懐かしい夢を見たのだと言った。まだベルギーがスペインの家に身を寄せていた頃の夢だ。夢の中でもオランダがスペインの言動にしらけていて、それが少しおかしかったのだと笑う。
彼女はニコニコと笑いながらも際どいことを口にした。いわく。
あの頃からスペインとロマーノは変わっていない。ふたりは第三者から見るとなかなか理解し難く複雑な関係性だが、ロマーノが成長し独立した今もとても仲が良く良好であることを考えると世間の目が彼らの関係性に追いついてきたのだ、と。
「やって今は恋人なんやもんなあ」
ニコニコと上機嫌な姿を見るに、非難をするつもりはないらしい。一体どこまで気づいているのだろう。思わずロマーノとどちらの育てたトマトがより美味いかを言い合っていたのも忘れて固まった。そのままの姿勢でたっぷり三秒間、先に動いたのはロマーノだ。ボン、と音を立てる勢いで顔を真っ赤にしたのに気づいて、あちゃあ、とぼやいてしまった。心なしかスペインも頬が熱い気がする。
何かと表情に出やすいロマーノは可愛らしいが、見ているこちらまで恥ずかしくなってくる。彼が今何を考えているのかまで手に取るようにわかってしまって、余計に照れくさい。
「な、なななな何言ってんだよ! いきなり変なこと言うなよ!」
それにその反応は逆効果やで、ロマーノ。
「え、違うん?」
「ちがっ……! 違わな……ぃ、けど、面と向かって言うもんじゃねぇだろ!」
「まあまあロマーノ、今さらやん」
「うるせぇ! スペインのせいだぞちくしょー!」
突然矛先を向けられて苦笑を浮かべるしかない。だって隠していなかったのだから、バレるのも時間の問題やん? というか、ずっと前からバレとったんやで。お前が恥ずかしがるから黙っとっただけで。
いつだったか、キスしたってと言ってくれたあの子が、うちには決してふれさせなかった唇でかつての親分にふれているんかと思うとなんや複雑やわあ、と言われたことがある。それこそ本人には聞かせられない台詞だが、スペインだって居た堪れなさと罪悪感で未だに胸をチクチクと刺されるのだ。
「そういや、ふたりはいつから付き合っているん?」
いよいよロマーノの頬がぱんぱんのパンケーキになってしまった。あるいは熟れきったトマトか。
「ほらぁ、ふたりって全然昔っから変わってへんっていうか、ずぅっとおんなじやんか。いつ恋人になったんやろうなあって思って。一緒におった時は気づかへんかったけど、いつの間にかいちゃいちゃするようになったやんなあ。スペインもロマーノくんのこと甘やかしてばかりやと思ったら、すっかり甘えるようになってもうて」
首を傾げられると、今度こそロマーノが固まってしまった。耳も、首も真っ赤にして、ぱくぱくと口を開閉させている。
「あらぁ、ロマーノくん、真っ赤やで。これはあんま聞かへんほうが良さそうやねぇ」
「べっ、ベルギー!」
「照れんでええやん。うちはふたりが仲良しなんが嬉しいんやから」
朗らかに笑う。ベルギーの笑顔も昔から変わらない。それにしても女性の勘とはおそろしいものだ。自分たちの関係も昔から変わっていないのだから。
○
「は……ァ、あっ……ン、っふぁ」
腰を引こうとすると、ロマーノの身体がぐっと丸められて固くなった。構わず抜け落ちるギリギリまで引き抜いて、胸板を手のひら全体で撫でる。ぶるりとロマーノが震える。その瞬間思いきり腰を進めた。ビリビリと脳髄を突き抜けていくかのような衝撃に一瞬我を忘れそうになる。すぐに切羽詰まった悲鳴のような嬌声が上がり、意識が引き戻された。見下ろしたロマーノの瞳からは涙が溢れ出てくる。かつで黄金を沈めたようだと思っていた瞳から溢れる滴は透明で、蜂蜜のように甘いのかと思って舐めれば味がしない。それがおかしくて顔中に口づけを落としながら、彼の流した涙を舐め取った。
ほとんど意識はなかったのだと思う。普段ならもう少しロマーノのことを気づかいながら徐々に速度を上げていくのに、もう全然待てないと思った。ほとんど力づくで腰を押さえつけてロマーノの体内を抉っていく。ずっと収めていたせいか、スペインの性器はロマーノにすっかり馴染んでいて、外に引き抜こうとするとひどく抵抗した。それを再び押し戻せば先端から先走りを溢れ出させてまで喜ぶ。
「っくぁ……う、ロマ……!」
「ンぁ! は、あ あァ、あ あン!」
縋るものを求めたロマーノの指先がシーツを握りしめた。喘ぎながら薄目を開けた彼に無理やり視線を合わせて笑顔を作る。いや、作ったつもりだった。感覚がほとんど麻痺していて、口端ぐらいしか持ち上がらない。目は普段よりも開いていないし、そのわりに乾ききっていて眼球には薄っすら涙の膜が張っている。
