余裕はない

R15。
一時間でタイムアタックした習作。

「はあ?!」
「ロマーノの涙、甘いわー」
「ば、ばーか! 何言ってんだよ」

 つっけんどんに返してくるが、瞳を潤ませて頬を真っ赤にしていては迫力も何もあったものじゃない。むしろあどけない表情を際立たせていて、先ほどのちょっかいをかけた時の艶っぽい反応とギャップに笑ってしまう。

「ば、ばかにすんな……っ」
「馬鹿になんかしてへんって」
「お前のそういうところがムカつくんだよ! 俺はなあ……っ」
「はいはい、ちょっと大人ししててなー……よっと」
「へっ?! って、うわ……!」

 なおも言い募るロマーノの腋の下に腕を差し込み力を加える。そのままひっくり返すように抱き上げれば、あっけなく体位を入れ替えられた。急に態勢が変わったことで彼からは焦ったような声が上がったが、気にせず腹の上に乗せて抱きしめた。ベッドへと仰向けに寝転び、間近に迫ったロマーノの顔を覗き込む。
 寝室の室内灯が彼の頬に橙色の影をつくる。やわらかな色が陽に焼けた健康的なロマーノの肌によく映えて、思わず目を細めた。

「……ほんまに可愛えなあ」

 はあっとため息をつくと、びくりと体が強張った。怯えるような反応に苦笑しつつ、なるべくいやらしい手つきにならないように背中を撫でてやる。しかし目の前の体からはなかなか力が抜けそうになくて、先ほど衝動のままに無体を働いたことを少しだけ後悔した。
 今さらやめてやる気などなかったが。

「……何で、嬉しそうなんだよ」
「んん? やって……なあ」

 スペインにふれられることをロマーノが意識しているのが嬉しいなんて。そんなことを言えば彼はまた怒るだろうか。ムキになって言い返してくるロマーノも可愛いが、結局スペインは自分の本心を口にはしなかった。この優越感はわざわざ口にする必要はない。

「……んー何でもない」
「またそうやってお前は……って、んぅっ」

 文句を言おうとする彼の口を塞いだ。しっとりとしたやわかな唇が気持ち良くてもっと深く貪りたくなるが、今はまだ早いだろう。自分の欲望を必死で押さえ込んで、ぐっと自制をする。それでも、ふれ合わせるだけの幼稚なキスですぐに顔を離すには、相当の理性を働かせなければいけなかった。
 ちゅ、と音を立てて唇を離す。その間に腰を抱き寄せて、さり気なく体を密着させた。

「…………は?」

 案の定ロマーノは、ぽかんと呆気に取られたような表情を無防備に晒す。

「……いちいちウブなんやねぇ」
「うっせー!」

 つっかかってくる時ばかり元気なのは育て方を間違えたのだろうか。いやある意味成功だったと言えるが。

「お、俺だって、別にキスぐらい経験あるんだぞ、ちくしょー!」
「ああ、もう! はいはい、わかったから」
「馬鹿にすんじゃねぇ! お前は知らねぇだけで……んんっ!」

 今度は手のひらで唇を塞いだ。

「少し黙って……?」

 彼の目が僅かに見開かれる。ああ、このままではまた怯えられると、慌てて両手を挙げた。

「ベッドの上で別のやつの話するんはマナー違反やでー」

 へらっと茶化してみせれば、ロマーノは簡単に拗ねた表情を見せた。あまりにスペインの思い通りに翻弄されてくれるので、良くない衝動が煽られる。
 本当は普段通りの緩いテンションで蕩かすように溺れさせたいのに、どうして彼はこうも人の余裕を奪っていくのだろう。はあ、と嘆息した吐息が情けなく響いた。

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