優しさとは限らない

 窓から僅かに入り込んでくる街灯と月明かりのぼんやりとした光に照らされたカーテンがゆらゆらと揺らめいている。部屋の明かりも点けずにベッドへとダイブし、大の字に寝そべった。静かな室内。静寂がごうごうと耳につく。階下からはロマーノがシャワーを浴びる気配がしていた。
 あれだけ煽られて冷静にシャワーを浴びてなどいられようか。そのままで良いから早くしたいと急かしたスペインに、ロマーノはその前に用意があるからと譲らなかった。それとシャワーを浴びることがどう結び付くのかもわからず、用意とは何だ、それぐらい自分がしてやると迫ったのだが、お前に何ができるんだと逆に呆れられてしまい、ひとりシーツを温めるはめになったのだ。
 短くはないロマーノとの付き合いの中で、彼が今までセックスの前にしてくれていた準備のことを何も知らずにいたのだから、情けないやら自分に腹が立つやらでうな垂れる。本来ならば怒られても文句は言えない。
 問い詰めたスペインに気まずそうな顔で、洗ったりとかいろいろあんだよ、家出てから結構時間経っているし、と口にするロマーノには申し訳ない気持ちになった。そんなことを何も知らず、嬉々として本来受け入れるための場所ではないところを侵略していたのだから、頭を抱えたくもなる。

(……何も言わへんねんな)

 水が浴室の床にぶつかる音すら生々しく感じて、落ち着きなく寝返りを打った。これが皆の言うところの刷り込みなのだろうか。一体ロマーノは今までどんな気持ちでそれを行っていたのだろう。
 何度も確認したのに、サイドテーブルの引き出しを開けてみる。中には今日のためにと買ってきたローションとコンドーム、念のために塗り薬やら腹痛の薬やらを入れている。それを一つひとつ確認して今朝から何も変わっていないのを確かめた。上がってくる時に持ってきた水差しとグラスはテーブルの上。最中に暑くなるから暖房はつけていないが、毛布は多めに用意している。
 そっと引き出しを閉めて仰向けにシーツに寝転ぶ。目を瞑ればこの数日間で何度も繰り返したシミュレーションが思い浮かぶ。その中ではスペインは優しくロマーノをリードし、体のことを気づかいながら愛のあふれるセックスをするのだ。あくまでイメージの中の話だが。
 目下の悩みはコンドームを着けるタイミングだった。正常位のほうが良いのか、はたまた後背位で悟られぬ内にやってしまうべきなのか。最初からそんなにスマートにできるものなのかも不安だった。
 いずれにしても今まで着けたことがなかったのだから、ロマーノは訝しがるだろう。一言説明をしておいたほうが良いかもしれない。
 不意に扉が開く。

「……な、なんだよ」

 思わず顔を上げて部屋の入り口を見やれば、ロマーノが身構えた。

「いや、何でも」

 とぼけてみせるがロマーノは怪訝そうに顔をしかめた。

「そんなことより早よ来てや。ベッドん中寒い」
「お前のほうが体温高いだろ」
「けど暖房つけてへんねんもん」
「つけろよ……ったく不精して風呂に入らねぇから温まってこないんだぞ」

 ぶつぶつ文句を言いながらもロマーノがベッドに近付き、羽織っていたガウンを無造作に脱ぎ捨てた。露わになった彼のしなやかな肢体に思わず口笛を吹きそうになる。茶化していると思われるのも無粋な気がして、すんでのところで堪えたが。
 ロマーノがスペインが空けていたスペースに体を滑り込ませてくる。シャワーを浴びて温もった体が心地良かった。

「ローマー」
「何だよ」
「ロマーノ」
「……」

 名前を呼びながら上半身を起こして彼に覆いかぶさる。くすぐったそうに目を細めるロマーノの頬を両手で包んだ。シャワーを浴びたせいか先ほど香ったベルガモットの匂いはしなかった。代わりにスペインと同じ石鹸のそれがする。ロマーノがつけているというだけで興奮する、ミルクの石鹸だ。
 額と額を合わせて、静かにまぶたを閉じる。真っ暗やみの中でロマーノが息を呑むのがわかった。
 頬を包んでいた手をそっとあごの下に滑らせてくすぐれば、猫のように伸び上がる若い体。背を軽くのけぞらせるのが最中に彼がよくする仕草と似ていて、先の行為への期待感で体に熱がこもった。

