睡眠姦

R18。
親分大破の続き。
 
 
 
 遠くのほうでトラックが走る音がした。それを聞いた途端ふっと意識が浮上して、じわじわと五感が戻ってくる。朝方の爽やかな空気、まぶたの裏に映るやわらかな陽光、自分と同じシャンプーを使っているスペインの匂い。覚醒しきっていない頭でぼんやりと認識したのは、どれもこれも慣れ親しんだものばかり。
 朝とは言ってもまだ夜も明けきっていない早朝だし、起きだすには早過ぎる。目を開けるのも億劫なぐらいだ。夢とうつつをさまよいながら、ロマーノは心地良いまどろみに身を委ねていた。
 しかし今、ロマーノの腹のあたりを行ったり来たりしている不埒な手が、穏やかな眠りを妨げようとしている。

(スペイン……こいつ、また……)

 素肌を這うあたたかな手のひらに、ロマーノはこっそりとため息をついた。
 最近、スペインと一緒に寝るといつもこうだった。
 遡ること数カ月前、ロマーノは街でならず者の男たちに絡まれているベッラを助けようとして、男の使う奇妙な術によって服を大破させられてしまったのだ。その時ロマーノのことを助けに来てくれたのがスペインだった。昔から南イタリアのことを守り続け、いつだってロマーノを助けてくれた彼の登場に初めはロマーノも安堵した。ロマーノにとってスペインの存在は絶対的なもので、彼が来てくれたからにはもう大丈夫だと根拠もなく安心できた。
 しかし男たちの術は狡猾で、スペインでさえどうにもならないものであった。彼もまた服を大破させられ、ふたり揃ってお揃いのトマトぱんつを晒すはめになってしまった。
 これだけならば、間抜けな親分子分だと笑い話にもなっただろう。だが、事はそれだけでは済まなかった。
 スペインは全裸になるとロマーノと繋がらずにはいられない体質だったのだ。

(ちくしょ……こいつの変な体質のせいで……!)

 裏路地とはいえ街中で、男たちの目もあるというのにスペインはロマーノの体を求めて、その性欲の象徴をロマーノの体内に埋めてしまった。そこからはもう思い出すにも恥ずかしくて、早く忘れてしまいたいことばかりだ。互いに理性も失くして、ひたすらに快楽を貪ったのである。

(今回だけって言ったのに……ちくしょー)

 本当なら絶交だ! と怒鳴りつけても良いぐらいの出来事だった。とは言え、スペインも故意にロマーノを困らせたわけではない。おかしな体質ではあるものの自分の意思ではない以上、本人にはどうしようもできないことなのだろう。何度も謝って、誠心誠意ロマーノに尽くす姿を見せられれば、まああの場にいた男たちも百年も経てばこの世からはいなくなるし、いつまでも語り継がれるようなことでもないだろう、そう思って怒りを収めることにした。
 しかしそれなのに。

(ったく……! ちょっとは自制ぐらいしろよな!)

 問題はスペインの中でハードルが低くなっていることだ。今まではロマーノと寝る時もわざわざ袖の長いパジャマを着て、寝ている間に勝手に脱いでしまわないようにと注意を払っていたのに、体質がバレたことで警戒しなくなっている気がする。今やTシャツに下着一枚の薄着でベッドに入るから、寝ている間に寝相で服が肌蹴るのだ。そうしてロマーノは例えスペインがそういう体質であろうとも、自身の寝る時は全裸という習慣を変える気はなかった。
 おかげでスペインと寝ると二〜三回に一回は、寝ている最中に入っている。何がとは言わずもがな、スペインのナニがだ。そのまま朝っぱらからセックスすることになったのも、今や数えきれないほど。

「あっち行けよ、このやろー!」

 今日のように、不穏な動きに気づいて目が覚めた時は大丈夫だ。腰に回されたスペインのたくましい腕を外して、彼をベッドの端へと追いやってしまえば良い。ついでに背中を向けて、シーツに包まれば完璧だ。
 ぽこぽこと頭を沸騰させながらロマーノは再び眠りに就いた。何せ朝食まではまだまだたっぷり時間がある。

「んん……?」

 寝ぼけたスペインがむにゃむにゃと寝言を言っていたが無視をして、一度手放した夢の端っこを掴むべく目を瞑った。
 
 
 
