げながらロマーノが首を左右に振る。これはさすがに様子がおかしいと気付いて、唇を離しその顔を覗き込んだ。

「んぅ、くっ! ごほっごほっ!」

 途端、ロマーノが勢い良く咳き込んだ。火がついたような勢いに、心配になって大丈夫かを訊ねると、誰のせいだ!と睨みつけられた。

「はあ……、お前なあ! 喉の奥に舌を突っ込むな! 力任せに舌を抑えんじゃねぇ! えづくだろうが、カッツォ!」

 暫く咳き込んでいたロマーノだったが、落ち着いてくると一息でまくし立ててくる。顔を真っ赤にして目に涙を浮かべている姿では、凄まれてもそんなに怖くはないが、そうとう怒っているようだ。

 やって、ロマーノ。それぐらいのほうが好きやん。

 腿に当たっている彼の股間のそれが張り詰めていることを指摘すれば、きっとへそを曲げて続きをさせてくれなくなるだろう。ひとしきり怒鳴っているロマーノの声を黙って聞いていると、言いたいことを言い尽くしたのか、もういいと溜め息をついて黙られた。
 もういいって続きをしてもいいっていう意味なのだろうか。ここで読み間違えると、あとあとが怖いのでよく考えて行動しなければならない。
 じっと様子を窺っていると、居心地悪そうにロマーノが身じろいだ。

「……手ぇ離せよ」

 ぼそっと呟いて視線をそらした。
 手、と言われてそれを見れば、先程のキスの最中に興奮して抑え付けた姿勢のままだった。
 とは言え、もう体重もかけていないし力を込めているわけでもない。ロマーノが動けば簡単に離れていくような緩い拘束だ。

「んー……」

 背けられた顔が赤くなっている。髪が重力に従ってシーツに落ち、頬に負けず劣らず赤くそまった耳が見えた。むすっとした表情を作っておきながら、されるがままになっておいて、今更嫌だなんて。

(何を言うてんの)

「なあなあ、今日はこのままやろうや」
「なっ! はあ? 何言ってんだよ!」

 ばっと顔を上げて噛み付かんばかりの勢いのロマーノを、まあまあと宥めながら再び体重をかけていく。僅かに振り払おうと押し返してくるけど、いくら本気ではないとは言えそんな力では解けない。

「だぁめ、ロマーノは今縛られてんねん」
「んなっ、なんだそれっ!」
「今から絶対、動かしたらあかんで」

 上から見下ろしたら怯えたように身を縮こまらせるので、見せつけるように口角を上げてにやりと笑ってやった。まともに目があったロマーノから、ひっ、と短い悲鳴が上がる。そうして暫し硬直し、ぎぎぎ、と効果音が付きそうな程、ぎこちなく見上げられた。

「ロマーノ、そういうの好きやん」
「はあ? ぜんっぜん好きじゃねぇよ! お前が好きなんだろ、変態っ! いいから離せよ……っ」

 目を瞑って虚勢を張ってみせるロマーノを黙らせるべく、唇に吸い付いた。不躾に滑り込ませた舌はあっさり受け入れられる。
 ロマーノはいろいろな言い訳がないと、自分の快楽を追いかけられない。スペインが強引にするから、抵抗したけど力の差で及ばないから、そういう逃げ道を残したがる。
 そんな彼の矜持を残らず剥ぎ取ってしまいたい。
 抵抗にもならない抵抗と、建前にすらならない暴言で隠したがっている本性を暴き、浅ましい欲望の前に服従させ、自分がいかに淫らであるかを告白させたい。そうして、泣きながらスペインを求める姿はさぞかし卑猥で可愛いのだろう。

「なんだよっ、こっち見んな!」

 想像にうっとり目を細めて笑うと、ロマーノが顔を顰めて首を横に倒した。臆病な彼は情事の最中、逐一こちらの様子に怯えを見せる。恋人なのだから怖がらなくても、と思う気持ちもあるし、乱暴に扱っているみたいで興奮する部分もあるしで、複雑な心境だ。
 何となしに瞼の上を左手の手のひらなぞり目を閉じさせてみた。
 右手で手を抑え付け、左手で瞳を覆う。暗くなったせいか身を固くしたロマーノを見ていると、何とも言えない欲求が満たされる。支配欲と、言うのかも知れない。

