ネイキッドバトラー

 従業員用トイレの安っぽい蛍光灯が明々と照らしだすロマーノの姿に興奮した。腰に巻かれただけのエプロンはひどく心もとなく、ともすれば下腹の毛すら見えてしまいそうなほどの際どさだ。自分がしている分には何とも思わなかったのに、その裸同然の格好をロマーノがしているというだけで頭を抱えたくなる。
 紐のせいで強調される腰のラインにむき出しの尻のいやらしさは尋常ではなく、身じろぎする度にチラチラと揺れる裾にすら煽られて思わず眉をひそめた。一応はこの裾は、店に出る時に簡単にめくれないよう透明なバンドで止めることになっているのだが、それにしてもこんな格好で接客させようだなんてイギリスは変態なのだろうか。あの男の場合は自らも率先して着ているわけだが……なおのこと性質が悪い気もして、それ以上深く考えるのをやめた。

「おい……スペインっ」

 咎める声は怒気を含んでいたが周りに聞こえないようにとひそめられていて、肌寒くて狭い個室では艶っぽく響く。

「んー?」
「な……ちょっ、さわんなって……!」

 それに気のない相槌を打ちながら背後から腋の下に手を差し込んだ。瞬間、ひあっ、と悲鳴が上がる。こちらの手が冷たかったのだろう。ロマーノが鳥肌を立てて腋を締めた。腕が挟まれるが構わず指を伸ばすと、

「いっ……たあ!!」

 思いきり手の甲を抓られ泣きを見ることになった。乾燥した皮膚が引きつられヒリヒリと痛む。

「もー何すんねん! ……って、ろ、ロマーノ?」
「…………」

 肩越しに顔を覗き込めばふいっとそっぽを向かれた。それで反対側から顔を出すと、今度はスペインから逃れるようにのけ反られる。体を抱きしめしつこく追いかければ、ツンと唇を尖らせて琥珀色の瞳をきつく釣り上げ睨み付けてくる。蛍光灯の下では弟のヴェネチアーノと同じダークブラウンに見える猫のような目。昔からこの目に弱かった。

「何するって……こっちのセリフだろ。着替えた途端こんな寒いところに引きずり込みやがって……何なんだよ、急に」
「いやあ、だってぇ……」
「だってぇ、じゃねぇよ!」

 律儀にスペインの口調を真似るロマーノの言い草があまりにそっくりで笑ってしまいそうになる。相手を小馬鹿にするためとはいえ、この子分様は妙に物まねが上手い。

「……なあ、ロマーノほんまに店手伝う気なん?」
「何だよ……てめーだって働くんだろ。何か文句あんのかよ」
「俺はええねん。キャラやん。ロマーノは普段そういうことするタイプちゃうのにおかしいで……イタリアの仕事すら真面目にせぇへんやん」
「う、うるせぇ! これでもてめーらが言うよりは働いてんだよっ」
「それにこんな格好やで」

 ぺら、とエプロンを捲るとすかさず手で押さえられる。一瞬だけチラッと見えた生足が眩しい。

「い、いきなり何してんだよ……ッ! はげっ変態!」
「いやいや、客の中には俺よりごっつい変態もおるで。そんなんで大丈夫なん?」
「はあ?! い、イギリスはそんなおと言ってなかったぞ?! あいついかがわしい店じゃねぇって……!」
「そりゃあ表向きはそうなっとるけどな。酒入ったら多少イタズラしてくる輩もおるに決まってるやん」
「……んなこと言って脅そうたってそうはいかねぇぞ。大体それじゃあお前はどうすんだよ」
「俺は見られてもどってことないもん」

 捲られたぐらいじゃ何ともないし、堂々としていれば相手も気まずそうに裾を戻してくれることがほとんどだ。ロマーノのように恥ずかしがったり見えないように隠そうとしたりするほうが相手を煽ることになるだろう。
 スペインがそういう目で見てきたのが悪かったのか、ロマーノは男同士でも肌を晒したり胸を揉まれたりすると、やたら過剰な反応を見せる。今だって裾がずり上がらないように手で押さえ付けているのだが、そういうことをされるとかえって捲りたくなってしまうのだ。心もとないガードほど、ひっぺがしたくなるのが男の性というものだろう。