 
 
「んぅ……ぁ、っふ……ン、ぅ……」

 鼻にかかったような不明瞭な声が聞こえた。甘ったるく媚びたような声だった。

「あ ぅ、ん……っはあ、ん……」

 何だか息苦しい。それに口の中がひどく乾いているようだ。そういえばさっきからずっと声を上げ続けているような気がする。しかしその疑問を探るには意識がはっきりしない。睡魔のほうが勝っている。このまま心地良い眠りを続けていたい。
 もぞもぞと何かが背後でうごめく音がする。不意に胸元をぴりりとした刺激が走った。

「あァ……ッ! な、ぁ……ンぅ!」

 思わず体を丸めて衝撃に耐えようとするが、肩を掴まれて背をのけぞらされた。自然と胸を突き出す格好になり、左右の中心からぞわぞわと悪寒じみた感覚が広がって鳥肌が立っていく。それを撫でるようにふれられてくすぐったいような、それとももっと違う何かがあるような、何とも言えない感覚に襲われる。もどかしさに身を捩った。いっそ強く抓られたり爪を立てられたりしたほうがマシな気がして体を震わせる。その欲求に気づいた瞬間、ぶわり、胸の先端がじくじくと熱を孕み疼きだした。

「はっ……は、ン あ、はあ……はあ」

 なぜだろう。頭が熱に浮かされているせいなのか、まぶたが重くて開かない。それどころか指先ひとつ動かすのも困難で、ロマーノは金縛りにあったように身動きが取れなかった。そうこうしている間に眠るロマーノの体を蝕む熱は、じわじわと全身に広がっていく。
 ロマーノの体をまさぐっているものは妙に覚束ない動きをしていた。つつつ、とやけにねっとりとふれていったかと思えば突然ぴたりと止まってそのまま数秒固まり、次に動き出した時にはいきなり無造作に揉みしだいてきたりもする。

(ちがう……そこじゃね……、ん……もうちょっと……!)

 ふれてほしいところを気まぐれにくすぐられる度に、少しの刺激をもしっかり感じ取ろうと神経が研ぎ澄まされていく。そうするとふれてくるものに対して体が敏感になった。いつしかロマーノは自分の体を這っていく何かに、もっと強くふれられたいと思うようになっていった。はあはあ、と呼吸が荒くなる。後ろから聞こえてくる吐息も荒々しく、首の後に吹きかける息の熱さに身震いが止まらない。

「ひっ、あァ! あ……ッ、んぁ……ッ!」

 自分の身に何が起こっているのかも理解できていないロマーノの尻に、何か硬いものを押し付けられた。それは先端がぬるぬるしていて、尻の間に擦り付けられると濡れた感覚があった。しかし気持ち悪いと感じたのも最初のうちだけで、だんだんとそれが心地良くなってくるからわけがわからなくなる。どうせ不明瞭な思考はほとんど働いていない。早々に考えることを諦めて、与えられる熱に身を委ねた。

「はー……はあ、はあ……」

 浅い呼吸を繰り返す背後の男が、突然覚醒したようにロマーノの体を抱きすくめてきた。ロマーノは横向きに寝転がされているようで、男の片腕が体の下敷きになっている。それでも構わず前に回してきて、強く胸を揉みしだかれた。

「ひゃァ……っ! あ、ンん……! あ、ァ……はっ、あ……ぁ」

 口からひっきりなしに漏れる不明瞭な声があたりに響く。抑えられるもののないあえぎ声は、朝方の静かな室内によく響いた。男はその声に一層興奮したのか、尻に押し付けているものをびくびくと脈打たせ固くする。それを感じた瞬間、体にぶわりと熱が溜まっていった。その感覚は覚えがあった。ずくり、ずくり、と全身の血液が腰に集まってくるような感覚だ。
 胸を揉みしだく手のひらが立ち上がり縮こまった胸の先端を押しつぶして、ぐにぐにとこねくり回している。先ほどのもどかしい愛撫で敏感になっていた体には堪らない刺激だった。背筋を駆け抜けていくような鋭い快感に体をのけぞらせる。それだけでも十分すぎるほどの気持ち良さだったが、手のひらは動きを止めることなく断続的に刺激を与えてくるので、ロマーノの体がシーツの上をびくびくと跳ねていった。