「んぅ……」

 時おり顔の角度を変えながら、唇がふれ合うギリギリのところでとどまる。指先は顔の輪郭を辿りながら耳の下や首筋を撫でた。先ほどふれたよりももっと意図的に、彼の性感引き出そうともったいぶった愛撫をする。はあっとどちらからともなく漏れる熱い吐息。やがてロマーノの手がスペインの腕を掴んできた。
 二の腕の筋肉を確かめるようにふれる動きに興奮が募る。互いに焦れったさから呼吸が荒くなっていく。それでもまだ核心にふれることはしない。

「はっ……ぁ、スペイン」

 艶っぽい色気を含んだ声に呼ばれて、どくどくと血の流れが早まった。急激な血圧の上昇に心臓が痛くなる。一体どんな顔でそんな声を上げるのかと薄目を開けば、ロマーノは感じ入ったように目を瞑っていた。スペインよりも白い頬は紅潮し、まつ毛がふるふると震えている。
 どうにかなってしまいそうだ。まだ何も始まっていないのに、どうしようもなく頭が煮立って冷静でいられない。情熱のままに奪い去ってしまいたいのを必死で堪えて、ただ目の前のロマーノのことだけを考えた。
 首筋にふれていた指先を滑らせて、うなじや鎖骨を撫でる。慣れたロマーノの体はそれだけで、びくびくと跳ねさせ快感を享受する。

「んぅ……は、あ」

 満足げな吐息から、ちゃんと感じているのがわかる。それに安堵しつつ、そうっと胸板に手のひらを押し付けた。スペインの手のひらのほうが熱いかもしれない。ふれたロマーノの肌は風呂上がりにも関わらず、少しぬるく感じた。

「あ、……ふ、あっつ、い」

 掠れた声に理性がやられる。それにロマーノの体が冷えているんちゃうかと返しつつ、その声がみっともなく震えていないかをおそれた。
 初めてでもないのに緊張と興奮で何かやらかしてしまいそうだ。それぐらい余裕のない自分に苦笑した。ロマーノと会うまで何度も脳内でシミュレーションしていたせいか、いつもより期待が高まっているのかもしれない。すでにスペインの下肢には熱が集まり、ごまかしようのないほど昂りが主張を見せていた。
 左手の手のひらで胸の尖りを刺激し、右手の指でくるんを摘まむ。彼の性感帯であったが、まだ穏やかな快楽の波に揺蕩うロマーノは甘い声を上げるだけだった。スペインのほうはそれにすら、ぐるぐると熱が暴れ回ってのっぴきならないことになっていると言うのに。
 胸のほうは表面をいたぶるように素早く手で弾いて、髪束は擦り上げるように指を動かして着実に追い詰めていく。敏感な彼は一度快楽を与えれば、スペインの望むままに落ちてきてくれる。早く思うままに感じるロマーノの姿が見たくて、じくじくと痛みだしたこめかみに眉をひそめながら愛撫を続けた。