「ロマーノはちゃうやろ、仕事中に捲られたら嫌なんやろ?」

 追い打ちをかければ少し弱気になったロマーノが視線を逸らしながら答える。

「しょうがねぇだろ……俺だって好きでやってんじゃねぇんだよ。あのイギリスの野郎がドス黒いオーラで脅してきたから、仕方なく来てやっただけだ」
「あんな奴の言うことなんか聞かんでええ」
「……俺はお前やフランスの髭野郎みたいに言い返せねぇんだよっ! ヘタレで悪かったな!」

 スペインが言い募れば募るほど、ロマーノはますます意固地になっていく。
 そんなつもりちゃうで、と頬にキスを寄せれば、じゃあどういうつもりだったんだよ、と眉をひそめられる。実際スペインはロマーノにイギリスとケンカしてほしいわけではないから彼がヘタレでもどうってことはないのだが、ただいつものこととはいえ怖い相手の言うことはとりあえず黙って聞いておこうとなるロマーノに、心穏やかではいられなくなるだけなのだ。
 はああ、と腹の底から息を吐き出して目の前の体を抱きしめる。成人した男の骨格をしているにも関わらず、鍛えられた体躯からは程遠いロマーノの体は、厚みがなくしなやかだ。幅ばかりが広くなだらかな胸板に引き締まった筋肉、陽に焼けた張りのある肌。スペインとは見た目の年齢にそれほど差はないはずだが、こうして見ると全く違って見えた。そもそも骨の太さからして違うのかもしれない。

「……って! おい、ちょ……スペイン!」

 黙り込んだままそろりと肌に指を這わせると、すかさずギョッとしたような声を上げられる。そんな大声出したら外に聞こえてまうで、と耳打ちすれば慌てて口を手で覆い首を竦める。相変わらず素直なんだか何だかよくわからない。

「おい、スペイン……ッ」

 極限までひそめられた声が掠れて上擦った。

「なにー?」
「なにって、ちょ、ぁ……っ!」

 耳たぶに噛み付いた途端、ロマーノが息を呑む。声を抑えようと体が強張ったのを良いことに脚の付け根やへその周りを撫でてみると、びくびくと肩が跳ねたが構わず指を滑らせた。本人は身を捩って逃れようとしているつもりのようだが、簡単に抑え込めてしまえるひ弱さに、やっぱり少しは鍛えてほしいと身勝手なことを望んだ。骨張った肩に派を立てるとロマーノの喉がひゅうっと鳴る。どちらにせよ、関係者以外立ち入り禁止のスペースとはいえ営業中の店内で事に及ぼうとしている自分が言えた義理ではないのだろうが。
 少し赤く色づいた肩に顎を乗せてロマーノの体を見下ろす。スペインがふれているせいなか、はたまた暖房もない肌寒いトイレの個室にいるせいなのか、空気に晒された胸もとは鳥肌が立っていて乳首が縮こまっていた。ピンと尖り立つそれは普段よりも濃く色づいている。

「なぁ、ここ……立ってんで。こんなんにして店出るつもりやったん?」
「んぅ……っ」

 わざと意識を向けるために周囲を爪でなぞり、縁を指の腹で愛撫する。ロマーノが腰を捻り逃れようとするのを抱き込んで、いやらしいなあ、と囁いた。

「何でこんなんなってるん? まさか男やのに見られるだけで感じてまうの?」

 顔を覗き込むとまぶたをぎゅっと閉じて、ふるふると首を横に振られる。先ほどまでの強気な態度は保てないようだった。
 背後から抱きすくめれば火照る肌。スペインがふれているせいなのか、ロマーノの体はどんどん熱を上げていく。それに目まいを覚えるほど興奮した。
 スペインの指先がロマーノの胸もとを探りギリギリ際どいところを撫でるのに、ロマーノが腕を突っ張って抵抗する。ほとんど力が入っていないんじゃないかと思うほど弱々しいものだったが、きゅっと唇を結んで襲い来る感覚に耐えようとしている彼にとっては、そんなものでも必死なのだろう。
 乳首の周りを撫でて中心にはふれずにするりと避けたり、くすぐるように愛撫をする度にロマーノの体がビクビクと跳ねる。力があまり入らないのか背中をスペインに押し付けてきている。自力で立っているのがやっとなのだろう。