「手ぇは縛られてんねん。目ぇは目隠しされてんねん」
「っ!!」
「ロマーノの自由も視界も、こころも全部、俺のもんにしてええ?」

 囁きながら、耳たぶをかじって耳殻を舐める。わざとゆっくり、どうやってこの舌を這わせているのかを見せつけるように、そこを繰り返しなぞると大人しくなったロマーノが、肩を震わせ歯を食い縛った。
 右手の拘束はそのままに、人差し指を伸ばして手首の内側を撫で、動脈のあたりを円を描くように擽る。耳を舐めていた舌をずらし頸動脈を噛んだ。その度にびくびくと敏感に反応を返してくる。

「……ぅ、んぅ……、ふぁっ」

 ロマーノもこのシチュエーションに興奮しているのか、甘く鼻にかかった声が漏れだした。目を覆っていた左手を外して、へその周りをなぞってみる。いつも通り全裸でベッドに入ったことと、腕を上げさせられているせいで、無防備に晒されている腹筋をまさぐってあばらを辿り胸へと簡単に到達する。掠めるように触れれば、期待からかロマーノの肩が跳ねた。

「心配せんでもちゃんといじめたるから」
「んっ……そっちの心配じゃ、ねぇ!」

 はあ、と熱い息を吐いて喘ぐのを堪えているらしい。
 いつもしつこいと言って否定するけれど、執拗に責めてやると身も世もなく快楽に没頭するので、本当は嫌いじゃないのだ。

「ロマーノ、ここもう尖っとるよ」

 乳輪を爪の先で撫でると、そこは既に立ち上がっていて期待に震えていた。男だから女のようには固くならないけれど、それでも未熟な性感が指を押し返してくる様で、スペインが与える愛撫に彼が今どう感じているかを伝えてくる。
 ロマーノは悔しそうに下唇を噛んで返事もしない。黙っているのをいいことに、いきなり強く摘まんでやった。

「んっ! いった……ぁっ!」

 抗議を上げる声に被せて更にぐりぐりと押し潰すと、背中を反らせて胸を突き出してくる。膝を立ててシーツの上をずり上がろうとするのを爪を立てて阻めば、ほとんど悲鳴みたいな嬌声が上がった。そのまま引っ掻いて指で強く押し潰し、鋭敏に尖ったそれを容赦なく摘んでやる。何度も上がる高い声が悲痛に歪んだ。

「あっんぅ……、やっあ!」

 強い愛撫に触れられていない方の先端も尖らせ、全身に鳥肌を立て震わせている。鋭くなった神経を煽るように鎖骨を舐め上げた。

「……っ! ぁっう……っ!」

 膝を足の間に差し込んで股間に押し付けると、そこはかなり熱くなっている。息を止めているんじゃないかというぐらい声を詰まらせ感じている姿に、これ以上は際限なく虐めてしまいそうで、スペインは沸騰しそうなほど興奮した頭を振った。赤くなった乳首がかわいそうな程で、乳輪を擽るように撫でてやる。
 ロマーノはいつも思い通りに怯えてくれるので、つい虐めすぎてしまう。スペインが普段は隠している後ろ暗い嗜虐性をあっさり引きずりだして、優しいふりをしていても、本当は何に興奮するかをこうやって知らしめるのだ。
 固く閉ざしている瞼から涙がぽろっと落ちていった。申し訳なさから、全力で抑えつけてしまっていた手首から右手を離すと、解放された腕に掴んでいた手の跡が残っていた。

「もっ、んぅ……っ! ふぅっ! ぁあっ……ぅっ……!」

 ぐりぐりと膝を押し付け、張り詰めたそこを刺激する。腰が何度も跳ねてロマーノが頭を振った。ちゃんと感じているようで安心する。
 左手で円を描くように何度も撫でながら、反対側の突起には唇で触れた。掠めるように触れるか触れないかのギリギリのところを何度も往復させれば、もどかしいのかロマーノのつま先がシーツを蹴る。

「あっ……、ちゃんとさわれ……っ! んぅ……っ」

 右手で腰を擽ると、身を捩ってスペインの手や唇にその体を押し付けようと揺れる。
決定的ではない快楽に焦れて、全身でスペインを求めるくせに、律儀にもロマーノは手首を頭上でまとめたまま快楽に耐えていた。息を詰めてスペインのされるがままになっている。

