R-18。
背後でガチャンと音を立て扉が閉まる。隣にいた男が足早に部屋を横切り窓際に立つと、手早く厚手のカーテンを引いて部屋の電気のスイッチを切った。街灯のあかりすら遮断された室内は暗やみに包まれ視界の自由が失われる。何も見えない不安からあてもなく指先を伸ばせば、存外そばにいたらしい男のからだにふれた。あ、と思う間に伸ばした手は奪われ握りしめられる。じっとりと熱い手のひら。そのまま腕を引かれ抱き寄せられると、額と額がコツリと合わさり鼻先がぶつかる。彼は少しばかり興奮しているのか呼吸が乱れていた。しかし、吐息がふれ合うほどの至近距離にいるのに、目の前の男がどういう表情をしているのかもわからない。
スペインは暗やみの中でセックスをするのが好きらしい。聞いたことはないが、余裕がある時はいつも律儀に電気を消すので、そういうことなのだろう。ロマーノだって明るいところでするのが好きというわけではないから良いのだが、それにしたって、間近にいてもどんな顔をしているかもわからないほど暗くしてしまうのは徹底している。
「……スペイン」
不安になって名前を呼べば抱きしめる腕の力が強くなる。鼻を舐めて頬にキスをした顔が肩に埋められる。うなじに寄せた鼻がスンスンと鳴らされ、匂いを嗅がれていることに気が付いた。まるで縄張り意識の強い犬や猫のように、ロマーノに自分の知らない匂いがついていないか丹念に調べられるので、この時ばかりはいつも心当たりもないのに緊張する。視線を逸らして耐えていると、家の前の道路を車が通り過ぎる音が響いた。それほど室内は静かであった。
「ン、ぅ……」
唐突に唇を吸われて思わず声が漏れた。反射的に飛び出しそうになった文句は口の中に飲まれてしまった。驚きから一瞬、背中が反り返り腕の中から離れそうになったが、腰に回された手に力がこもり逃げられない。あまりの強さに息苦しくて喉が鳴った。しかし、そんなロマーノに構うことなくスペインは何度も唇に吸い付いては唇を開くように促してくる。明るい時ならば意地を張るところだろうけれど、ロマーノは素直に彼の意思に従って体の力を抜いた。ロマーノの指が彼の着ているシャツの裾を引いたのが合図になった。
我が物顔で口内へと侵入してきた生ぬるい舌が、ぬるぬるとロマーノを引っ掻き回していく。あっという間に酸素不足になって眉間に皺を寄せて苦しさに耐えようとする。
「はっ……ァ ん」
口づけの角度が変わる度に鼻から抜けるような声が漏れる。同時に唾液が混ざり合う音があたりに響いて煽られる。だんだんとスペインに押されるようにロマーノの足は後退していった。カツ、と靴の踵が何かに当たる。そのまま、スペインに体重をかけられベッドの上へと押し倒された。
熱い指先がシャツの隙間に入ってくる間もキスが止められることはなかった。わざとらしく大きな音を立てて吸い付いては舌を絡め、口内の敏感な粘膜を撫でて唾液を送り込んでくる。必死になって受け止めていると、吸われすぎてじくじくと熱を持つ下唇に歯を立てられた。驚きに声が漏れる。それがやけに甘く響いたので、スペインは気を良くしたのか、肌に這わせていた右手の動きを大胆なものに変えていった。
いつの間にか閉じてしまっていたまぶたを開く。どんなに目を凝らしても、やはりスペインの顔を窺うことはできなかった。しかし、ロマーノの視線に気が付いたのかスペインの分厚い手のひらがまぶたの上を覆う。
「スペイン……?」
いつもはおしゃべりなスペインが、セックスの最中だけは寡黙になってしまう。どうしたのかと問うても返事はない。まぶたの上に載せられた熱い手のひらはじっとりと汗ばんでいて、決して押さえ付けているわけではないのに、簡単には解けない力強さがある。