「っくぅ……あ、あァ あ……っン……っふ、ぁ……あ、っはあ、あァあ」

 さらに胸を弄くっているほうとは反対の手が腰の上から前へと回されて、ロマーノの下腹部あたりで不穏な動きを見せだした。脚の付け根を爪の先でふれられて、期待感からロマーノの腰が打ち震える。

「っは、もう、めっちゃ大っきいわ……」

 吐息だけで囁くような低い声が耳元を掠めていく。耳馴染みの良いその声はロマーノが幼い頃からよく知るものだ。その声を聞いただけで体から力が抜けていって、胸の内がじんわりと暖かくなっていく。

「っぅあ……ッ! ぁ、あぁ……っくぅ……!」

 ぐぐぐ、と腰を押し付けられて尻の間を行ったり来たりしていた硬いものが、ぬるり、と中に入り込もうとしてきた。体が弛緩しているせいか力が入らなくて、入り口は程よく緩んでいた。大きな熱の塊が強引に侵入しようとしても阻むものはなく、それどころか口がぱっくりと開いてそれを受け入れようとする。
 相変わらず体の自由は効かず、指先一歩動かすこともままならない。それでもいきなり挿入されるには大きすぎる執拗に、腹の奥が苦しくて呼吸が上手くできない。

「あァ っ……んぅ! あっ、あ……あ、あァ……!」

 するとロマーノの腿や膝のあたりをくすぐり、内側のやわらかな肌を楽しんでいた手がロマーノの下腹部に兆したものを掴んだ。刺激に弱いそれをいきなり握り込まれて、先端からびゅく、びゅく、と断続的に精液が迸る。

「……すご、さわっただけでイってもうたん……?」

 背後でひとり言のようにブツブツと何かを言いながら、先端だけ挿入したものを一際大きく膨らませた。

「あ……ッ!」

 どくん、と脈打ちながら胎内で育つそれにロマーノの胎内が反応する。その拍子に中が自ら誘い込むようにうごめいて、入れられかけたものを迎え入れてしまう。壁を擦るように入ってくるものの熱さに鳥肌が立つ。ぐるぐると熱が体内を駆け巡っていき、逃しきれない熱にただあえいだ。

「っはあ……気持ちええ……、ええよ、ロマ……ロマーノ」

 はあ、はあ、と息を荒げながらロマーノの性器を擦り上げていく。達したばかりで敏感なそこは、それだけでぴりぴりと痺れるような快感を生んだ。

「ぅあ……っは、ァ ン……ッ! あ、ぃ……すぺ、……っは、ン」

 咄嗟に唇が動いた。それを耳で聞いて、徐々に意識が覚醒していく。真っ暗だった視界がぼんやりと薄明るくなっていって、スペインの匂いと濃厚な精の匂いが感じられた。
 濡れた音を立てながらロマーノの性器を扱き上げる手と、相変わらず胸を悪戯に攻めている手が理性を削り取っていく。その度に体が跳ねて肩が強張る。すると中のものを締め付けるのか、スペインが艶っぽい声で、気持ちええわ、と囁くので耳から犯されているような倒錯的な気になった。
 ずるずる、とロマーノの胎内へ収められた性器がゆっくりと引き抜かれていく。抜け落ちるギリギリのところで止まったのに、思わずロマーノの背がピンと反った。一瞬の緊張。ついで、ドン、と押し当てられるような強烈な衝撃が走る。

「ぅ……あ、ァ……あ、あァあ ん……ぅ!」

 体の内側をごりごりと擦られていく衝撃に耐えきれず、スペインの手のひらに握られたままロマーノは再び達してしまった。頭のてっぺんへと突き抜けていくような快感だけでも堪えきれないのに、さらに追い打ちをかけるかのごとく全てを出し切らせようとスペインの手のひらが扱いていくので、ぷるぷる、と体を震わせながら精を吐き出すしかない。
 全てを出し切るとスペインの腕はロマーノの腰を引き寄せた。背中に隙間なくひっつけられた胸板がたくましく、とても熱い。スペインの興奮を表しているかのようで、ロマーノの体が震える。