「ふっ、ロマーノって縛られんの好きなん?」
「……っ! ち、違っ、ぁっ……んぅっ!」

 わざと辱めるために笑いを含ませて囁けば、必死の否定が返ってくる。しかし、それも右手がロマーノの下腹部に触れたせいで、抗議の声は途中で途切れた。

「でもここ、こんななってるで? ……ああ、おまえはひどくされても感じてまうもんね」

 違う違う、と頭を振り乱すのを眺めながらその欲に触れた。触らなくてもわかるぐらいに張り詰めているそれを、最初からしっかりと掴み、素早く擦り上げていく。

「ぅあっ! んんっ、あ! 早ぁっ……んん、やっあ、こわい! あぁっ……!」
「それとも、ひどくされたほうが気持ちええの?」
「んんっぅ……! ちが、ぁっ……! 違う……んあっ!」

 怯えて身構えるくせに嬉しそうに腰が跳ねるのを観察して、ちゃんと感じているのを確認する。目は固く閉ざされたままだったが、視線を感じたのか頭上に上げさせている腕を閉じて顔を隠そうとする。それでも自由な手を動かすことも、目を開けることもしない。
 こんな何の効力ももたない言葉一つで彼を縛り付けている。己の自由を放棄して身悶える姿に、もっと理不尽でわけがわからなくなるような快感を与えてやりたい。
 身を乗り出してサイドテーブルからローションを取り出した。中身をたっぷり手に取り後ろへと這わす。あまり悠長にやっていると、ロマーノはあっという間に達してしまうので、やや性急にそこを慣らすべく指を突き入れた。

「入れるで」
「ぅあ……、もっ、入ってんだろ、あっ!」
「大丈夫そうやね」

 悪態をつく余裕はあるらしい。慎重に感じるところを避けて、強張りを解くことに集中していく。その間も前を擦り上げる手を止めないで、滲み出てきた液体を広げ、ぬるぬると先端を弄り回す。ロマーノはびくびくと跳ねながら、声を抑えることもせずに感じている。痛そうな様子はないことに安堵して、指を増やしながら、さっきまで虐めていた胸の先端が、かつて見たことない程立ち上がっていることに気が付いた。

(うっ……わー……。えっろ、男でもこんなんなるんや)

 弄りすぎたんだろうとはわかるのだけれど、もっと触ってと誘われているように思えて、思わず舌を寄せて硬くなった先端を突付く。

「んぁあっ! もっ……、ぁっ……やっ! は、んっ!」

 ロマーノの足が腰に絡みついて、何度もびくびくと跳ねる。擦り上げているロマーノの欲は何度も脈打ち、指を突き入れている窄まりが淫らにスペインを誘惑した。刺激が増やされてもどかしいのか、眉をきつく寄せて顔を真っ赤にして、首を激しく振り乱している。
 このまま彼を追い詰めたらどうなってしまうのだろうか。
 片足をぐっと持ち上げて肩にかけ、足の間に体を滑り込ませた。高い位置に掲げ上げられたせいで腰が浮かんで、指を突き入れているところが無防備に晒された。もう片方の足は大きく広げさせて膝でシーツに押さえつけ、足を閉じようとするロマーノを阻止する。
 弱々しく、やめろ、と訴えてくるのも聞き入れずに、目の前に晒された熟れた穴を眺めた。

「はは、ロマーノやらしいなあ。ここ、ほんまはえっちするために使うとことちゃうのに、もうひくひくしとる」
「なっ、やめ……」

 煽るために軽い口調で言って、大げさに嘆くような声色を作り、大事な子分がこんな淫乱になっちゃって俺どうしたらええんかなあ、とぼやいてみせる。耳まで真っ赤になったロマーノは、言葉もなくして羞恥に耐えていた。きっと頭の中はスペインに見られながら弄られている尻のことでいっぱいだろう。
 いつも強気なロマーノが、こうやって自分のいいようにされることを大人しく受け入れている。優越感が広がってどうしようもなく満たされるのに、一方でもっと彼を支配したくて嗜虐性が刺激されるのだから不思議だ。
 早く突っ込んでぐちゃぐちゃにしてやりたい。おまえがどんなにいやらしくて、男の欲を煽っているかを知らしめて、目も眩むような快楽に突き落としたい。