シュルリ、と衣が擦れる音がした。次いで柔らかな布が頬にふれる感触。あ、と声が漏れたが、スペインは迷うことなくロマーノの目の上に布を結びつけてしまった。
「おい、スペイン……ンぁ あっ! な、なんで……?」
一体どこに用意していたのだろう。手早く目を覆われてしまったことを訝しく思ったが、額にキスを落としたスペインの手のひらが再びシャツの中へと差し込まれる。へその周りをなぞり脇腹、あばらへと上っていく不埒な指が思いがけないタイミングであらぬところへ触れてくるのに、いちいち大げさに反応して肩を跳ねさせていると、上のほうから満足げに息を吐き出す気配が聞こえてきた。
腹筋やあばらの骨、胸、と上ってくる手のひらから逃れようと身をよじるが、無駄な抵抗だと言わんばかりに好き勝手に這い回る手が既に立ち上がりかけていた乳首へとふれる。
「ひぁ……ッ! や、やめ……ン、ぁ!」
彼とこのような関係になってから幾度となくふれられ、すっかり感じやすくなってしまったそこは軽くさわられただけでどうしようもなく快感を拾い上げてしまう。それを見越したように、ピンと爪の先で弾かれ捏ねくり回される。
「ぁ、あァん……ぅ! ふ、ぁ、あァああっ」
少し痛みすら感じるほどに強く抓られ摘まみ上げられたかと思うと、今度は敏感になったところに指の腹が擽るように掠めていく。腰が跳ねて前進がベッドから浮き立った。意地悪な動きにすっかり翻弄されてされるがままになっていた。
はあはあ、と獣じみた呼吸を隠しもしないスペインが、背を弓なりにしならせ足先をピンと伸ばし反応するロマーノの首筋に噛み付いてくる。ひゅっと反射的に喉が鳴った。頸動脈に軽く歯を立てられると本能的な恐怖から体が強張ったが、彼の歯は一度食いついてくると簡単には離れない。
首を振るとシーツの上を髪が踊る乾いた音。執拗に責められて熱すら持ち始めた胸の痛み。頭の中が白く塗り潰されていく。
「スペイ、ン……ぁ、うぁ……!」
必死になって名前を呼び目の前の肩に縋り付く。ロマーノよりも広いそれに抱き付けば、それが合図になったのかベルトが外された。
愛撫の執拗さと比べれば違和感を覚えるほど性急に下着を下ろされると、固く立ち上がったペニスが外気に晒された。すでに先端は湿っていて空気にふれると濡れていることが自分でもわかり恥ずかしさから顔を背けようとする。しかし、スペインの歯が首筋に噛み付いたままだったので、ほとんど動かすことはできなかった。
暫し、そのままの態勢でほとんどふれられることもなく放ったかされると、何も見えていないのに観察されているような気になってくる。荒くなった呼吸が敏感な肌にふれるのも、何とも言えずたまらない気になった。居心地が悪くなって身じろぎをする。しかし、もじもじと脚を動かし股間を隠そうとするロマーノの体をスペインの手が許さない。それがなおさらロマーノの羞恥を煽り、ペニスの先端から透明な液が滲みだした。
ロマーノがどんな状況になっているのかスペインには見えているはずなのに、彼は何も言わなかった。ただ、緩く肌を撫でてじっとしている。熱いてのひらがふれていったところから熱が生まれて堪らなくなった。
「ぁ……ぅ、ぁあ、ンあ」
漏れる声はうわごとのよう。スペインは何も言わない。濃度が高くなったような空気に呑まれて、肌がビリビリと痛む。
「スペイン……、も、さわれ……ッ!」
たまらなくなって懇願すれば、存外あっさり望みは叶えられた。ゆるゆるとした動きで根元から先端に向かって手のひらが這っていく。さほど力もこめられていないのに、それだけの刺激で達してしまいそうなほど感じてしまって、反射的に全身を強張らせ衝動に耐える。思わず目を見開いたが、視界を覆われている状態では何も見えなかった。
そのまま焦らすように何度も往復していった手のひらが、そっと尻へと伸ばされる。成人の姿になってから硬く筋肉質になった臀部を、スペインは何が楽しいのか何度も揉みしだいて肉を摘もうとしている。