「ふ、あ……あ、ン……っ」

 小刻みに手を動かしながら執拗にふれていると、やがてやわらかかった先端が芯をもって立ち上がりだした。すかさず指先の動きを早めて刺激を増やしていく。

「ん、く……ぅ、あ、すぺ……ッ スペイ、ン」

 ロマーノも堪らなくなってきたのだろうか。もどかしげに身をくねらせてスペインに縋り付いてくる。

「ロマーノ、気持ちええ?」
「く……ぅ、ふ……んっ」

 意地悪に問いかければ喘ぎ声を隠そうとする。その無駄な努力が愛おしくて、思わず乳首をいじめていた指に力を入れた。

「ひっ、あ……ァ!」

 ぎゅうっと摘み上げて軽く爪を立てる。鋭い悲鳴を上げるロマーノが大きく体を跳ねさせるのを、ほとんど力任せに押さえ込んで、堅く尖る突起をカリカリと掻いてやった。

「ひゃ、あァああ、んぅ、あっ……! い、たァ、ん、ん!」

 抗議の声はくるんにふれていた指の動きを激しくすれば呑まれていった。昔からふれるだけで力が抜け、抵抗しなくなっていたところだ。相当弱いはずである。強弱をつけながら乳首を押し潰したり摘まんだり、掻きむしったりと痛めつけるのを繰り返す。痛いぐらいのはずなのに、それすら気持ち良いのかロマーノは高い声を上げた。切羽詰まった吐息を聞きながら、不意に力を緩める。緩慢な動きでくすぐったり優しく撫でたりを繰り返せば、喉を仰け反らせてもどかしい快感に耐えようとする。晒された喉笛に噛み付いて、首筋に吸い付く。赤い跡がついたのを見て、後で怒られそうだと思った。
 真っ赤になった顔を背けたロマーノが忙しなく脚を動かすので、そちらに視線をやると、踵がシーツの皺を伸ばすように蹴っているのが見えた。大した運動もしていないのに逃げ足の速さを支える足首はきゅっと引き締まっていて、そこから伸びる足の甲から指先までがピンと伸ばされている。そのかたちの良さに見惚れた。
 髪を弄る手はそのままに、胸先への愛撫をいったんやめて内腿に手を差し込んだ。

「ん、はぁ……ッ、ちくしょ、あ、あァん」

 手の甲を口もとに押し付けて襲いくる強烈な快感に耐えようとするロマーノが、一瞬スペインのことを睨み付けてきた。んー? とわざと暢気な返事をして、勃起した彼の性器にふれてやれば、勝気な猫の目はすぐに快楽に蕩けてしまう。そのささやかな抵抗もスペインを煽っていることを彼は気付いているのだろうか。

「〜〜〜! もうあかんっ」

 堪らなくなって勢い良く身を起こした。サイドテーブルに手を伸ばす。引き出しを開けてローションを取り出すついでにコンドームを手に取った。ミシン目で連なっているそれをそっと枕下に忍ばせつつ、ロマーノを振り向いた。荒い呼吸を繰り返す彼はぼんやりした瞳を天井に向けている。
 どろりとした液体を手のひらの上に出して温めながら、もう片方の手でロマーノの胸を撫でた。

「あ……んっ、も、そこばっか……ッ!」

 脱力しきった体を無理やり反応させられて苦しそうに眉をひそめている。胸先は赤く腫れていて、少し熱を持っているようだった。そうなってしまえば、どんなふれ方をしても彼は感じてしまうようで、イタズラに撫でるだけでもびくびくと反応してくれた。

「指入れるで」

 ロマーノが胸への愛撫に気を取られている間に奥の窄まりに指をふれさせる。乾いた縁にローションを塗り付け指先を中に忍び込ませていく。ぐりぐりと中を広げなから指を動かすが、若い体はすぐに戻ってしまうのか、前に抱いた時に広げたはずのそこは元通りきつく狭まっていた。
 何度もしてきたのに、胸の中にもやもやとしたものが燻る。これからも何度だって自分の性器を埋めるために、ここを慣らす必要があるのだろう。

「くっ、あ……」

 ロマーノが苦しそうに息を詰まらせ喘いでいる。前にどうしても最初は異物感があって仕方ないのだと言っていた。それに気遣って殊更ゆっくりと指を動かすようにした。
 少しずつ受け入れてくれるその窄まりに、指の第二関節まで入った頃だろうか。突然ずるりと引き込まれる感覚があった。

「ひっ……あっ! な、なに」
「大丈夫、指が入っただけやから」
「ふっ……んぁ、ひっぁ!」

 戸惑うロマーノを宥めて付け根まで入れた指をそろりと動かした。内壁にぐるりとふれて、彼が感じやすいところを探り当てる。慣れたものだ。すぐに見つかったぷくりと膨らんだしこりを押さえれば、ロマーノは今までと比べものにならない高い声を上げた。
 そのまま前立腺を重点的に攻めつつ、指を増やす。感じるところにふれる度にきゅうっと収縮し、きつく絞られる入り口をぐりぐりと解しながら、セックスの動きを真似て指を抜き差しする。ローションでどろどろに濡らした中は熱く、ねっとりと絡み付いてくる。中に突き立てた時の快感を思い出して目まいがした。

「はっ……も、いいか、ら……! はやくっ」

 ロマーノの腕がスペインの首の後ろに回される。切羽詰まったようにねだられて、ずくりと性器の質量が増した気がした。すぐにでも突き入れてめちゃくちゃに喘がせたい衝動に駆られるが、今日はそうじゃないことを思い出して押しとどめまった。