「見て、ロマーノ。ここぷっくりしてきた」
「……ぅ、はぁッ!」

 硬く縮こまっていた尖りがスペインの愛撫に反応するように、形を変えてぷっくりと膨らんでくる。それを摘むように指に挟めばロマーノが切羽詰まった声を上げ、慌てて自らの腕を押し付け俯いた。

「お、おまえが……ッ! いじりすぎるせいだろ……」

 くぐもった声で抗議してくるが、ほとんど落ちきった声色では可愛いだけだ。気にせず胸の突起を捏ねて指の腹で潰したり爪を立てたりを繰り返すと、すぐにロマーノは息を詰めて黙り込んだ。その姿に自然スペインの息も上がっていく。

「俺がさわるせいなん? でもさっきまで乳首には何もしてへんかったで」
「……ッ、ぁ……ふ、ぅ」
「ロマーノは体にふれているだけでこんなえっちになってまうの?」

 悔しそうに顔を歪めて唇を噛みしめるのにぞくぞくする。それでつい意地悪なことを言ってしまう。

「な、俺は関係ないやろ? ロマーノは変態さんやなあ……。これでお店出たらお客さんもびっくりしてまうで。ここは制服が変なだけでそういう店とちゃうのに」

 ぐりぐりと芯を持った粒を押し潰せばロマーノが泣きそうな吐息を漏らす。わざと呆れたような言い方をして彼の理性を追い詰めて、手はひたすらに快感を与えていく。ロマーノはむずがるように首を横に振って嫌がるが、体は素直に反応していた。

「ぅ……ふ、ぁ……くぅ」

 ロマーノが必死で堪えようとしている吐息も声も、誰かがそばを通れば気付かれてしまうだろう。そんな無駄な努力を無駄と思っていないところがいじらしい。狭い個室には布が擦れる音と水音、興奮を抑えきれない互いの呼吸音が断続的に響く。

「どうしよ、ロマーノこんなんじゃあイタズラされても文句言われへんなあ」
「く……ぅ、っのヘンタイめ……ッ!」

 そんなことを口にしながら指を動かしたせいか、主張を続ける胸の尖りを一際強く弾いてしまった。ロマーノの体が大げさに跳ねる。

「ンっ……!」

 鋭く上がった悲鳴は咄嗟に押し付けられたロマーノ自身の手の甲に吸われたが、体が引きつるのは抑えられないのか背をスペインの体に押し付けびくびくと震わせている。それが面白くて、敏感な反応を見せる乳首を指に挟んで捏ねくり回す。きゅっと強めに摘んで硬くなったそれを、カリカリと硬い爪先で引っ掻く。少し痛いだろうその刺激にさえロマーノは身をくねらせて喜んだ。熱を帯びてきたそれはいよいよ赤く腫れ、かわいそうなぐらいに充血している。強く苛んでいるのとは別のほうの胸先を優しくいたわるように撫でれば、もどかしげな吐息が漏らされた。焦れったいのか左右に首を振って髪を振り乱している。
 スペインの胸板に押し付けられた背が、ずりずりと下がっていく。このままでは座り込むのも時間の問題だ。さすがにトイレで腰を抜かされるのは困るので、腹に腕を回して抱き上げた。その拍子に己の下腹を彼の腰に押し付けたのだろう。息を詰めたロマーノが肩越しに振り返る。