「はっ……ぁ」
不意に指が割れ目の窄まりにふれた。ゆるゆると入り口をなぞり、爪の先端だけを中に入れては引き抜くような焦れったい動きを繰り返している。期待からそこがスペインを誘うように収縮したのがわかる。息を詰めて耐えていると、ふっと笑う気配を感じ取った。
どこか遠くでプラスチックのボトルのキャップが外される音が聞こえた。同時にどろりとした液体が垂らされる。冷たくて喉を鳴らすと足の付け根あたりにそれを塗り付けられた。
ぬるぬるにさせられた股間が気持ち悪くて顔をしかめた。しかし、指はまるでそれが自然なことのように、するりと内部へと入り込んでくる。ロマーノはスペインの身勝手さを恨みがましく思いながらも呼吸を合わせて力を抜いた。肉をかき分けてロマーノの体内へと入り込んできた指が、あちこちを探るように動かされていく。どうしたって拭えない圧迫感から眉間に皺を寄せた。下唇を噛んで違和感から意識を逸らそうと努めるが、そんなロマーノに構うことなく、ぐにぐにと動かされる指が弱いところを掠めていった。
「んァ……ッ! はっ。あ、あァああ! あ、やっだ、あン」
強すぎる刺激に体を跳ねさせ身を捩る。しかし、彼の手がロマーノの手首を握りしめシーツへと押し付けた。開きっぱなしになった口端を唾液が伝っていく。一度見つけた箇所から逸らすことなく、着実に攻め立てられて意味のなさない声を上げることしかできない。
視界がない分、やけに音が大きく聞こえた。スペインの指がロマーノの体内をかき混ぜる度にローションが音を立てる。卑猥な水音から耳を塞ぎたくなったが、手を押さえられていたために叶わなかった。その間も彼の指はロマーノの弱いところを的確に探り当てて追い詰めていく。
感じやすいところばかりを執拗に責められ、先ほどから中途半端に煽られて敏感になっている性器が限界を訴えはじめた。早く上り詰めたくて、プライドも何もかもを捨てて甘ったるい声で媚びて更なる刺激をねだる。
「はっ……ァ、ぁ も、スペイン、スペイッ……ぁ ンぅ」
目を開けているのか閉じているのかもわからない。自分がどちらを向いているのかもわからなくて震える手を伸ばせばスペインの手のひらに引かれ、背中に掴まるよう誘われた。汗ばんだ背中の筋肉がスペインの動きに合わせて形を変える。服を着ている時はさほど感じない体格差を思い知らされている気になった。
「ぁ……ッ、あ、ンぅ、あぁああ、ふっ……スペイ、ン……! おねが、ぁ!」
何を考えているのかロマーノの呼びかけには応えないで、ただひたすら同じところを指で擦り続けている。ただでさえ弱いところだ。集中して攻められたどうなるか。
与えられる快感にたまらなくなって、スペインの腕のなかで必死になって暴れた。与えられる刺激の強さにのたうち回ることしかできない。
悲鳴のような嬌声を上げながら頭を左右に振って、ひたすら懇願し続けた。いやらしい言葉もたくさん言った。名前を呼んで、ねだって、頼み込んで。けれど、スペインは何の反応も見せず淡々と指を動かし肌を撫でていくばかりだ。
「も、やだ……ァ、はっ……やめ、やめろ… あっ……!」
切羽詰まった声がぐるぐると体中を巡っていく。体内を暴れる熱に支配されて何も考えられなくなっていた。
早く、早く、どうにかしてほしい。助けて、苦しい。
思考回路がそれでいっぱいになる。
「スペイン、ぁ、殺せ……ッ! も、殺してくれ……!」
咄嗟に口走った言葉が何だったかを理解する前にスペインの剛直が体内へと埋められて呼吸も声も奪われた。パクパクと口を開いては音にならない言葉を何度も吐き出そうとして、唸り声を上げ続けていた。
後はもう、真夜中の王様が治める愛の秩序へと突き落とされるだけ。