ワンタイム

 俺の話も聞かずに店から出たアントーニョは、大通りで止めたタクシーに乗り込んで言葉短に行き先を告げた。てっきり俺の家まで行くのかと思いきやこいつの家の方角だ。俺が口を挟む間もなく車は勝手に走り出し、俺とアントーニョをこいつの家へと届けてしまった。

「お、お前の家……?」
「嫌?」
「いや、じゃねぇけど……」

 ソファはもう良いのか。見たいってさっき言ってたじゃぇか。
 って、そうじゃなくって。そう、嫌じゃないのが困るんだ。ふざけんな、てめー勝手なこと言いやがって。なんて。言えないのが惚れた弱みってやつだ。
 いつもと違うアントーニョには先ほどからずっと振り回されっぱなしで、そんな自分が情けないやら勝手なことをされて腹立たしいやら。

「着きましたよ」
「ありがとー釣りはええよ」

 俺が頭を抱えている間に、普段ののんびりした言動からは想像できないぐらい手早く財布から札を取り出し運転手へと押し付けたアントーニョは早口でそれだけ告げて、俺の手を引きタクシーを降りた。

「お、おい、いいのかよ」

 運転手が何事か言おうとしていたのも聞かずに歩き出すので何度も、なあ、おい、と声をかけていると、低く唸って振り返る。

「……待ってられへんもん」
「待てないって……でも、まだ何か言ってたのに」

 話している間も俺のことも見ずに、がちゃがちゃと鍵を探って扉を空け、乱暴に家に押し込まれた。

「う、わ、ちょってめぇ!」

 ぐいぐいと背を押されて抗議の声を上げた。何なんだ、なんだ一体。

「な、もういいからロヴィ黙って」

 体を反転させられ視界が回る。向き合う形になった俺を、やっとだ、と言って抱き締めてきた。やっと、って何が。

「俺、ロヴィーノのことが好きやねん」

 ぎゅうぎゅうと回された腕に力が込められる。その強さが苦しいぐらいで軽くむせたが、アントーニョはそんなことお構いなしだ。
 こんな玄関先で電気も付けずに、一体何をやっているんだろう。余裕のないアントーニョと、頭がついてけなくて現実逃避を始める俺と。本当にこれは何なんだろうな。

「なあ、どうしたらええと思う?」
「な、にが」
「ロヴィーノがめっちゃ好き。好きやのにどうやって伝えたらええんかわからへんの」

 肩口に頭を押し付けられ、俺もどうして良いかわかんなくてアントーニョの服の裾を掴む。が、「あかん……」と言われた。うーとかあーとか唸りながら、背中をかき混ぜるように撫でられて居心地の悪さに首をすくめる。

「それを言うなら、俺のほうがずっと好きだったのに……」

 妙に冷静な言葉が口をついた。静かな室内にぽとりと落ちた呟きに、今言うのってそれなのかって思ったりもしたけど。きっといろいろ振り切れちまって、俺ももう普通じゃないんだろう。

「ほんまなあ……なんなんやろうな」

 もう参ってしまったと彼は言った。そのままアントーニョは俺を抱きしめて移動し、壁にもたれかかってはーと深く息を吐き出す。俺はそれにされるがまま振り回された。薄々気付いていたけど、軽々と俺のことを引き寄せる馬鹿力にちょっとへこんでみたりもする。いくら俺がへたれてるからって、こんなそんな。

「ロヴィーノなんで俺のことなんか好きなんやろうってずっと思っとった。こんなべっぴんさん、他にもええ奴おるやろうにって……。フランシスもギルベルトもロヴィーノはいつも片思いばっかしとるって言うから、それはなんちゅうもったいない話なんやと思っとったのに今その相手が俺なんやで。気になって気になってしゃあないし、ちょぉっとくっついたらすぐ顔真っ赤にするし可愛いし……」
「は、はあ?! べっつに、あ、赤くはなってなんか……いるかもしんねぇけど、可愛くしてるつもりはねぇよ!」
「あほ、お前はめっちゃ可愛いんやで?! 肩触っただけで真っ赤になってるくせに睨み付けようとしてきて、でも眉とかこんぉな下がってもうて、もうギブアップみたいな顔して」