「ぇ……ッ、あ……ばかっ」

 思いのほか甘ったるい声で抗議された。そんなねだるように言われても怖くもなんともないのだが、ぎろりと睨み付けられて肩をすくめた。

「てめ……な、におっ勃ててやがる……ッ!」
「いやあ、あんまりロマーノがえろいもんで」
「関係ねぇだろ! 始めっからそのつもりで連れ込んだのかよっ」

 非難する言葉に苦笑した。逆にどういうつもりでこれから接客のヘルプだというのに恋人をトイレに押し込める理由があるのだろうか。
 けれどそれを問うことはしなかった。代わりにこちらを向いた顎を捕らえて強引に唇を重ねる。

「んぅ」

 一瞬暴れたロマーノの体を体重をかけて押さえ込む。ちゅ、と音を立てて吸い付いて角度を変えて口づけを深くして。彼の文句を飲み込むように激しく深く貪った。元より快楽に弱い子だ。酸欠一歩手前になるまでの長いながいキスで追い詰めれば、すぐにロマーノのくぐもった声は乱れた吐息に溶けていく。
 すでに湿ったやわらかな唇を堪能するように吸っては啄む。顎を掴んでいた手を離して後頭部に差し込むと、彼の腕がスペインの背中に縋り付いてくる。その頼りなさに庇護欲がかき立てられて、一方でここまで乱して先を望んでいるという状況に倒錯感を覚えてぞくぞくした。
 壁越しに感じるバックヤードの忙しない気配と、さらに遠くに店内の喧噪。ヘルプで入った他人の店で何をやっているんだか。我に返ると同時にロマーノの甘い吐息が漏れて、結局理性は流されていく。
 唇を合わせたままロマーノの腰に巻かれたエプロンの、濡れて色が濃くなった部分を軽く指先でなぞるとぬるりと粘着性のあるものが指に絡まった。彼の綺麗な脚がもぞもぞと擦り合わされる。それに視線を落としつつ、卑猥な染みを見やった。これはどうやったって誤摩化せそうにない。何より先ほど執拗に弄り続けた胸もとが明らかに赤くなっていて、このままでは店に出すのは難しいだろう。これではイギリスに嫌みを言われるどころかオランダあたりから本気でどやされそうだ。そのあまりに現実的な想像に苦笑した。人のことは言えないが、オランダはこの子のことを甘やかすのがどうにも好き過ぎる気もする。

「ロマーノ……」

 はあ、と熱い息を吐き出しながら、そっと唇を離して瞳を覗き込む。どろりとした琥珀色の目は金緑に輝いていた。光によって色を変えアンバーにもグリーンにも見える彼の瞳は、興奮している時だけは黄色みを強くし宝石のように瞬く。スペインは彼がこの色をする瞬間が一番好きだった。まるで自分に染め上げたようで、ひどく満たされる。
 囁く声でロマーノの名を呼びかける。彼が僅かに身をくねらせた。

「ええやろ?」

 彼の瞳が確かな欲望と薄らいでゆく理性の狭間で揺れている。あと一押しだと確信して、こめかみにキスを落とす。ロマーノの体から徐々に力が抜けていくのを確かめて、そっと自らに寄りかからせれる。

「絶対気持ち良うするから」

 お願い、と哀願すれば泣きそうな顔を向けられた。ちゅ、ちゅ、と目尻や頬にも唇を降らせて甘えた声で、なあ、と繰り返す。

「ロマーノもこのままじゃ終われへんやろ? なあ、頼むから……ちゃんとロマーノがいいって言うまで入れへんし、いっぱい気持ちええとこ擦ったる。ここのな、膨らんでるとこ突いたらおまえ何度でもイってまうねんで。それにこっちもさわったるよ」

 尻の狭間に指を這わせながら、エプロンの上からはっきりと形づいている性器を掴む。今までにも何度も攻めてきて、それがどれだけ気持ち良いかよく知っているだろう、と囁いて、はあっと熱い息を吹きかける。彼の体がぞわぞわと震えた。

「ぁ……ッ」

 目を見開いたロマーノの目尻に朱が走る。それに気付かないふりをして握り込めば、性器が麻布越しにひくりと脈打つ。ごくりと唾液を飲み込もうとして引っかかる。もう口の中が渇いている。それでも無理やり喉を鳴らせば痛みに眉をひそめるはめになった。