はあはあ、と獣じみた呼吸を撒き散らしながら何度も腰を前後させる。前戯で散々、塗りたくったローションが互いの熱でドロドロに溶け出している。それがスペインの先走りと混じり合って滑りを良くし、一層快感を呼び起こした。
ロマーノはだいぶ前から意味のない音しか発していない。それに意識を刷り込むように何度も何度も名前を呼んだ。お前をここに繋ぎ止めるのはスペインだとでも言うかのように。
「はっ、くそ……っ、も 飛びそ……」
視界が回っている。じくじくと苛む熱はもはや快感を行き過ぎていて、気持ち良いのか熱いだけなのかわからないぐらいだ。それでも今にもはち切れそうな自分自身をどうにか押さえ込んで、出したいのを必死で引き伸ばしていると、ちらついていた快楽の向こう側が見えてくる。ピリピリと手足が痺れてきて、首筋にかかるロマーノの吐息すら快感に変わる瞬間。
衝動的にロマーノの腕を掴んだ。自分の肩に回させて、スペインはその背に腕を回す。強く抱きしめて、何もかもがわからなくなってくると腰の動きは一層強く激しくなった。
もはや互いの快感を追っているのか、ただ無茶苦茶に突いているだけなのかもわからない。ロマーノの首の後ろを掴んで強引に口付けた。んぐ、と息苦しそうな声が上がったが、すぐに荒々しいキスに応えてくれる。
ずっと放ったらかしになっていたロマーノの性器を強く擦り上げれば、彼は呆気なく高みへと上っていく。
「ーーーッ!!」
声にはならない声を上げ達したロマーノを追い立てるように、さらにスペインは数回強く貫いて目の前を白く染め上げる。狂ったようなロマーノが髪を振り乱してよがるのを見下ろしながら、ようやくスペインも達した。痙攣するロマーノの身体を抱きしめて放たれる熱いものに、全ての思考が攫われた。
「……まさかガキの頃から手ぇ出されてたなんて言えねぇだろ」
ようやく呼吸が落ち着いて開口一番に切り出されたのは、そんな言葉だった。昼間のベルギーの話をしているのだろう。
眉を釣り上げるロマーノとは対照的に、スペインは眉を下げて苦笑した。きっと情けない顔をしているはずなのだが、幸せそうな顔をしやがって、と悪態つかれたのでロマーノにはそういう風に見えているのだろう。もっとも、スペインはロマーノの前ではいつもこんな風に蕩けた笑みを浮かべている。それだって何百年も前からずっと変わっていない。
「ええやん、何も言わんで。わざわざ周りに言うて回るようなことちゃうし」
歌うように告げて額にキスをすれば、ロマーノがむぅっと唇を尖らせてお返しとばかりに頬に口付けられた。じゃれ合いのようなキスの応酬に嬉しくなって、ベッドに横たわるロマーノの身体を掻き抱く。するとその拍子に埋めていたものの角度が変わったのだろう、ロマーノが息を呑んだ。ん、鼻にかかった甘い吐息が漏れて湿った空気が濃度を増す。それに目を細めながら抱きしめる腕に力を込めると、ずるりとロマーノの体内を抉ってさらなる奥深くへと侵入を果たした。
「っは、あ……ん、そうだよ。わざわざ言わなくてもお前の態度でダダ漏れ、なんだからな」
「やってぇ、ロマーノが可愛くてしゃあないんやもん」
喘ぎ声の隙間を埋めるように尚も悪態をつくロマーノがいっそ愛おしい。それでつい口元がにやけるのを押さえられずにいたら、そんな風に態度に出ているのが問題なんだ、と頬を膨らませて怒られた。
まさか数百年と続けてきた態度を今さら改めろと言われるとは思わず目を丸くする。だって自分はずっとこうだった。ロマーノがどう成長しようが、何を言おうが何を思おうが、それこそ独立した時ですら何も変わらなかった。ただずっとロマーノのことが可愛くて、愛しくて、それしかなかっただけなのに。それを親子のようだと言ったり恋人同士だと言ったり、勝手に周囲が形容しているだけのことだ。そんなことにまで責任は取れない。
「そうは言うてもなあ……今さら路線変更はちょっと難しいで。クールな俺って、なあ」
自分で言っておいて何だが、滑稽すぎる。いやそれよりもセックスの最中に昼間にあった出来事を思い返して、世間話をしている色気のなさのほうが滑稽か。こっちだって今さらだ。互いに羞恥だとか照れだとかを通り越して、愛を営むのが当たり前になっているのだから。
……そんなことよりさっきからロマーノが腹筋をぴくぴくと収縮させているのが気になる。おかげで断続的に引き絞られた性器が信じられないほど熱くなっている。
