「何ふてくされてんだよ」
「……べつに」
むすっとした顔で不機嫌さを隠しもしないで、声を発せば冷たい言い方をするスペイン。あれから会議場を出てスペインの泊まっているというホテルにやって来たのだが、ずっとこの調子だった。
だんまりを続けるスペインの様子に、これは調子が悪いとか寝不足とかじゃないって気付いたのが三十分前。始めはこいつが喜びそうな話題を振ったりもしたけれど、ふーんって相槌を打つだけで本当に聞いているかどうかも怪しかったから、それからは俺も黙ってテレビを見ていた。
そうしたらそうしたで何が気に入らないのか、ベッドに座る俺の膝に寝転がって腰に腕を回してくる。ちょっと可愛いけど、だいぶ不可解な行動に俺もどうして良いのかわからない。
「別にって顔じゃねーだろ。今日誘ったのお前だろ」
「…………べっつにー」
あからさまに不機嫌さを隠しもしない。一体どんな表情をしてるのか見てやろうと覗き込んだら、逃げるように寝返りを打って俺の腿に顔を埋めた。
「……」
「…………」
なんだ一体。
「だあ! 何なんだよっ! 用がないなら俺は帰るぞ!」
足を揺すって退くように催促すると回された腕に力が入る。
「……なんやねん、ちょっとぐらい俺にも優しくしろや」
「はあ?」
「……」
くぐもった声が聞き取れなくて、もう一回言えと髪を引っ張る。けれどそれを嫌がるように首を振って、ぐりぐりと頭を押し付けてきた。
「まただんまりかよ……」
わざと大きなため息をついて、こうなったら俺も耐久戦だと暫く黙った。
子どもの時は俺が癇癪を起こしてスペインが機嫌を取っていたのに、どうにも大人になってからは何となくスペインがワガママを言って俺は突っぱねられなくて、こんな関係だ。ずっとワガママ放題好き勝手やってきたから、ちょっとは返したほうが良いとかそういうあれなのか、それとも惚れた弱みか。長い片想いで染み付いた習慣ってやつなら俺は相当やられてる。
つらつらと微妙に思考を逸らして黙っていると基本的にスペインは沈黙に耐えられないタイプなので、すぐに音を上げてうーっと唸り始めた。
「大事に育ててきた子分に冷たくされるなんて俺かわいそうやわー、俺ほんまかわいそう」
「こいつ……」
いっぺん殴ってやろうか。
「ったく、何なんだよ。突っかかりやがって」
大きく深呼吸をして手を上げるのはやめた。何でも暴力で解決するのは良くない。暴力反対。さっき会議で弟とは取っ組み合いになったけど。
「いつもロマがしてることやん」
「俺はそんな脈絡もなく絡んだりしねぇよ」
「……」
スペインにとっては前触れもないのかもしれないけど、昔から俺なりにサインも出しているし理由だってちゃんとある。最後まで気付いてもらえなかったことだってあるが。
「何怒ってるのか知らねぇけど、言わなきゃわかんないからな」
「…………」
また黙り込むのを根気強く待ってやる。本当は胸倉掴んで揺さぶって、はっきりしやがれ! と問い詰めたいのにそれをぐっと堪えているんだから、俺の我慢強さたるや栄誉賞ものではないだろうか。
深く息を吐き出してイライラを散らし目を細めて、俺はスペインの抱き枕だぬいぐるみだと自分に言い聞かせた。この一方的に抱き付かれている意味のわからない状況を納得させようとしただけなんだけど、それはそれでむかつくな。俺は人形じゃねぇ。
「……今日、なんでイギリスと喋っとったん?」
ようやく口を開いた。
「イギリス? ああ、南イタリアの観光について聞かれたんだよ」
「なんで、あいつが南イタリアなんかに用があんねん」
「なんかってなんだよ……知らねぇよ。デートにでも行くんじゃねぇの?」
「面白くないわー……」
「はあ?」
なんだそれ。
「……」
腰に回された手がシャツの裾を掴んでグイグイと引っ張ってくる。子どもみたいな仕草。
「……まさかと思うけどさあ」