「あ、ちょっと待ってな!」

 とろりとした表情が目に毒で慌てて視線を逸らしつつ、枕の下に忍ばせていたコンドームを出してくる。途端ロマーノがきょとんとした顔を見せた。先ほどまで妖艶に喘いでいた姿とそのあどけない表情が結び付かない。

「なんだそれ」
「ゴムやでー」
「ゴム?」

 まじまじと見つめられるのが気まずくて、わざと空気を壊すような軽い言い方をした。

「なんでそんなもん……」
「ロマーノのためやで! ナマですんのって入れられるほうの体に負担かかるんやって」
「……別に負担じゃねぇけど」
「ん? 何か言った?」

 ぼそぼそと言うのが何と言っているのか聞き取れず、反射的に聞き返せば怒ったような反応が返ってくる。

「別に! つーか俺のためって言って、今までしたことなかったじぇねぇか」
「せやねん。ほんまにごめんなあ。親分全然気ぃきかんで。これからはちゃんとするように、たくさん買うてきたから」

 この状態で喧嘩だけはしたくなくて明るく言ったのだが、ロマーノの表情は浮かない。そうこうしている間に無事コンドームを装着することに成功した。練習とシミュレーションの成果だろう。予想より手早くできたことに自分でも驚く。

「……慣れてんだな」
「大人の男の嗜みや。ほらロマーノこっちおいで」

 促せば素直に従ってくれたので、抱き寄せたロマーノを四つん這いにさせる。不服そうに見えたのは気のせいだったのだろうか。
 散々慣らした入り口にいきり立った性器を押し付けた。そのままぐりぐりと動かせば、存外すんなりと中に侵入を果たせた。

 どうにか彼の体内へと全てを収めきって、はあっと息をつく。斜め後ろからロマーノの顔をのぞき込もうとするが、あいにくそっぽを向かれてしまって表情をうかがうことはできなかった。真っ赤になった耳と頬を見つめて、可愛えなあ、とため息を零す。ふうっと吐き出した息がくすぐったいのか、ロマーノが身を捩った。その拍子に埋めた性器が締め付けられて眉をひそめる。きゅうっと収縮する内側が誘いかけてくるようだ。

「も、動くな……」

 返事がくるとは思っていなかったが、ロマーノがゆるゆると頭を上下させた。それが肯定の意を表しているのだと気付いた瞬間、頭の中が激情で真っ白になった。堪らず自分の下にいる体を力任せに押さえ付ける。反射的にか、ロマーノが抵抗するように身を捩った。ぐいぐいと押し付けていた腰を僅かに引く。

「んっ……!」

 そのまま思うままに動かしそうになったが、苦しそうなうめき声が聞こえて踏みとどまれた。我に返り目の前のロマーノをうかがうと、はあはあ、と苦しげな呼吸を繰り返している。慌てて強く掴み過ぎていた腰から手を離し、逆に労わるように撫でさすってやる。
 性急すぎたことを反省しながら、ゆっくりと埋めていた性器を引き抜く。ずる、ずる、と粘膜が音を立てている。時間をかけた分、内壁を擦りながら抜け出る感覚が鮮明に伝わってきて背筋がぞくぞくと震えた。中でゴムが少しズレて焦るが、それによって起きる摩擦が思いがけない快感を生んで、下半身に血液が集まってくる。

「くっ……ぅ、あ」

 奥歯を噛みしめて込み上げてくる射精感をやり過ごす。その間も入り口が引き絞られ、きつく締め付けてくる。挿入しているのに焦らされているみたいだった。
 まぶたを閉じながら今朝見たニュース番組の内容を思い返して気を逸らそうとする。そうでもしないと持っていかれそうだったのだ。
 半分ほど引き抜いたところで息をつく。

「ロマーノ……ロマ、こっち向いて」

 緩慢な動きで体を捻りスペインを振り仰ぐロマーノの瞳は虚ろで、ぼんやりとしているように見えた。そっと唇を合わせてキスをする。舌を絡ませ合い、吸い付いて歯を立て、互いの口内を探り合う。入れたままでするキスは、彼の良いところを探り当てた時に中がきゅうきゅうと動くので好きだった。彼はわりと素直に声を出してくれるし演技などするタイプではなかったが、それでもまだ足りない。もっとよりロマーノが感じていることを測りたい。いっそのことロマーノが気持ち良いと思った瞬間にランプか何かがついてくれれば良いのだ。