 勢い良く喋りだしたアントーニョが途中でぐっと息を呑んで、瞬きひとつ分、呼吸を溜めた。

「なんやねんもう……頼むわ。これ以上俺のこと惑わさんとって」

 最後のほうはほとんど絞り出したような声だった。空気にかき消えてしまいそうなぐらい弱々しく小さなものになったので、もしかして泣いてるんじゃないかって思ったほどだ。頼りなく揺れた声音に、俺も恐る恐る背中へと腕を回して宥めるようにとんとんと緩く叩いた。

「アントーニョ……」

 俺の声もびっくりするほど甘く滲んでいた。

「あーもう! そもそもこんな可愛い子に一年も一途に想われて、好きにならへんほうがどうかしてる!」

 いやいや、今まで好きになった誰もが俺のことを好きになることなんかなかったぞ。
 けれど今大事なのはそういうことじゃない。

「なあ、好きやねん……俺こんな人を好きになったことなくて、どうしたらええんかわからんの。連絡あんまとらへんかったのは……ロヴィーノが俺のこと好きって知ってて付き合ってって言うんも何かずるいなって悩んでて。でもやっぱこのまま黙っとくなんて無理や」

 ふっと腕の力が緩められて、締め付けられていた胸が楽になった。アントーニョが顔を覗き込んでくる。廊下の窓から入ってくる街灯の青白い光でも、彼の顔が赤いことがわかった。

「そ、そんなこと……お前ちっともそんな風じゃなかったじゃねぇか……」

 まるで俺が拗ねているようだ。恥ずかしさを紛らわすために上目で睨み付けたけど、きっとそれさえも情けない顔をしてんだろう。

「……なあ、ロヴィーノ。もう俺がおかしなる前に俺のもんになったって?」
「……」
「ロヴィーノをちょうだい」

 言いながら徐々に距離を詰めてくる。鼻先と額がふれ合ったところでぴたりと止まり、「あかん?」と聞かれた。そんなの、こんな聞き方こそがずるい。どうやって断れるって言うんだ。

「あかんく、な んっ……」

 返答は最後まで音にはならずに唇を重ねられた。しっとりしたそれに二、三度吸い付かれて、ぞくぞくと背筋が痺れる。ちゅっちゅっと音を立てる幼稚なキスは、すぐに首に回された腕に押さえつけられて深いものになった。

「ふぅ……あ、ん」

 吐息が鼻から抜けていく。けれど、その呼吸ごと食べるみたいに深く深く口付けられて、そんなことに構っていられなくなる。漏れそうになった甘い声を噛み殺そうとして喉の奥がくっと鳴った。
 アントーニョとふれ合ってるだけでいっぱいいっぱいの俺はいろんなことに気が回らなくて、唇が薄く開いていたことにも気付かずにキスに夢中になっていた。

「……ッ、ぅ……っ!」

 突然舌が入り込んできて口の中を舐められ驚きに声を上げる。反射的に体を引こうとしても逃げられなくて、むしろアントーニョに強く引き寄せられた。置き場のない手はアントーニョの服の裾を緩く掴むだけ。
 ああ、もう何が何だか。呼吸もままならずに角度を変えて勢い良く食い付かれる。少し唇が離れた隙に水中から顔を上げて息継ぎするみたいに必死で空気を取り込むが、それでも全然足りなくて頭がぼんやりともやがかってくる。
 あのアントーニョが俺のことを言葉もなく求めている。息苦しさからなのか、その妙な感動からなのか、目尻に涙が浮かんできた。