「言わんとって」
「……」
「俺のこと見んといて!」
俺のシャツの中に頭を入れようとするので必死で引っぺがそうとする。おいこら、どこに隠れてんだ。ってか、それ隠れきれてないから。
「なんだよっ、てめー! 俺はヤキモチなんか妬かへんって言ってたじゃねぇか!!」
「そう思っててんもん、やって今まで妬いたことないねんもん!」
「じゃあ、これはなんだ。嫉妬だろ、ヤキモチじゃねぇのか」
「せやで、悪いんか! ロマーノが構ってくれへんかったらもっと妬くからな!」
服の中から出てきたスペインが俺の肩を掴んで食いかかる勢いで怒鳴りつけてくる。いつもならそんなことされたら怖くて仕方がないはずなんだけど、今は全然、むしろ脱力するだけだった。
「なんだよそれ……」
目の前に迫ったスペインをじとっと睨み付けた。自分でも恥ずかしいことは自覚があるのか、眼を逸らして徐々に頬を赤く染めていく。見たことないぐらい真っ赤になった耳たぶや悔しそうに歪める眉に込み上がってくるのは、先ほどまでの不愉快さではなく優越感だ。
「……」
「ロマーノ、なんで笑ってんの」
「べっつにー」
さっきまでのスペインの言葉を軽やかに返すと、喉の奥で唸ったスペインが肩を掴む指に力を入れて破れかぶれに叫んだ。
「ほんっま腹立つわー絶対泣かせたるからな!」
押し倒されながらも、ちょっと可愛いなんて思っちまうんだから重症だ。
ほとんど噛み付かれるように唇を重ねたスペインの舌が、いきなり口内へと侵入してくる。荒っぽい仕草で歯をなぞり、俺のを掬い上げて絡めてくる性急なやり方に自然と喉が鳴った。
「お前さ」
はあ、と息を吸うタイミングで呼びかける。
「なに?」
すっと目を細くしたスペインがスルスルと俺のシャツのボタンを外し、ネクタイを緩めて服を脱がしにかかる。
「あんま、そういうの……んっ、ねぇんだと思ってた」
「そういうのって?」
「嫉妬しねぇって言ってたし……、その、好きと苦しいが一緒、とかそういうの」
俺にとっての恋はいつだって泥に溺れるような辛いものだったけど、スペインにとってはきっとそうじゃない。手に入らない切なさや自分のものにならない焦燥、やっと手に入れたところでいつでも相手の気持ちを信用しきれずに不安に晒されるような、苦しくてしょうがない感情とは無縁なんだと思っていた。実際そうだったはずだ。こいつ自身そう信じていたから嫉妬しないと言いきれたんだろう。
「……まあ、好きと苦しいは一緒やないな」
剥き出しになった肌に直接ふれる指先が俺の肩をなぞり、胸、腹、へそと降りていく。
「ロマーノみたいには好きになられへん」
そう言って俺の肩口に顔を埋めると首筋を舌で舐め上げてくる。頸動脈のあたりに緩く歯を立てられるせいで、恐怖と紙一重の快楽がぞくぞくと背筋を駆け上がってきた。
「んぅ、ふ ぁ」
「わりと欲しいものってすぐ手に入ったし? 手が届かない惨めさで自分が嫌になるぐらいなら諦めるほうやねん」
「くっ……ぅ、諦め悪くて、悪かったっ、なっ!」
「いやいや、俺はそんなロマーノの一途さが好きやねんから」
いつの間にやらベルトが外され、下着ごとスラックスを下げられた。渋々足を上げて裸になる。俺ばかり脱がされるのもシャクなのでネクタイを引っ張ると、スペインも自分のシャツを脱ぎ捨てた。
「ズボンも脱いだほうがええ?」
「……これからすんだろ?」
「せやね」
言っている間にベルトは外されていた。いつになく性急で乱暴な仕草で肩を掴まれる。
「な、後ろ向いてや」
「……やだ」
「絶対に気持ち良うしたるから」
返事も聞かずにほとんど力づくで俺をうつ伏せにしてベッドのシーツに押し付けると、背後から覆い被さるように抱え込んできた。肩越しに振り返って睨み付けてもスペインはにっと笑うだけで何も言わない。強く尻を揉まれて喉が鳴り、短い悲鳴が上がった。