「くぅ、あ……ふ」

 唇を離すと唾液が細い糸のように伸びた。興奮で粘度が高くなっているのか。
 緩やかに腰を動かしながら腹側にあるはずの固いしこりを探す。ゆっくりとした動作でロマーノもまたスペインのかたちを感じるのだろう。強い刺激はなくとも、うっとり熱に浮かされた目を見せている。

「ん……あァ、あ……っ、く……ふぅ、あ」

 徐々にロマーノから声が漏れる。鼻にかかったような甘ったるいそれがもっと聞きたくて、ずりずりと体を揺する。ロマーノの内壁がいやらしくうごめいてスペインを煽ってくる。

「ひぅ……っ! あ、あァあ!」

 不意に埋めていた性器が何かに引っかかるような感覚があって、ロマーノから一際高い声が上がった。

「こ、ここか?」

 確認するように先端を擦り付けると声も出せずに体を震わせたので、前立腺を刺激したのだと気付いた。

「あァ、あ、ンー! ……あっ も、や! やだっぁ」

 狙いがずれないように腰を固定し小刻みに腰を揺すりながら、確実にそのしこりを攻めたてる。あっという間にロマーノは快楽に呑まれて意味のなさない喘ぎ声しか上げなくなる。気持ち良さそうだなと考えながら、ひたすら同じところばかりを擦った。奥まで突くのも内臓に良くないと聞いていたから、今日はこのまま浅いところだけで終わるつもりで、延々と抽送を繰り返す。

「ひぃ、あ……もっ、や、あぁ! いやっ、あ……ん!」
「ここ気持ち良いんやろ?」
「もっ、ぁぅ、や、やだ! ぁあっ! いやっ、あ……んぅ」
「いやいやばっかやな……」

 困ってしまって苦笑を浮かべつつ、規則的にロマーノの体を揺らす。シーツについていた彼の腕は力が抜けたか崩れ落ち、スペインが支えている腰だけを高く掲げ上げた態勢になる。シーツに押し付けられているせいでくぐもった声が漏れる。緩慢な動きながらも悦いところをスペインの性器によって攻められる快感を享受し、素直に感じながら首を横に振って身も世もなく喘ぐ姿は扇情的だ。

「はっ……俺のもんみたい」

 思わず漏れた本音。むしろ今までそうだと信じて疑っていなかったことを、口にしてから気付いた。何でも受け入れてくれるのも、この行為を許されるのも、全部ロマーノがスペインのものだからだと。だからスペインのなすがままになるロマーノを見るのが好きなのだ。
 それはそれでたいがい歪んでいるかもな、と思いつつ、頭の中は冷えていった。ロマーノの中に突き立てているのに、セックスの最中なのに、不思議と快感が遠ざかっていく。

「あっ、も……ぁ、いっく……ぅあ!」

 ロマーノの体内の収縮が激しくなっていく。反して余裕のあるスペインは自分の限界がまだまだ遠いことに気が付いて眉をひそめた。

(……あれ、これって最後までイけるんかな)

 余計なことを考えていたせいだろうか。全く射精の気配がない。いつもはどうしていたかを思い出してみても、ぐったりしたロマーノを無理やり感じさせ抱き起こし好き勝手突いていたことしか浮かんでこない。そうしてそういう時のほうが興奮しているのだから性質が悪かった。

「はっ、も……い く、あぁ! いっく……んぅ!」

 ロマーノが悲鳴を上げながら手足を引きつらせている。シーツをきつく握りしめ全身を強張らせた。
 不定期にひくつく胎内がスペインの射精を促しにきていたが、到底そこまで上り詰められそうになかった。その間もロマーノは意味のなさない言葉を叫びながら、スペインの腕から逃れようとのたうち回っている。
 腰を二度三度動かして、前立腺を押し潰した。