「ロマーノのちんこ、ぐちゃぐちゃやなあ。こんなんやったら、すぐにいってまうな」

 心配している風を装って自身を戒めるように強く掴み、先端をなぶってやる。すっかり滑りの良くなったそこを殊更、ゆっくりと撫で回すと拷問にでもかけられているみたいに、悲愴めいた喘ぎ声でスペインに訴える。

「ああっあっ……お前が、んぅっ、早くしない、からぁあ……っ!」
「んー、俺のせいなん? でもロマーノ、いっつも早いからなあ。今日も勝手に気持ちようなって、とっとといってまうんちゃうの? 親分心配やわあ」

 普段と同じ口調で語りかけながら、ふるふると震えているそこに息を吹きかける。不安定な体勢のまま、びくびくと腰を跳ねさせるロマーノに、ほらおまえはこんなにやらしい、と囁く。足を閉じようと内腿に力を入れるのをやや強引に開かせると、ロマーノは恥ずかしがって体を捻り、スペインの視線から逃れようとする。
 後孔に突き入れた指を増やし激しく動かした。そろそろ達してしまうだろうか。肩にかけた腿が痙攣しているみたいに震えだした。

「もっ……、お願いだからっ、んぁ……、早くいれてっ!」

 ロマーノのものであるはずの腕は、ずっと頭上に拘束されている。足は大きく開かされ、自由な視界はずっと閉じられたまま。
 理不尽な言葉にいちいち反応して、むしろ感じ入っている姿に、スペインも限界だった。

「ん、ほないれるな」

 返事は待たずに挿入したいった。ゆっくりしてやる余裕もあまりなくて、むしろ焦らされているのはこちらのほうだったと、言わんばかりにほとんど力任せで腰を進めていく。
 どんなに慣らしたって最初は少し狭いそこは、中途半端に遠慮するよりは一気に貫いて収まってから待ったほうが負担が少ない。熱くて絡み付いてくるように蠢いている中に、気を抜いたら全部もっていかれそうで腹筋に力を入れて耐えた。

「あっ、はっ……はっぁ、んぅっ!」

 体内の圧迫感をやり過ごそうとしているロマーノが切羽詰まった声で喘ぐ。本来、男を受け入れるようにできていない。きっと苦痛を与えているんだろう。腰を少し下ろしてやって、彼が痛がるところを突かないように気を付けながら、安心させるべく優しく髪を撫でる。

「ん、全部、入ったで」
「ぅっん……っ! まだ、待って……っ!」

 苦しそうな声色に、労わるようにそっと肩を撫でた。少しでも気が紛れるよう、甘ったるい声で大丈夫かを尋ねながら、鼻の頭や額に唇を寄せ音を立ててキスをする。少し待てばちゃんと受け入れてくれることを知っているが、それでもこの瞬間の引き攣った声や顰められた眉に、言い知れぬ申し訳なさが湧いてくる。早く気持ち良いことしか考えられないようになって欲しい。
 体内の熱や包まれる気持ち良さからは、ロマーノの苦痛を思って気を逸らす。

「ロマー、ロマーノ、俺の可愛い子。大丈夫か?」

 頬に何度もキスをしてうなじに顔を埋めた。鼻をすんすんと慣らして彼の匂いを取り込む。

(ああ、これはやばい)

 中に埋めていた自分のものが脈打ったことに気付く。それにすら反応して締め付けてくるので、どろどろと深みにはまっていきそうで、思ったよりもスペインにも余裕がないらしい。

「んっ……、はっ大丈、夫……」

 掠れた声で頷いたのを合図に、小刻みに揺さぶって反応を窺った。快楽を拾えているとは思えなかったが、痛がる声を上げなかったのをいいことに、少しずつ速度を早めていく。まだロマーノは息を詰めて耐えている様子で、けれど彼の好きなところを擦るように何度も揺さぶった。狭いそこに追い立てられるみたいに興奮するのを感じる。
 しつこく同じところばかり狙っていれば、ロマーノにも徐々に吐息に甘い声が混じって艶かしい響きになっていった。それを合図に小刻みだったものを、大胆に抜き挿しする動きに変えていく。

「ふぁっ、ふっ……、あっああっ……っ!」

 先ほどまでの引き攣ったような狭さとは違った締め付けと、柔らかく包み込まれる感触に、ぞくぞくと悪寒と紙一重の快感が伝わる。
 ゆっくりとギリギリまで抜いて、奥深くまで突き入れる。ロマーノの中の襞がスペインに絡みついて、もっと欲しいと誘う動きがやけに鮮明に伝わってきて、何度もその動きを繰り返した。まだまだ、己もロマーノもいくらかの理性が残っていて、お互いをしっかり感じている。

