次に彼と会ったのは、それから三日後の日曜日の昼間だった。
翌日の金曜日は一時的に晴れたものの、土曜日からは再び雨が続いたのでコインランドリーに来たのだが、それなりに人で混み合う店内にその姿を見付けた時は思わず「げっ」と蛙が潰れたような声を上げてしまった。
「あっパンツの人!」
いつもの癖で店内の奥へとやって来たが、店中に響き渡りそうな声でそう呼ばれてギクリとした。長椅子に座っている紳士がちらりとこちらを見ている。
「誤解されるような言い方すんじゃねぇ!」
それではまるで自分が下着に対して何かした人のようではないか。どちらかと言えばそういった変質者はこの男のほうである。
「やって名前知らんねんもん」
「うっせーそもそも気安く声かけてくるな」
くるりと背を向けて彼から離れようとしたが、背後から肩に腕を回されガシッとホールドされる。「ヘイ、ブラザー。つれなくすんなって二回会ったら友達だろ」彼の馴れ馴れしさはそれに通じるものがある。
ただでさえ折角の休日に雨で憂鬱なのだから、早く用事を済ませて家でゆっくりしたい。あの日の教訓で休日の間にやらなければならない家事を終わらせようと思ったのに、思い出したくもない男に会ってしまってうんざりとした。
あの後、渡された下着は袋に入れたままロヴィーノの家に残された彼女の物を入れているボックスへと突っ込んだ。いつか連絡が取れたら返そうと思っているが、実際にそれを送り出すことがないことは知っている。彼女の外国での連絡先は知らないし、それにロヴィーノには会わないのだと言っていた。それでも未練たらしく付き合っていた頃の痕跡を捨てられずにいるのは、そのままロヴィーノの気持ちだった。
だからこの男がしてくれたのは親切心かもしれないが、迷惑以外の何物でもない。
「俺、お前に礼を言われても嫌われる筋合いないのになんでそんなツンツンすんの?」
どの口がそんなことを言うのだと眉を顰めたが、彼はロヴィーノと届け物の下着の持ち主との関係が終わっていることを知らない。きっと良いことをしたつもりなのだろう。
「店に届ければ済むものを持ち歩いているからだろ」
「やってここの人に会ったことないんやもん。どうやって渡すん?」
下から覗き込んでくる近さに精一杯、顔を仰け反って離し、親指でカウンターを指した。
「忘れ物カウンター?」
「鍵付きのボックスがあるから、そこに入れておくんだよ」
「ははーなるほど」
勉強になりましたと白々しく言ってくる男にため息を吐いて、だから離せと身を捩った。もう十分、ロヴィーノの主張はわかっただろう。
「ほな名前教えて?」
「なんでそうなる」
「これも何かの縁やし仲良うしたいんやって」
「何の縁だよ。俺は嫌だ」
「せやないと会う度にパンツの人って呼ぶでーここらへん、コインランドリーってここしかないやん」
眉間に皺を寄せて肩にのし掛かっている男を見上げると、邪気のない笑顔でニコニコしている。ロヴィーノが何かを言いかけて、はあ、とため息を吐いても気後れするようすもない。
「……ロヴィーノ」
「ロヴィ?」
ロヴィ、ロヴィと何度も口の中で呟いて、何かを納得したようにうんうんと頷いている。
「俺はアントーニョやで! トーニョでもトニーでも好きに呼んだって」
「ほう、じゃあ手を離せカッツォ!」
「うっ、せ、せめて名前で」
「腐れアントーニョ、これで満足か?」
ロヴィーノの罵倒にうええ、と声を上げながら漸く手を離した。大柄な彼にのし掛かられて首が凝りそうだ。
「きれいな顔してんのに口は悪いんやなあ」
ブツブツと文句を言っていたが、ピーピーと乾燥機が終了の音を立ててアントーニョはそちらへと向いた。その隙に腕の中から逃げ出す。あっ、と残念そうな声を上げているが、こちとらイタリア男だ。ほとんど初対面に等しいような男にいつまでも抱きつかれている趣味はない。