「あっ……! くっ、あ———!」

 そうして高い声を上げて彼は達した。

 そうっと中から性器を引き出して射精の余韻に浸るロマーノを抱き寄せた。どうしたものか、今日はこのまま続けてもいけそうにないと言ったほうが良いのだろうかと悩んでいると、不意に彼に性器を握り込まれた。

「え、ちょ、ロマーノ、な、何してるん!」
「うっせぇ! こ、こんなもんしてるから、お前ただでさえ不感症なのに全然感じねぇんだろっ」
「ふえっ?!」

 力任せにコンドームを引っ張られて慌てて制止をかけると、逆に怒鳴り返されて素っ頓狂な声を上げてしまう。それにロマーノがきっと睨んできた。

「お、お前さっき全然集中してなかっただろっ!」
「いや、そんなことは」
「誰抱いてると思ってんだ!」
「ろ、ロマーノです」

 即答したのに多少溜飲を下げたのか、ロマーノが良し、と言った。何が良しなものか。相変わらず彼はぐいぐいとスペインの性器からスキンを剥がそうと躍起になっている。ローションで濡れたのと熱と、スペイン自身の先走りのせいでぴったりと張り付いて外れにくくなっているそれは、ロマーノの不器用さも手伝ってか、なかなか外れそうになかった。

「ごめんって……もっと薄いやつあるらしいから、今度はそっち買ってくるし。今日はもう勘弁してや」

 情けなく声を上げるがロマーノは許してくれない。

「俺の中でイくまで今日は絶対終わらせない」

 男前なんだか何だかよくわからない発言に頭を抱えたくなる。そりゃあスペインだってロマーノの中に思う存分ぶちまけたいとは思っているのだ。けれどそれをしてしまえば、またロマーノに負担をかける。正直な欲求と僅かな理性及びスペインの男としての矜持がせめぎ合い、どうすれば良いのかわからなくなって言葉を詰まらせた。

「でもロマーノ体調崩すやろ?」
「……崩さねぇよ!」
「嘘やん! いっつも次の日調子悪いって動かれへんようになってるやん」
「そ、それは……」

 詰め寄るとロマーノが視線を逸らす。やはりフランスの言う通りだったのだろうか。それに泣きそうな心地になって、無理してまでヤる必要はないで、と続けた。

「もしそうなっても今まで通りお前が面倒見りゃ良いじゃねぇか!」

 まさかの強気発言に目まいがする。どうしてくれようこの子分。

「そりゃいくらでも面倒見たるけど、そうなる前に回避できるんやったらそのほうがええやん。お前痛いのとか苦しいの、嫌いやろ?」
「嫌いだからこそ平気なんだろ! 今まで文句言わなかった程度なんだよ、そんなことぐらいわかれよ!」
「え、そうなん?」

 きょとんとして視線を返せばロマーノが苦虫を噛み潰したような顔をした。できれば言いたくなかったことを勢いで言ってしまった、みたいなそんな後悔がうかがえる。
 だったらしても良いのだろうか。でもフランスは、そんなことを考えて逡巡しているとロマーノがやけになったように言い放つ。

「つうか、ヤった後のそういうのって……あ、甘えてんのと一緒なんじゃねぇのかよ」

 それが決定打だった。スペインも、そうだったら良いなと思っていたのだ。俯いてしまった彼の耳が髪の間から覗いている。真っ赤になっていた。

「はっ……、ロマーノっ!」

 そうまで言われて我慢できるわけもない。ほとんど無理やりロマーノの体を抱き起こし、きつく抱きしめた。スペインの両腕に囲われて身動きの取れなくなったロマーノが苦しそうに喉を鳴らす。彼の呼吸が整っていないことは、この際問題にはならなかった。

「なあ、ほんならナマのままで入れてええ?」
「……聞くなよ」

 消え入りそうな声に、未だ萎えない己のものからコンドームを無理やり引き剥がした。根元から輪っかにした指でずりずりと押し上げれば、きつい音を立てて外れる。外気にふれると湿っているのがよくわかった。それを掴んで、やや強引に先ほどまで収まっていたロマーノの体内へと押し込む。

「ぐぁ……あっ!」

 容赦なく挿入した勢いで、最奥を突いてしまう。視界に星が散った気さえした。目の前がくらくらと回る。それが興奮で脳がやられているからなのか、ロマーノの体を引き回して激しく腰を打ち付けているせいなのかもわからない。ただ体の中を暴れまわる熱と衝動に任せて、目の前の体を貪ることしか考えられなかった。