「あっ……! ああっ、もっと、あっ」
「はっ、なあ、これ俺の。忘れんといてな」

 自分の形を覚え込ませるために内壁に擦り付ける。いいところに当たるのか、一際高い声で欲深くねだられる。
 ふと、ロマーノの腕に鳥肌が立っていることに気付いて、腰の動きはそのままに、二の腕を唇でたどった。ずっと上げていたせいで痺れているのか、嬌声を上げて足をばたつかせるので、膝の裏を持ち上げて腰を浮かせる。

「やぁだっ! あっ……あぁっ! はっ、あ、いや!」
「ロマーノの嫌はいいって意味やもんな。腕痺れても上げとってくれたん?」
「ぅあ、ちがっ……! はっ、あっ!」

 からかうように問いかければ必死で違うと否定して、お前が言ったからだと言い訳する。言っただけで聞いてくれるような可愛らしい性格でもないくせに、まだ言うのか。
 腰を浮かせたせいで、自然と奥まで届きやすくなった突き上げにロマーノが怯えを滲ませる。逃げを打つ体を引き寄せ、ロマーノの足を肩に掲げたまま体を屈めて肩に顔を埋め、ズブズブと奥深くまで貫いた。涙を流して震えだしたロマーノの自身から、先走りと呼ぶには量の多い白濁が緩く流れ出てくる。

「んんぅっ! あっはぁん……っ! こわ、い、あっ、あぁっ」
「はっぁ、何が?」

 強く吸いついてキスマークを残す。段々と速度を上げて腰を動かせば、普段よりも深い挿入に頭が白く塗りつぶされていく。欲求の赴くまま胸の先端を摘むと、前科があるせいか肩を竦ませスペインを締め付ける。刺激に、悪態じみた声で低く唸って、更にロマーノを追い詰めようと首筋を舐めた。

「お前、なんかっ……んっ、ぅ! いつもよりっ、強引で……っ! ふぅんっ……あっ!」

 言いたいことがあるようだが、構ってやる余裕もなくいいように突いてしまう。無防備な腋に唇を寄せて舐め上げ、一度体を起こすと嫌がるロマーノの足を掴んで大きく開かせる。

「ロマーノがっ、やらしい、からやで」

 はっ、と息が切れる間に本音を零す。優しくしてやりたいのに興奮してしまうとだめで、余計なことは何も考えるなと独占欲が顔を出す。自分のためだけに体を開かせて、心を明け渡させて、それでもまだ足りなくて全部の感覚を塗り替えるぐらいの快感に沈めなければ気が済まない。奪えば奪った分だけ際限なく欲しがる執着が、彼に欲情する浅ましいところと直結してしまう。
 腰の動きを早くすると、ロマーノがそれ以上何をか言うことはなかった。ひっきりなしに嬌声を上げて快楽を追うことに必死になる。自身に手を伸ばすと、先走りの液でどろどろになっていて、もう限界なんだろうとはわかった。

「もっ、いきたっあぁ……っ!! んんっぅ! はっああぁっ!」
「待って、俺まだ……っ、ふ、一緒にいこ」

 首を横に振って何かに耐えているロマーノのそれを掴んで達しないよう握り込む。目を見開いて、もうやだと泣き言を言いながら、いよいよ本当に泣き始めたロマーノの目尻にキスを落とす。

「はっ、目ぇ開けてもうた、なっ」

 切羽詰まった声を上げて泣きじゃくるわりに、ロマーノの瞳はぼんやりとしていて、むりやり覗き込んで視線を合わせる。そうして膝の裏を掴み直すと今までとは明らかに違う勢いで腰を叩きつけた。
 ほとんど悲鳴みたいに声を上げているロマーノが、今はっきりした意識があるのかもわからない。名前を何度も呼ぶと助けを求めるみたいに、スペインスペイン、と返事するが、その名前を呼んでいる相手こそが今おまえを逃げ場のない快楽へと引き込んでいるのだと、言ってやりたい。

