「もしかして、普段の仕返しやった?」
ぐったりとしたロマーノを甲斐甲斐しく介抱してやりながら、スペインは気まずそうに口を開いた。いつもよりは被害は少ないのか、ロマーノは眠そうではあるものの意識はしゃんとしている。体のあちらこちらに残っている跡は、しばらくは消えなさそうだが。
「仕返し?」
きょとんとして幼い表情をしたロマーノが、スペインの言葉をそのまま繰り返した。
ずっと気になっていた。なぜ、急に襲うなどと言い出したのか。それに、あのやり方はスペインが普段していることだ。
「きょ、今日……その、いきなり襲うって言うんは」
ごにょごにょと語尾が消えていく。襲われていたはずなのに、結局、最終的にはいつも通りにスペインがロマーノを襲っていた。いかんせん久しぶりだったために、妙にすっきりとしていて心地良い疲労を感じてはいるが、それが尚更、罪悪感を呼び起こす。これではまるで、性欲処理のためにロマーノを抱いているようではないか。こめかみを抑えロマーノの視線から逃げるように顔を背けたが、そんなスペインの態度にますますロマーノは意味がわからないと言わんばかりに首を傾げた。何のことを言っているんだと疑問符を浮かべている。
「ほな、なんやっていうん?! いきなり襲うって言ってきて、あ、あんなことして!」
「な、何って、……ちょっとは考えろばか!」
「考えろって……」
やぶれかぶれに噛み付けば、顔を真っ赤にしたロマーノが怒鳴る。考えろって言われても、考えた結果が最初の問いであって。
「やから、いつも俺がロマーノにひどいことしとるから、その仕返しなんやろ」
「し、仕返しって言うか……まあ、そんなもんだけど」
今度はロマーノのほうが煮え切らない。語尾を失ってもごもごとはっきりしないので、何と問い詰める。ずいっと顔を近付けて、もっかい言ってと問えば、更に顔を赤くして、近すぎると怒り出す。さっきまでしていたことを思えば(しかもロマーノが自ら仕掛けたことを思えば)、大したことではないだろう。
「だから、お前、その、前は会う度だったじゃねぇか」
「へ? 何が?」
「……だ、だから! 会う度にセックスしてたじゃねぇか!」
口をへの字に曲げて不機嫌そうな表情を作る。けれど、顔は真っ赤で目元は潤んでいて、まるで怖くなかった。
「けど、最近そういうのなくなって」
だから、と続けながらスペインと距離を取ろうと後ろへと下がっていく。逃がすまいとその腕を掴んで引き寄せる。力任せに腕を引くとあっさりロマーノが態勢を崩してスペインの胸の中へと倒れ込んだ。
「え、もしかして、それで俺のこと襲ってくれたん?」
「……」
「なんで、なんでなん? 俺、えっちの時乱暴やから、嫌かなと思ってたんやけど」
「……乱暴なのか?」
「へ?」
純粋にそうなのか、と見上げてくるロマーノに、だって痛いだろうと言い聞かせる。ロマーノの快楽は置き去りに好き勝手しているし、泣いていても気遣うでもやめるでもなく、むしろ押さえつけているのだから。
「けっこう、ロマーノのこと構ってへんっちゅうか」
「……俺、お前以外知らねぇから」
わかんねぇよ、と続けられた言葉はくぐもっていて判然としない。居たたまれなくなったのか、顔を覗きこもうとするとスペインの胸元にぐりぐりと押しつけて逃げる。髪の間から見えた耳は赤く染まっていた。
「え、えーと」
「勝手に俺のこと決めんな!」
「は、はい!」
「……」
「え、えーと」
怒鳴ったかと思えば急に押し黙る。スペインがなあ、どうしたん、といくら問うても返事はくれない。さてさて、どうしたものかと身じろぐと、背中に回されたロマーノの腕に力がこもった。子どもの時のようにぎゅっとしがみつかれて胸が軋んだ。顔が見えないからどんな表情をしているかわからない。泣いているのか怒っているのか、それとも単に、照れているだけなのか。後ろ髪に指を絡めて機嫌を取ろうとする。顔を上げて、こっち向いて。けれど、ロマーノは微動だにしなかった。
これは後でゆっくり話を聞かないとなあ、と、ロマーノが聞けば始めからそうしてろと怒鳴りそうなことを考えて、スペインは自分の胸の内に引き込んだ恋人を抱きしめた。