「あ、っはあ……はっ……ぅ、あ」
「ぅ……っくぅ……っはあ、あかん、セックスが、こんな……気持ちええなんて……ッ」

 堪えきれなくなったのだろう。スペインの腰が激しく打ち付けられる。そのあまりの強さにロマーノは気が遠くなった。先ほどから中途半端に感覚だけが覚醒している状態で身動きを取ることもできずにいたが、完全に現実を遮断し意識を失ったのだ。その間も興奮しきったスペインはロマーノの体をきつく抱きしめて、胸やら下腹部やらをいじり続けている。
 刺激に耐えきれなくなったロマーノは、ふっと顎を反らすとまぶたを閉じた。

「っは、っく……っはあ、はー……は、ロマ……ロマーノ……ッ!」

 ラストスパートとばかりに腰の動きを早めて、横向きに臥せるロマーノの体を背後から羽交い締めにする。意識もなく脱力しきったロマーノはされるがままだ。
 吐き出される吐息は熱く湿っていて、スペインの興奮に合わせて浅く速くなっていく。どくどく、と心臓が胸を突き破りそうなほど激しく脈打ち、全身をぐるぐると巡る熱が出口へと向かって一箇所に集まっていった。
 視界が白くなっていく。チカチカと明滅したかと思うと、次の瞬間にはパチンと弾けてずっと耐えていたものが迸った。

「っくぅ……あかん……、でる……ッ!」

 どくん、一際大きく脈打ったスペインの性器がロマーノの胎内へと熱い精液を吐き出していった。続いて、どく、どく、と勢いは止まらずに射精が長く続く。それを中に種付けするかのように擦り付けるべく、腰を前後に揺らした。じわじわと全身に広がっていく心地良い快感と倦怠感にうっとりと目を細める。

「……ん、ぅ……あ、ァ、なに……?」

 中に出される感覚で意識を取り戻したのだろう。ロマーノが身じろいだ。それを引き止めるように抱きしめて、ぐい、と腰を押し付ける。

「ひァ ん?! な、なに……あ、なんか、でてるぅ……っ!」

 目が覚めたらいきなり挿入されていて、しかも精液を吐き出されている。その衝撃に目を見開き、混乱しきったロマーノは嫌々と首を左右に振った。寝起きのせいか声は舌足らずでどこか甘ったるい。子どものような仕草にスペインは再び興奮し、性器の力を取り戻していく。

「ぅあ……! な、も……すぺいン! おまえ、でかくすんな……ァ!」
「ごめ、せやけど……ロマーノが可愛えから……ッ!」
「ふ、あ……も、あァ、ン! あ、やめぇ……そこは……っ!」

 まだ射精は続いていたが、自然と動く腰がロマーノの悦いところに当たったらしい。高い声を上げて体を縮こまらせるので体に力が入ったのだろう。胎内の内襞がスペインの性器を搾り取るようにうごめき、入り口のところがきゅうきゅうと締め付けてくる。

「……ロマ、なんでやろ……俺、お前のこと見てると我慢できへんねん」

 胸がぎゅうっと苦しくなって彼を掻き抱きたくなる。その強すぎる衝動が自分でも抑えられず、スペインはついロマーノの体を犯してしまうのだ。

「ぅあ……ン、あ、俺が……っ、わかるわけ、ね……ふぁあ ッ! あ、あァ……!」
「せやんな……ッ、っはあ……ロマ、ごめん、もっかいシよ……?」

 言いながらも既にスペインの腕はロマーノの体を押さえ付けていて、腰はゆらゆらと揺らめいている。ロマーノの快感を引き出すような確信を持った動きだった。その刺激にロマーノの理性はあっという間にさらわれていく。

「あ……きもち、い……ッ! あ、ァ……すぺ、スペイ、ン……ぅ!」
「俺も……ッ! 俺もやで、ロマ……っ!」

 互いの熱に巻かれて意識が半濁していく。ふたりは未だに気づいていない。その衝動が恋愛感情による愛欲であるということを。ただ本能のままに求め合い、貪ることでしか胸の内にぐるぐると巡る情熱を発散する方法はなかった。
 窓の外は明るくなっていて、そろそろ夜も明ける。街は一日を始めようとしているが、ふたりはしばらくベッドから出られないのだった。

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