「なっに、すんだっ、あ! や、やめろ!」
俺の拒否など気にも留めない指が、ゆっくりと侵入してくる。どこ、って。後ろの穴だ。
「ふっ……ぅ、んぅ……ッ、あ ぅん……」
苦しさから鼻にかかった声が漏れた。首を振って気を逸らそうとすると、スペインの大きな手のひらが襟足を掻き上げてきた。晒されたうなじに吸い付かれる。チリっと痛みが走り、跡をつけられたことに気付いた。吸い付いた箇所を確かめるように唇で辿って、くっと喉の奥で笑う。いつになく不穏な雰囲気を纏うスペインに首にふれられている危機感と、焦れったい刺激へのもどかしさにおとなしくしていられなくて、シーツの上に指を踊らせた。
「んっ……」
腰に回されていた手で肌を探られ、さらに腹筋をくすぐられる。同時に中に入っていた指が折り曲げられて、掻き混ぜるように動かされた。身を捩って衝撃に耐える。圧迫感と息苦しさを感じるが、それを我慢すれば気持ち良くなることは、もう知ってしまっている。それを教えたのは他でもないスペインだから、余計に期待が募った。
浅ましい体は俺の意思に反してスペインの指を締め付けようと収縮しやがる。それを感じて頬に熱が集まった。恥ずかしいはずなのに、じくじくと自分の中心が快感を訴えだすもんだから堪らない。早く早くと解放を願って体をくねらせた。
と、いきなり肩を掴まれて、乱暴にベッドへと押さえつけられた。
「……ぃっつ!」
「ごめんなあ」
果たして本当にそう思っているのか、スペインは誠実さに欠ける謝罪を口にしながら、くるんと飛び出た髪を咥えやがった。ふれられると気持ち良くなってしまう、イタリアの性的な何か。あの部分だ。
「んぁあッ……!」
唇に挟んでツツツ、と辿られる。声を抑えようとしてもスペインにふれられているところに神経が集中してしまって勝手に嬌声が上がった。びくつく体を押さえ込まれてさらなる愛撫を施される。その度に大げさな反応をしてしまうことに気を良くしたのか、スペインがいったん髪から唇を離し、濡れた毛先にふっと息を吹きかけてきた。
「ひッ ぅあっ!」
「気持ちええ?」
「んッぅ、い、いいからぁ……も、やめッ」
懇願は聞き入れられず、再び髪は咥えられて今度は舌にも嬲られる。気持ち良いのけど、敏感すぎるそこをあまり刺激されるのは通り越して恐ろしい。
中に入れられた指が不快ではなくなっていた。不意に、いつも感じる気持ち良いところをコリコリと押されて体が跳ね上がった。肩を押さえつけてくる手の力は弱まらず、いやらしい舌の動きで髪を苛む。
「ひぁ…ぅ、あァ、あっあ!」
「ロマーノ、イギリスの髪やってあげてたやろ?」
「ん ぁ、あ! なッ、に?」
「イギリスの髪の毛、整えてあげてたやん」
いったん指が抜かれるが、すぐに人差し指と中指だろうか。二本揃えて挿入される。圧迫感がひどくなる。喉がヒリヒリと痛むほどに何度も「やめて、やめて」と繰り返してもスペインは全然やめてくれなくて、それどころか肉を掻き分けるように突き入れられるから、びくびくと体が反り返った。
「あれな、めっちゃむかついた」
「も、……やぁ、早くッ してぇ!」
「大丈夫やで、絶対痛くないようにするから」
「ちがぁッ……!」
切羽詰まって乞うたが返答は斜め上で今ひとつ伝わらなかったらしく、抜き差ししてくる指の動きが激しくなっただけだった。
もしかして、このままイかせる気なんじゃないのか。不安が過った。後ろだけでイけた試しはないのだが、時々スペインは「胸だけでイけるんちゃうん?」だの「さわらずにイかれへんの?」だの、何かよくわからない謎の期待を寄せてくるのだ。俺が泣き喚くまで核心にふれず、こちらの手を拘束して乳首や他の部分を愛撫してくることは今までにもあったので、さっと血の気が引いていく。
「なあ、このまま後ろだけでイってみよ?」
「んぁ、や、むりィ……!」
ほらきた!