「ロマーノぉ……」

 上目づかいで見上げて、軽く首を傾げて。眉をひそめた苦しそうな顔をしたロマーノが、ぎゅうっと唇を噛みしめた。

「ちょ、ちょっとだけだぞ……」
「ロマーノ! 大好き! 愛してんで!」

 感極まって抱き付くと、ロマーノが鬱陶しそうに腕を組む。どうせいつもの強がりだとわかっているから、気にせずキスをした。

 エプロンの布ごと握り込んだ性器に力を加え、徐々に擦り上げるスピードを上げていく。先走りの液でベタベタの性器は布越しにも濡れた音を立てた。ざりざりとした麻が擦れる音といやらしい水音が個室内に響いてスペインを余計に煽る。
 
「あぅ……あ、んァっ!」

 高い声を上げるロマーノはすっかり陥落しきっている。それでも彼は腋の下から差し込んでいるスペインの腕を掴み身を捩ろうとする。僅かに爪を立てて抵抗するそぶりを見せるのは、おそらく生理的なものなのだろうが無駄と言うほかない。
 目の前がくらりと回る。腕を掴んでいる指にも立ててくる爪にも、全く力が入っていないのが余計にいけない。

「ァあ、ンぅ……はっあァあ!」

 完全に勃っていても余る皮を引っ張って先端をむき出しにする。普段は隠れているせいか余計に敏感なそれを親指の腹で刺激しながら扱き上げる手を早めていけば、刺激を与える度に聞こえてくるくぐもった声が徐々に切羽詰まってくる。それでロマーノの限界が近いことが知れた。
 いつも以上に早いと思いつつも、尻のほうへと手を伸ばす。

「すっご……こっちまで濡れてるで」

 入り口の縁をぐるりとなぞって爪先だけを内側に入れてみれば、中がドロドロに熱くて驚かされる。ハッとして彼のほうを見やればこちらの言わんとしていることが伝わったのか、ロマーノが居心地悪そうに視線を逸らした。

「……あかん、めっちゃ気持ち良さそう」

 思わず漏れたひとり言も、狭い個室の中じゃしっかり伝わってしまっただろう。ロマーノの性器がびく、と反応をする。それに背筋がぞわぞわと震えて、スペイン自身も限界を感じ始めていた。

(あかんわ……結構もたへんかも)

 約束をした以上、強引に押し進めるわけにはいかなくて、とにかく的確にロマーノの中を解そうと躍起になる。ぐにぐにと指先を動かしながら中に侵入していって、腹側にあるロマーノの一際弱いところを探った。
 唾液を足して、たっぷり濡らした襞をかき分けていくと、ぷっくりと膨らんだしこりを見つける。そこはいつも以上に硬くなっていて、焦って探っても見落とすことはなかった。

「ひぅ……ッ、あァあ……ンぅ!」

 いきなり強い刺激を与えても、ロマーノが痛がることはなかった。彼もまた、この異常な状況に興奮しているのだろうか。

「あァあ……ッ、スペイン、スペイン……っ!」

 泣きながらうわ言のようにスペインの名を呼ぶ。なに、と訊ねれば駄々っ子のように首を横に振って、キスをすればさらに泣きだす。
 このままではまぶたも腫れてしまうかもしれないな、と思った。

(でもむしろ、そのほうが……)

 チラリと過った独占欲にあっという間に呑まれてしまう。
 恥ずかしがる必要のない場面でまで裾を押さえて恥ずかしがるこの子に、こんな風にふれて良いのはスペインだけ。その事実が欲で理性を押し流された今、ただひたすら歓喜として沸き上がってくる。

「はっ、もう、ええか?」

 約束通りロマーノの許可を得ようとして問いかける。それでも我慢しきれず自らのいきり立った性器を彼の尻の間に擦り付けて揺さぶると、ロマーノは余裕なさげに首をぶんぶんと縦に振って、涙目を浮かべてスペインに縋り付いてくる。