「はっ、く……ぁあ———っ」

 引きつるロマーノの声を聞きながら、休まる暇も与えずに先端まで引きずり出して根元までを突き入れる。先ほどの攻めとは比べものにならない激しさで、容赦なく抽送を繰り返す。むちゃくちゃに掻き抱くせいでロマーノは体から力を抜くことができなくなっているのだろう。ぎちぎちに引き締まった中が、やはり容赦なくスペインを締め上げた。互いに余裕もなく声を出している暇もなかった。

「はっ、はあ……お前ん中で、って、さっき言うたよなっ」

 のけ反る体を押さえ込んで、人形のように揺さぶられるままのロマーノに話しかける。彼の返事はなかった。嬌声すら上げられないようだったから、声を出せないのかもしれない。喉の奥を苦しげに鳴らしながら時おり背をしならせているだけだった。それでも構わず言葉を続ける。

「……はっ、も……だす、からっ全部、受け入れてやっ」

 歯を食いしばりながらロマーノを抱き込んだ。激しい波に呑まれる。目の前の体を気づかうことも忘れて、ただ欲望のままに吐き出した。ロマーノはそれを受けて小さく喘いだ。
 
 
 
 事が終わり、またシャワーを浴びてくると言うロマーノに無理を言って一緒に風呂に入る。もちろん後始末はスペインがやるつもりだったのだが、それだけは絶対に嫌だと拒絶されてしまった。もっと身動き取れないぐらい疲れさせるべきだったかと斜め上のことを考えながら、ロマーノが良いと言うまで浴室の前で待った。

「も、もう良いぞ」

 小さな声で呼ばれて扉を開ける。すでにロマーノは湯船につかっていた。

「ほんまに全部自分でやってもうたんか」
「あ、当たり前だろ!」

 もっと頼ってくれれば良いのに、と唇を尖らせつつ、彼のとなりに腰を下ろす。そっと腰を引き寄せ濡れた髪にキスをした。

「……なあ、なんでゴムなんか急につけだしたんだよ」

 不意にロマーノが訊ねてきた。彼も唇を尖らせてそっぽを向いている。どうしてロマーノがそんな顔をするのかわからなくて首を傾げた。

「ん? なんでって……さっき言った通りやで」
「ふーん……」
「……」
「…………」

 明らかに納得していないような声を上げるロマーノに困惑していると、彼が何かを言いかけた。

「ん?」
「……お前、浮気、してんじゃねぇのか」
「は、はあ?! 俺は常にロマーノでいっぱいいっぱいやねんで?! 国のことすら手ぇつかんで怒られることあるのに、浮気なんてそんなんできるわけないやん!」
「本当かよ。何か後ろめたいことがあるからゴムなんかつけたがるんだろ」
「後ろめたいって」

 あながち間違いではない。ロマーノへの後ろめたさから慌てて買いに走ったのだから。
 けれどもそれは彼が考えているようなものではない。

「……ちゃうで、あれはフランスが……」
「フランス?」

 ここで出てくるとは思っていなかった名前だろう。ロマーノが眉を釣り上げた。訝しがるロマーノの前に格好なんてつけられないと観念して、漸くスペインは白状する。
 フランスに言われたこと、今までの自分の身勝手さを反省したこと、ロマーノの体を気づかってコンドームを用意したこと。
 全て話し終わる前にロマーノの眼は半分閉じられ、胡乱なものになっていた。

「つまり、てめぇは髭やろうに言われるままに俺の確認も取らず勝手に行動した、と」
「な、なんでそんな言い方するん?! 俺ロマーノのためやって思ってやったのに!」

 はあっと深いため息を吐き出されて首を竦める。続けられた言葉に、前もどこかで聞いた気がするなあと思ったが、それを覚えていないのが身勝手さなのだと指摘する者はいなかった。

「お前なあ、空気読めない鈍感やろーなんだから俺のためにって思うなら俺に聞けよ。……刷り込みっつったって、本気で嫌なことを許したりしねぇよ、ハゲ」

 苦痛を我慢してまで受け入れるほど健気になった覚えはないと言いきる恋人の姿に、スペインはなぜだか妙に安心してしまうのだった。

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