泣きじゃくりながら無理だ、むりだ、と首を振った。
肩を押さえる左手に重心をかけられて、顔を覗き込まれた。焦点が上手く合わないせいでブレる視界の向こう側、何を考えているのかわからないスペインがじっと俺のことを見ている。必死で唾液を飲み込んで浅く呼吸をしながら何とか口を開こうとするが、はあっとうっとりとしたため息をつかれる。
「すっご……気持ちええんやね」
耐えられずに足を崩して限界を訴えるソレをシーツに押し付けようとすると、スペインが慌てて「おっと!」と中に入ってる指を引き抜き、腰を抱きかかえた。
「あっぶな、もうちょい頑張れる?」
「も、んぅ、むっり」
「んー……この態勢けっこう興奮するんやけどなあ。まあええか、さすがに指だけでイけるとは思ってへんかったし」
勝手に一人で納得して、尻に何かを押し付けてくる。熱いしベタベタする。それが何かを理解する間もなかった。
「いれんで?」
俺の返事を待たずに、剛直したそれで一気に奥まで貫いてくる。
「ぁっ……! むりだっ!」
ギチギチと肉を無理やり引き裂く音がした、気がした。それぐらい窮屈で、痛くて苦しかった。頬をシーツに押し付けて首を横に振り、痛い痛いとうわ言のように何度もつぶやく。「いったん抜け……」と懇願しても、ただ肩口にキスをされるだけだった。
「ごめんなあ、もう動きたい」
「……むり、だろ」
「なんかもう、このままヤってまいたい気分やねん」
怖いぐらいに俺の言うことを無視して強引に押し進めるくせに、背中に額を押し付けてねだるような甘ったるい声で「なあ……」と言いだすから俺もどうしようもなくなる。
「痛いの、やだ」
「うん、ごめんな。文句は後でちゃんと聞くわ」
「え、あ、ちょ……!」
ぐっと腰を引き寄せられたせいで、スペインのいきり立ったペニスが普段では考えられぐらい深いところまで入ってくる。内臓にせり上がってくる圧迫感に切羽詰まって悲鳴を上げた。
「あ———ッ!! はっ あ、やっだ、あっあ、あァああ、ンんぅ、スペ、イン……ッ」
何とかスペインの手から逃げるべく枕元へと腕を伸ばしてベッドをずり上がろうとする。その無理な動きのせいで力が入ったのかスペインと繋がっているところが更に狭くなって息苦しさが増した。
「ぅ……、ロマーノも気持ちええの?」
反論する前に腰を揺さぶられた。その拍子にスペインの他より膨らんだ部分が俺の中にあるいやらしくて気持ち良いところを掠めていったので、不意打ちに甘い声が鼻から抜けていく。それを大丈夫と判断したのだろう、一度ギリギリまで引き抜いたスペインがまた乱暴に突っ込んできて、それからはガツガツと容赦なく腰を打ち付けてきた。繋がったところが熟れたみたいに熱くて頭の中が快感で痺れる。どうしよう、気持ち良い。
「あっ……、や ああっん、あっ! ひぅ、い、い、ぁ…はっんぅ……!」
ひっきりなしに上がる自分の嬌声がひどく遠くにあるみたいで、他人事のようなその声に自分で煽られる。俺のことを気遣う余裕もないのか、スペインは反応の良いところばかりを強く突いてきた。両手で腰を掴み手荒に犯してくる。はあはあ、と早くなっていく呼吸。四つん這いにさせられた態勢で言葉もなく責め立てられると、まるで獣にでもなったみたいで感情の入る余地もないぐらいに感じてしまう。
「もっ、やっだ ぁ、ふぅあッ、きもちィ……っ!も、むり ァん!」
「気持ちええんやん」
「ちがっ……ぁ!」
息を詰めて衝動をやり過ごそうとしていると、膝がガクガクと震え始め全身が大きく弛緩した。ちょうど引き抜こうとしたタイミングだったせいだろうか、俺を後ろから犯しているスペインが低く唸った。それでもイライラしたように舌打ちをして、また乱暴なセックスを続ける。
集まった熱が開放を求めて身体中を暴れ回り、全身の神経が鋭敏になって些細な刺激さえも拾ってくる。目を瞑って意味のない母音だけを喘いでいた。