「はっ……! はっ、あ、はあ、はあ……」

 意識が遠のきかけたところで漸く離された。肩で息をしている俺を見てアントーニョはバツが悪そうに苦く笑いながら首筋に顔を埋めてきた。

「んぅ……っ!」

 薄い皮膚に歯を立てられて自然と肩が跳ねた。二人の荒い呼吸だけが静かな家の中で響いていた。
 静寂の中で轟音のような自分の中から聞こえてくる音だけが耳鳴りのように耳についた。何をされているってわけでもないのに、内臓にどくどくと重力がのしかかって体が痺れる。もどかしいようで、過ぎる快感が体中を巡っていった。
 アントーニョの指先が俺の手の甲にふれ、そのまま這わせるように手首まで撫ぜる。そんな些細な愛撫ですら経験したことがないぐらい気持ち良くて。

「ンっ……ぁ、ぅ……」

 鼻にかかった自分の声に煽られる。ああ、今アントーニョとそういうことしてるんだ。俺が好きな、アントーニョと。
 自分がいなくなってしまったみたいに他は何も考えられなくなって、今立っているのか座っているのかさえわからない。けれどアントーニョがふれたところだけが鋭敏になって、そこだけ息をしているみたいだ。

「なんか、も、や ばい……かも」

 すっかり一人で盛り上がっちゃって、いろいろ大変なことになっている気がする。下半身からは気持ち良いってことしか伝わってこなくて実際どうなってるのか知らないけど、でもそんなの見なくたって大体の想像はつく。

「そりゃあ、そうなってもらわな」

 硬い声だった。
 しつこく撫でられている手首の神経が張り詰めて、ざわざわと騒いでいる。やけに感じてしまって、いちいち体が強張り肩が跳ねるのを止められない。

「敏感なんやね」
「ち、がっ」
「余計に興奮する」

 抑揚のない言い方をして耳たぶを噛んできた。柔らかいところに歯が刺さって、ひっと悲鳴に似た声が上がる。鋭くなった神経を嬲るように、唇で食まれ舌で舐められる。アントーニョの一挙手一投足に、いちいち媚びるような声が上がった。
 なんでこんなに感じてるのかって、好きな奴とセックスをするからだ。浮かされるように瞼を開くと切なそうに眉を寄せたアントーニョが俺のことをじっと見ていた。

「ンぁ、なに……見てっ、んぅ」

 見るなと手で隠そうとしたらシャツの中に手を入れられた。俺の体が熱いんだろうか。やたら手のひらが冷たく感じて全身に鳥肌が立つ。そうして尖った皮膚にシャツがふれるだけで刺激になって、また喘いで。まるで淫乱にでもなったようだ。
 もはやいっぱいいっぱいの俺としてはこんなまどろっこしいやり方じゃなくもっと性急にきてほしいんだけど、なぜかアントーニョは一つひとつ確かめるようにゆっくりと肌を撫でてふれてゆっくりゆっくり進めていくから、もどかしくて仕方がない。切ないのは俺のほうだ。

「あッ、も……早くぅ」
「ロヴィーノが、どこが気持ち良いんかちゃんと確かめんと」
「そんなの、ンっ! い、いから!」

 素肌を撫でる手のひらが腰にふれ、背骨を辿り、ようやく肩甲骨へと到達する。あまりにゆっくりゆっくり侵入してくるので、じわじわと絞め殺されるようだ。
 堪えきれなくなって壁に寄りかかったアントーニョのシャツを引っ張り出し、ボタンを外そうと指をかけた。俺ばっかがいっぱいいっぱいなんて、それこそフェアじゃない。
 しかしなぜかシャツが固くて全然外れそうになかった。襟元には皺ばかりが寄ってボタンホールはちっとも動きかなかった。