「うァああっ、スペインっ! あっああ、もっや! ゆるして、あ、ああっ!」

 だんだんと頭の中が白く塗り潰されていく。断続的にロマーノから与えられる快感の波が、過ぎた気持ち良さを連れてスペインを苛んだ。もうどうしようもなくなってロマーノを掴んでいた手を離し、肩をかき抱いて、キスをする距離でロマーノの瞳を見つめた。
 上げさせていた腕も引き寄せて、自分の腕の中に閉じ込めた。身動きのとれないぐらい強く抱きしめて何も考えずにむちゃくちゃに腰を動かす。ロマーノが何度もうわ言のように名前を呼ぶが、スペインは応えてやることもできずに、ほとんど無言で瞳を見ていることぐらいしかできなくなるから、ただロマーノが上げる声とお互いの呼吸が乱れる音しか聞こえない。

「あっあああっ、も、い、くっ! ああ、あっんぅ…………っ!」

 程なくしてスペインの体とロマーノに挟まれた彼のそれは、白濁の液を吐き出して達した。きつくなった締め付けをやり過ごしたスペインは、声もなく射精感に浸っているロマーノを労ってやることもせず、絶頂の快楽に苛まれる余韻を引きずっているところを更に責め立てた。

「えっ、ぁあ! ま、ってぇ……!」

 夢中で彼の体を貪って、じっとロマーノのことを見ているくせに、全く彼の訴えを聞き入れず残酷なまでに突き上げる。そんなスペインにロマーノは怯え、何度も、もうやだやめて、と泣いたが、それにすら興奮してしまうのだ。
 追われるように構わず突き上げ続けていると、抱きしめていた体がびくびくと痙攣のように何度も跳ねた。達した後で敏感になっているところに、スペインが動きを緩めないので、再び性器が首をもたげて硬さを取り戻していく。

「もっ、だめぇ……っ! あっ、ああっ、あ……っ!」
「はっ、ロマーノ。あかん、もっと」

 しつこく後孔の粘膜を虐められて、ロマーノは続けざまに再び達してしまう。それでも、スペインは上がる声も弱々しくなったロマーノに気遣う余裕もなく、休まずに腰を叩きつけていた。
 射精感を感じる一歩手前の快感に脳髄を浸して、虚ろになっていくロマーノの瞳がスペインしか映さず、与えられるがままに揺さぶられているのを見つめる。何とも淫靡で卑猥なのだろう。漸く得られた満足感に安心した。
 すぐにでも達してしまえそうなのに、もっとその姿を見ていたくて、何度も気をそらして絶頂を見送った。意味のない音しか発さないロマーノが、拒絶の言葉も出せないのをいいことに、耐えられなくなるまでそれを繰り返す。
 自分で焦らしておきながら、ほとんど耐久戦のようになったセックスは、ロマーノが音を上げるまで続けられる。と、スペインは思っている。しかし、すぐにギブアップを訴えるロマーノが一度や二度、やめてくれと懇願したぐらいでは終わらないので、結局はスペインの気が済むまで付き合わされるとロマーノは言う。
 そんなことも考えられなくなった頭で、ただ目の前の体を貪ることばかり追いかけた。

「はあ……、も、お前とはしばらくやんねぇ」

 ぐったりしているロマーノを濡れタオルで拭いて水差しを用意し、熱くなった肌が夜気に冷えぬようシャツを着せてやると、うんざりといった様子でそう言った。

「うぅ……、そんなこと言わんとってぇ。次はちゃんと優しくするやん」
「問題はそこじゃねぇよ! しつこいんだよ、てめぇはいつもいつも!」

 ぽこぽこと怒る姿に、確かに何度もやめてと言われたのに聞いてやらなかった記憶があるので、強くは返せずにひたすら謝るしかない。
 疲れきっているわりに、ベッドに体を横たえ力強く怒るので思ったよりは大丈夫そうだ。ちらり、と視線を上げて手首を見ると掴んでいた跡が残っているが、ロマーノの肌はまだ若いので、明日には消えそうだ。内出血にはなっていなくて良かったと安堵した。

「おい、聞いてんのか!」
「うんうん、俺めっちゃ反省しとる」
「ふんっ! 明日は朝から一日中こき使ってやるぜ」
「それはいつものことやん」
「うっせぇー! お前ほんとに悪いと思ってんのか!」

 本当に従順で大人しいのはセックスの時ぐらいだ。威勢のいい罵倒を聞き流して、苦笑しながら抱きしめ、ごめんねと伝えた。

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