ちら、と窺っても彼の表情は変わらない。悩ましい性感と平然を装って続けられる会話に何とか衝動を押さえ込む。
まあ昔から我慢強いほうだ。たぶん、快楽だけに流されることもない、はず。
「……別に、クールになれとは言ってねぇけどよ」
「ほなロマーノのことを好きなんやめろってこと?」
「うぐ……そ、それも……言ってねぇけど……」
ぼそぼそと語尾が小さくなっていく。昔から素直じゃないくせに、素直に気持ちを伝えるよりも恥ずかしいことを言うのは変わらない。
ああ、可愛いなあ。
ロマーノのずっと変わらないところも、時代とともに変わっていくところも全部ひっくるめて好きだ。未だにすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまうところだってスペインは飽きることなく愛おしいと感じている。
(まあ、きっと……赤くならんくなっても好きなんやろうけど)
こんなにも大きな愛情を自分の胸のうちだけに仕舞っておけるようなスマートな男になれる気は永遠にしないので、スペインはわざと明け透けな愛の言葉を口にした。
「ロマーノ、好きやで」
囁いて唇にキスをした。ちゅ、と軽やかな音を立てて離したついでにシーツの上を泳いでいた手を取って指先にも口づければ、呆気に取られたようなロマーノと視線がかち合う。目線だけ上げて首を傾げると、はあっとため息をつかれた。
「……お前ってば時々カッコつけだよな」
「今の流れのどこにカッコつけな要素があったんかがわからへんけど! 俺がカッコつけなんは今さらや」
特にロマーノに対しては我ながらあからさまだった自信がある。
「それに好きな子の前でカッコつけんで、どこでつけるねんって話やし」
「はあ?」
「何でもあらへんよ。……なあ、そんなことより」
するりと意味ありげな手つきで腰を撫でてやる。簡単に熱を呼び戻されたのか、ロマーノが小さく喘いだ。
「そろそろ動いてもええ?」
「……ん、まだ、待って」
可愛らしく言っているが、表情は正反対の小悪魔だ。さっきから何でもない会話をしているふりを装って、スペインの半身を締め付けてきている。それもだんだんと締め付けてくる力が強くなっているとなれば、いい加減わざとだと察するしかない。
「そんなん言うて何分待たせるんやあ。もぉさっきからロマん中ひくひくしてて親分のちんこ爆発しそう!」
「お前の遅漏ちんこは爆発するぐらいでちょうど良いんだよ」
「嫌やー! 俺絶対に三擦り半以上はいきたいねん!!」
「あん? じゃあ四擦りでイってみろよ、ヴァッファンクーロ! 毎回イくタイミング逃したって延々付き合わせるくせに!」
それは別に毎回ではないし、そういう時はロマーノに悪いからと途中でやめようともしている。それを負けた気がするからイくまでやめないと意地を張るのはロマーノのほうなのに……そんなことを言おうものなら、せっかく入れたものを引き抜かれそうなので黙っておく。
「いやあ、ロマーノとこうやって抱き合える喜びをなるべく長い時間、味わっていたくて」
軽い口調で言ったが、半分は本当のことだ。昔はまさかロマーノとこんな下世話な会話をするようになるなんて思ってもみなかった。
今のロマーノはスペインが力いっぱい抱きしめても、タガが外れて夜明けまで求めても受け入れてくれる。むしろロマーノのほうから迫ってくることだって多々あった。同じ目線に立って、同じような愛し方をしている。
(ほんま……幸せやなあ)
ぼんやりと思っていたらロマーノが顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。ただの軽口ではないことが伝わったらしい。本当に恥ずかしいやつ……呆れて言うロマーノもだいぶ恥ずかしいことになっている。赤い頬とか、涙で潤んだ瞳とか。
ハート型にかたどってしまっているくるんとか。
これは本当にどういう仕組みなんだろう。ロマーノの気持ちが反映されているのなら、相当恥ずかしい上にかなり嬉しい現象なのだが。
「……こんなことで幸せに浸ってんじゃねぇよ」
「せやなあ……まあでも俺にとっては大事なことやったから」
そうか、ぼそぼそと頷くロマーノのこめかみに唇を落として、今度こそ手のひらを身体の上に這わせていった。彼は息を詰めるだけで止めはしなかった。それを合意の合図と受け取って、首筋に顔を埋める。ちろちろと舌で舐めて息を吸い込めば、ミルクとは違った甘い匂いがした。