「力入らん?」
「ちがっ……このシャツ固いぞ」
「……そっかぁ」

 アントーニョがすっと息を吸い込むと、そろそろと背中を這わせていた手を引き抜き、俺の両手首を掴んで自分のほうへと引っ張った。

「わっ!」

 あっさりと振り回されて胸にぶつかった俺の体を軽々と抱き上げて、下から瞳を覗き込んでくる。

「それ、力抜けてんねんで」

 いつもうるさいぐらいに話すくせに、からかうでもなく静かに告げられて眼に熱が集まる。かっと赤くなって衝動のままに喚きそうになったが、口を開く前にキスをされた。大げさな音を立てて離れていった唇に「恥ずかしい奴」とだけしか言えなくて、アントーニョに苦笑された。
 そのまま壁伝いにアントーニョが歩き出す。寝室の扉を行儀悪く足で開けてベッドへと降ろされる。その間に気付いたのだけれど、アントーニョは一度も俺から目を逸らさなかった。見たこともない真剣な眼差しに怖くなった俺がキョドって視線を彷徨わせている間も、ずっと俺のことばかり見ていて、それがくすぐったいやら恥ずかしいやら堪らない。
 力が抜けているらしい俺の両手首をシーツへと押し付け、片手で服を脱がされる。片手しか使えないからか、いやに時間をかけてボタンを外されるので、まるで捌かれるのをまな板の上で待っている魚にでもなったようで余計に羞恥が煽られた。
 もう目なんか開けてられなくて固く瞼を閉じていたけど、今もアントーニョは俺のことを見てるんだろうか。あの、冷静に獲物を観察するような、それでいて今すぐにでも食ってやろうとするギラギラした目で。

「アっ、んぅ……」

 服を全て脱がされて額にキスをされる。目元、鼻の頭、頬、顎先。顔中に口付ける間、手のひらは腹筋をなぞり、脇腹を擽り、肋骨を撫でられる。その度にびくびくと体が跳ねて、自分でもそんなところが感じるなんて知らないでいたところまで何度も何度も執拗に探られた。
 例えば肋骨を数えるように人差し指でふれられるとぞくぞくした。元々くすぐったがりだったが脇腹を撫でられると悲鳴に近いぐらい高い声を上げて善がったし、腕を上げさせられ脇を舐められた時は恥ずかしいのと気持ち良いのとで頭の中が焼き切れそうだった。
 涙で重くなっていた瞼を緩く開くと、薄暗い室内でアントーニョの瞳がこちらを見ている。ぼんやりとした意識では羞恥心ですら刺激になった。

「ふ、ぁ……んンっ! はッ きもち、い、あァっん!」

 思考も理性も取り上げられて、わけもわからないまま勝手に喘ぎ声が出る。開きっぱなしの口から出る言葉の意味も考えずに思うままに声を上げていると、そんな自分にさえ煽られた。勝手に涙が零れて、それの流れる意味も知らない。

「はっ、ぐずぐずやな……」

 アントーニョの切羽詰まったような声が遠くで聞こえたけど、膜を張った遠いところにいるみたいだ。全ての神経が与えられる手のひらの熱や押し付けられる唇にばかり集中して、些細なことすら快感として拾ってくるわりに視界もはっきりしないし水の中にいるみたいに音が遠い。
 こいつに触られるなら、なんでも気持ち良いんじゃないかって心配になるぐらい、隙間一つないようにふれてくるアントーニョの全てに感じて反応する。

「はァ んンぅ! あっ……ん、ぁアン、トーニョ!」

 喉を鳴らす生々しい音がして、アントーニョの指がようやく下半身にふれた。ずっと放ったらかされたペニスは一撫でされただけでするりと離され、その奥へと侵入する。
 一瞬そこにふれて戸惑ったように動きを止めたが、すぐに俺の先走りで濡れそぼった先端からぬるっとした液を掬い取って塗り込めるように入り口へと指を這わせる。勝手にそこが期待して収縮しているのがわかった。
 一刻も早く突き立ててほしくて気が逸るのに任せて腰が揺れる。浅ましい獣みたいで、でもこいつにどう思われてるかなんて考えてる余裕もなくて、名前だけを繰り返し呼んだ。
 肉を分け入って侵入した指が、狭い直腸の中を満たす。圧迫感が内蔵をせり上がって苦しいのに、嬉しくてどうしようもない。