「も、いいからっ……なんでもい、いから……ッ!」

 すっかり理性もなくなって冷静な思考ができなくなっているロマーノを無理やり振り向かせてキスをする。彼の可愛い声が外に漏れてしまうのが怖かったのだ。ロマーノがすすり泣くようにあえぐのも全て飲み込んで、唇を重ね合わせたまま腰を押し進めた。

「んんぅ……ッ!」

 瞬間、離れてしまいそうになるのを体を強く抱き込んで押さえ付ける。十分に慣らした内壁がスペインの性器に絡み付いてくるようにひくひくと収縮して、ずるずると挿入を進めていくごとに歓迎されているような錯覚に陥る。包み込まれるような熱い粘膜に気を抜かれると持っていかれそうになる。
 気持ちいい、と。ただそれしか考えられなくて、ともすれば強引に進めてしまいそうになるのを、ぎっと歯を食いしばって耐える。寒かったはずのトイレの個室で、じんわり額に汗をかいている。
 ちらり、と見やればロマーノは眉間にしわを寄せているものの、苦痛を感じている様子はない。それに安堵しながら、さらに奥へ奥へと腰を突き進めていった。快感に腰が震え手足が痺れだす。踏みとどまろうと腹筋に力を入れるが、くっ、と唸る声を上げてしまった。

「ん……ッ! ふ、ぅ……ぐ、ンん」

 少し離れた唇の間から嬌声が上がって、うっとりとした眼を向けられる。本人は無意識なのだろう、体を擦り寄せられて。近付いたロマーノの匂いと体温に頭の中が真っ白になった。半分ほど入った性器を入り口まで抜き出して、再び奥へと突き込めば、ロマーノの肩が強張った。それを労るように腹を撫でながら、今度は浅いところまで引きずり出して浅いところで抜き差しを繰り返す。

「ふぁ……ッ ぁ、んぅ」

 それはロマーノのお気に召したのか、蕩けるような吐息を漏らして感じ入っている。鼻から抜ける呼吸が色っぽくてどうしようもなかった。
 腰を前後に動かす度にひくついて、スペインの射精を促すような動きをする肉壁。徐々に律動は大胆なものになっていく。
 先ほど探り当てた前立腺に先端を擦り付けた時は大げさに体を捩らせて、もうだめ、だめ、とキスの合間に何度も繰り返していた。その囁くようなか細い声で泣き言を言う様が可愛くて、しつこくゴリゴリと苛めばロマーノの体が前かがみになり緊張で強張っていく。
 鼻から抜ける、はあはあという呼吸音が止められない。外に聞こえているんじゃないかとすら思ったが、今さら引き下がれるはずもない。
 もっと乱れさせたくて、自分の与える快感に狂ってほしくて半端に煽った性器を握り込んだ。すると、

「ぅあッ、…………ぅっ!」

 ロマーノの体が突然びくびくと痙攣するように引きつった。それすら構わず容赦ない強さで擦り立てながら、もう片方の手で頬を固定しキスを続ける。
 最後のほうはほとんど離れていて、無理やり合わせようと舌を伸ばしているだけだった。
 次第にロマーノの体が小刻みに震えだして、ぐっと息を詰めて全身を強張らせるようになった。気を抜けば崩れ落ちそうなその体を、回した腕で支えながら腰を突き入れる速度を上げた。
 何もかもがわからなくなって、ロマーノは呼吸すらも忘れたように静かになった。まるで人形みたいにされるがままになっているのに、頭の芯がじんじんと痺れる。本当は心配をしなければいけないのだろうけれど、スペインにも余裕がなくて、ただ内側からガンガンと打ち付けてくるような快感への指示に従うことしかできなかった。
 凶暴な衝動に襲われて、どうして良いのかわからなくなる。それをぐっと堪えて喉を鳴らせば、突然強い射精感が襲ってきた。

「はぁ……ッ! ろま、ロマーノっ」
「んぅ……ふ、あぁ……!」

 一際きつく締め付けてくるロマーノの胎内に思う様欲望を吐き出す。その余韻に腰を動かしながら全て注ぎ込むと、続いてロマーノも射精した。

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