しがみつく

騎乗位への考察。

 セックスの最中のロマーノが、がむしゃらにしがみついてくるのが好きだ。不器用な彼が身も世もなくあえぎながら必死で俺の体に捕まる姿を見ていると、独占欲や優越感といったあまり爽やかではない感情が満たされる。そういう時のロマーノが普段の可愛げのない態度とは打って変わって素直なのも良くなかった。ドロドロに嵌って抜け出せなくなるのだ。本当はロマーノならばどんな彼でも良いし、照れ屋で不器用なところがロマーノだからそれを否定する気は毛頭ないのだが、元々ツンケンと突き放してくるようなタイプが趣味というわけでもないので、たまに見せてくれる素直な一面をどうしようもなく愛しく思ってしまう。

「……ンぅ、っは、あっ……スペ、……んっ!」

 あぐらをかいた俺に跨り、腰を振っていたロマーノの手が伸ばされる。骨は太いのにしなやかなその腕は俺の頭を抱え込むと、自分の胸へと引き寄せた。自然、裸のロマーノの胸に顔を埋める形になった。お互いどちらも汗ばんでいて、ぴったりと引っついた肌と肌が湿り気を帯びている。

「っは、ぁ ン……あッ! ぁに、かんが え……ふ、ぅ」

 抗議の言葉。どうやら少し上の空になっていたらしい。ごめんなあ、と謝罪を口にして彼の腰を抱え直す。ちゃんと反省したつもりだったが誠意が足りなかったのか、ロマーノが不満げに鼻を鳴らして顔を上げた。ドロリとした蜂蜜のように欲にとろけた琥珀色の瞳が細められ、上から見下される。高飛車な視線が堪らなくて、興奮が背筋を舐めていった。それと同時にロマーノが下腹部に力をこめて中に埋めた俺のものを締め付けてくる。そのまま緩急をつけて刺激され、上下に擦られる摩擦が快感の波を生んだ。

「……っく、はあ……きもち、ええで」

 熱い吐息混じりの声は必要以上に甘ったるく響き、今さら自分がひどく興奮していることに気づく。自覚すると余計に煽られて視界がチカチカとちらつきだすから不思議なものだ。っは、思わず吐き出した息が切羽詰まっていて苦笑する。ロマーノがにやりと笑って、小刻みに腰を揺さぶる。一定のリズムでベッドが軋むのが卑猥だ。ロマーノは自分の悦いところに当たるのか、ひっきりなしに鼻にかかった甘い声を上げた。その淫蕩で開放的な姿に目まいがする。

「ん、ンっ……あ、ぅ むかし、っは……騎乗位きらい、って抜かしていやがった、けど……ッ! あ、ァ んン」

 忙しなく俺の頭を抱える手が動く。髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられ、耳たぶや首筋を撫でられた。それはロマーノが好きな愛撫だ。お返しに同じようにしてやれば、首を仰け反らせて感じてくれる。

「いまっ、は……どーだ! 気持ちよすぎて、っは……天国見えてんじゃ、ねぇの?」

 蠱惑的な笑顔に下腹部が疼く。全身の血液が沸騰したみたいに熱くて、その煮立った血が俺の半身に集まっていくのがわかる。どくどく、と下腹部に心臓があるみたいに脈打っている。

「嫌いちゃうよ、あんま好きちゃうかっただけ」
「同じ、だろ……あ、ん……っは ぁ」

 俺のテクじゃ満足できねぇってことだろうが、と悪態をつきながらあえぐ。本当にこの子は一体どこまで可愛いつもりなのだろうか。昼間には生意気なことばかり言って小さなワガママで俺を困らせていた子が、こんな風にあえいで縋ってくるなんて、快楽と愛情でこの子を支配していると思わずにはいられないだろう。俺がいなければこの子は生きてはいけないんじゃないかとすら思う、どうしようもない俺の高揚感。それに後ろめたい欲求が満たされて、悦びを感じてしまう。
 昔はそれだけで良かった。ロマーノに縋られるほどに愛して、彼の感覚の全てを支配することを実感する。セックスは手っ取り早くそれを実感する行為だった。俺にとっては与えることこそが愛。ロマーノはそれに頭までどっぷり浸かって、何も考えずとも俺を求めれば良いんだって、どこかでそう思っていた。
 騎乗位がそんなに好きではなかったのは、たぶんそれが理由だ。自分が主体になって与える側になれないことが不満だったのだろう。今になって思うと、あまりに幼稚で若造の考えだ。

「ロマは何回も俺のことイかせてるやん」

 テクニックは十分だろう、と彼の胸に頬を擦り寄せる。いい年してロマーノに甘えるような俺を、彼は笑うでもなく抱きしめてくれる。どこもかしこも彼に包まれているような心地良さにうっとりする。ロマーノは俺の身も心も容易く満たしてくれる。はあ、息を吐き出すと泣きたくなった。ロマーノがくすぐったそうに身を捩る。
 ロマーノは俺にしがみついて縋るけれど、それはきっと俺がどこかにはぐれないように捕まえていてくれているのだ。ロマーノがそうやってしがみついてくれてさえいれば、俺はちゃんとここにいられる。
 動きが止まる。ロマーノの嬌声も、ぐちゅぐちゅという水音も止んだ。互いの呼吸と心臓の音だけが聞える。ロマーノの胸の中、はあ、はあ、と息を荒げる自分が我ながら獣じみていて少し笑えてくる。セックスというものは不思議なもので愛する相手はこんなにも可愛くて愛おしいのに、ノリノリで興奮している自分はひどく滑稽だ。でもここにきて今さら冷静になられても困るから、笑うのはぐっと堪えた。

「それにな、セックスに大事なんは、っは……テクだけ、ちゃうで……よっ」
「あ……ッ、あァ んぅ!」

 ロマーノの腰を押さえて腹筋を使い、下から突き上げる。ロマーノの体がびくびくと震えて一瞬動きが止まった。それを良いことに何度か突き上げる動きを繰り返していると、頭を抱え込む腕に力を込められる。少し息苦しい。目の前にちらついている絶頂が期待感を上げて、俺のどうしようもない愚息がロマーノの中で膨らんだ。

「スペ、んぅ……ッ! あっ、あ……ッ! っは、ァも、だめ……ッ」
「ええやん……っ、気持ち、ええやろ?」
「イっちゃう、からぁ! あ、ンん……だめって、あ、あァ……!」

 ロマーノの嬌声が聴覚を支配する。彼の匂い、彼の体温。頭を強く抱きしめられた。ロマーノの熱に煽られるように、互いの快感を追い上げていった。

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