「はっ、あぅ はッああ、はあ……はっ」

 「苦しい?」と聞かれて呼吸を逃がすことさえ辛くて首を振りながら、やめんなとうわ言のように返す。やけに嬉しそうに細められた瞳とかち合った。
 遠慮のなくなった指が、それでも慎重に内壁を探っていく。目を瞑っていると、その形がまざまざと感じ取れてそれだけでイってしまいそうだ。けれど、じくじくと全身を苛む快楽に焦らされるのさえ気持ち良くて。背筋が痺れ、ばかになったみたいに感じてしまう。

「ひンっ! あっあぁああ、はっ、ンぁ! ぅ、あ」

 だんだんと指の動きが大胆になっていく。抜き差しされる間にひどく感じるところを探り当てられて、高い声を上げるはめになった。それを目敏く見止めたアントーニョがしつこく同じところを突いてくる。
 思いつく限りのやらしい言葉で、できる限り浅ましくアントーニョがほしいとねだって、その間もこいつのみどりの目が俺を観察するようにじっと見詰めてくる。目を開けても閉じても、その視線からは逃げられなくて、眼差しで体の中心の熱に火を付けられているようだ。
 泣きじゃくりながら半狂乱で声を上げていると、ふとアントーニョが体を起こし離れていった。自分のシャツのボタンへと手をかける。

「……途中ではやめられへんで」
「ぁっ……な、なんで、やめる必要 ン、があるんだ?」

 純粋な疑問として聞き返すと、アントーニョが息を呑んだ。
 
 
 
 どれぐらいの時間をそうしていたんだろう。ふやけた頭じゃ何も考えられない。力の抜け切った足を広げ、ほとんど力付くで突き入れてきたアントーニョが、それまでの焦ったさからは想像もつかないぐらいの強引さで俺を揺さぶった。ベッドが軋む音が耳につく。
 初めは圧迫感と引きずり出されるような不快感で引き攣っていた俺の体は、アントーニョが慣れてきたのか探り当てられた前立腺を捉えられてから、もはやぐずぐずに溶けて媚びるようになっていた。甘く鼻から抜ける声が切羽詰まって、何度も酸素が足りずに声を詰まらせる。眉をきつく寄せたアントーニョも余裕がないのか加減もなく足を無理な態勢で押さえつけてきて、それに顔を顰めても気付いてもくれない。
 もう、好きも快楽もあったもんじゃない。本能に任せたむちゃくちゃな力で突かれた。奥のほうまで届いたそれが、ずるりと引き抜かれ、また強く挿し込まれる。乱暴なやり方のわりに、良いところからはそう外れなていない。参ったな、もうだめかも。
 荒い呼吸の合間にアントーニョが辛そうに低く呻いた。お互い限界が近いんだろう。けれど、だめかもと思ったところで、少し動きが緩やかになって気を逸らされ登り詰めるところまでには至らない。
 そうなるとアントーニョのペニスがどくどくと張り詰め脈打っているのが伝わってくる。それを知って中が収縮したのが自分でもわかった。するとアントーニョがまた低く唸って息を詰める。

「あぅン! はっ、あぁああ、んぅ!」

 身も世もなく喘いで泣きながら、自分のペニスの根元を抑えた。もうほとんど我慢比べみたいになっているのに、でもまだもうちょっとだけ引き伸ばしたくて、けれど俺の健気な意思に反して精液はすでに溢れてきている。

「ロヴィ……」

 緩やかに射精する俺に気付いたんだろうか。アントーニョに名前を呼ばれた。

「あ……ぅ、あ」

 じわじわとせり上がってくる強烈な感覚に、足のつま先まで力が入ってぴんと張り詰めた。全身が強張り、びくびくと痙攣する。息を詰めて目が眩むような絶頂感をやり過ごそうとするが、視界が真っ白になっていって神経が焼き切れていく。
 アントーニョも喉の奥で何かを噛み殺したような声を上げて、ぎゅうぎゅうと俺を抱き込んだ。それで息苦しさから解放され、ふっと意識が途切れた。

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