「あ、もっ やっだ、触ってッ! あっあぁああ」
右手で自分のものにふれようとした。体裁なんか繕っている暇もなくて、早く楽になろうと手を伸ばす。しかしふれる前にスペインに捕まった。
「なあ、手こっち」
両腕を掴まれて後ろに引っ張られる。不安定ながらも無理やり体を引き起こされる態勢になった。
「え、う、あ あァああ……ッ! んっぅ、ふぁっ アぁあアアっ!」
角度が変わったせいでスペインのペニスに鋭く突かれ、身も世もなく喘いだ。ほとんど意識もなくて、それを行っている相手がスペインだということすら曖昧になってくる。自分という存在すら認識が薄れて思考がぼける。肩を強く噛み付かれたが、もはやそれにすら感じた。
まるで人形を扱うかのように好き勝手に動いているスペインが、ただ自分の快楽だけを追い求めるように腰を打ち付けてくる。あまりに乱暴で、時々変なところもむちゃくちゃに突いてきた。言葉もなくキスもない。獣じみたセックス。
「こッわい……! あっあああァア! んぅっはっあ!」
泣き叫んでいると急にリズムが変わった。一回一回のストロークが長くなり、その分丁寧に俺の良いところへと擦り付けてくる。俺を追い詰めたい時のスペインのやり方だ。背中がしなり、頭の中が真っ白に塗り潰されていく。このままおかしくなるんじゃないかってぐらい、どこもかしこも熱くて神経が焼き切れそうだった。一瞬世界が遠のいて、何もかもどうでも良くなる。自分がどうなってしまったのかわからなくなった。
「あっ……う、あ、あ」
次の瞬間、全身が震えて性感帯が痺れた。目の前が真っ暗になる。体内をぐるぐると暴れ回っていた熱が一気に脳へと集中したみたいに頭の裏が熱くて、それ以外はむしろ冷たいぐらいだった。そんな中でも気持ち良いという感覚だけははっきりと感じられて、燻っていた快感が弾け飛んだようだった。
言葉もなくビクビクと弛緩している俺の体を、スペインが後ろから抱きしめた。
「はっ……、イってもうたん?」
低く掠れた声だった。ひどく余裕がないようにも聞こえた。
「んっ……」
頭が上手く働かずにろくな返事ができずにいると、はは、と力なく笑う。
「めっちゃピクピクしとる……」
「あっ……ぅ」
「出さずにイったんやね」
ぼんやりとしたまま彼の声を聞く。俺の返事も聞かずに、荒い呼吸を整えながら勝手に喋りだした。
「俺な、思ってん。ロマーノみたいには好きとちゃうけど、でもそれはロマーノより好きじゃないってことやないねん……今言っても聞こえてないと思うけど、これ知られたくないことやから忘れてくれてええよ。……ずっとお前の優しさを向けられるん俺だけやと思ってた。やのに、あんな苦手や言うとったイギリスにまであんな顔すんねんもんなあ。自分から手だって伸ばすし、めっちゃ嫌やった」
はあ、とため息をついて続ける。
「今日はひどいことしてごめんな」
「ぅあ、ッ……」
「お詫びにこれからはちゃんと優しくする」
ちゅっと音を立ててこめかみにキスをされた。いまだ痙攣のやまない俺の中心に手を伸ばし手のひらで握り込まれる。
「やから、もっかいしてええ?」
やけにウキウキとして明るい声のスペインが高らかに宣言してくる。それを全部、遠い意識の向こうで聞きながら、絶対さっき言ってたことを最後まで覚えておこうと決めて再び目を瞑る。
スペインはまだイっていない。今日は長くなりそうだ。
ちなみに、その後。生まれて始めて嫉妬を経験したというスペインは、俺がちょっとベッラに声をかけるだけで大げさに嫌がり男に話しかけられる度にキレるような、狭量な親分になっちまった。こいつってこんな心の狭い奴だったかなあ。はじめは新鮮さに感動すら覚えていた俺だが、三ヶ月ぐらいでうんざりするようになった。贅沢になっていく生き物なんだな。
そのことをフランスに言ったら
「ああ、あいつの場合は中学生ぐらいの子が初めて恋をすると暴走するでしょ。それと一緒」
なんて笑われたのだけれど。