動画配信サービス

2006年にYouTubeで爆発的な人気を得たユーチューバーの走りとなった女性の話 – GIGAZINE
という記事が上がっておりまして、アクセス解析の兼ね合いでリンクは貼りませんが、とてもおもしろかったのでそこからインスピレーションを受けた西ロマの妄想?書くつもりのないプロット?みたいなお話です。

役柄とはいえアントーニョに好きな女の子がいるかのような話が出てきます。お気をつけて。あと時代設定が本当に2006年ぐらい。

最近、同級生たちの間で何かと話題の動画配信サービス。同世代の若者たちが日記のように日々のことを動画で録ってアップしているのだと聞き、暇で暇で仕方なかったロヴィーノは、可愛い女の子を見れたら楽しいかもな、ぐらいの軽い気持ちでサイトにアクセスした。人気ランキングを眺めていると、案の定、上位を占めているのは可愛い女の子たちばかり。サムネイルだけでも人気が出そうだとわかるぐらいキラキラとした姿にはじめはテンション高く見ていたロヴィーノだったが、次第にどれも似たり寄ったりの、何てことのない日々の徒然をだらだらと喋るだけの動画に飽きてきて、ランキングもぼんやりと流し見するようになる。同級生たちはこういうのが良いのかと首を傾げながらスクロールしていく。ふと、女の子たちに混じって20位前後に男の動画が上がっているのが目に入った。サムネイルからは何が人気なのかがわからない。何せごくありきたりなカメラを構えた男の写真なのだ。それでも女の子たちばかり見て少し飽きていたロヴィーノは、一体この動画の何が人気なのかが気になってリンク先を見てみることにした。
動画のアップロード主はアントーニョという、ごく平凡な見た目の高校生だった。アントーニョは軽妙な語り口で、視聴者から寄せられたコメント一つ一つに答えながら、最近自分の周りであった出来事を話していく。よくある日記形式の、ひとり言動画だ。ところがアントーニョの話は隙が多くて、どうにも突っ込みどころが満載だ。ついついコメントで一言言いたくなるような話をする。それでコメントをすれば毎回きちんと反応が返ってくるとあって、じわじわと人気が出てきた動画だったらしい。
ロヴィーノも多分に漏れず、アントーニョにツッコミのコメントを寄せた。ロヴィーノが気になったのは動画の端に映っていた食べかけのインスタントパスタだった。部屋はきちんと片付けられているし、男の自室にしてはこざっぱりとしているように思うのだが、食べ物にこだわりがないのだろうか。どちらにしても、あんなものを食べていたら舌が馬鹿になるし映像に映っているのを見るだけでも不快だったので、素直にそうコメントをした。
三日後、アントーニョの動画が更新された。彼はロヴィーノのコメントにとても驚いたと言った。食べかけの皿が写り込んでいることは動画をアップロードする前にアントーニョも気づいていたが、端のほうにあるし撮り直しも大変だからまあいいかと思ってそのままにしていたらしい。それを真っ先に気づいたロヴィーノの洞察力に感嘆し、よう見ているなあ、と的はずれなコメントを寄越してきた。
動画を見たロヴィーノはそれを聞いて目を細めた。ロヴィーノが言いたかったのはインスタントパスタなんかじゃなく、ちゃんと自分で湯がいて作ったパスタを食べろということだ。自身の洞察力を自慢したかったわけでもないし、わざとなのかというぐらい外した返事をしてきたアントーニョにも呆れた。
ロヴィーノは新しい動画にもコメントをした。アントーニョの返答がズレていることと、今度は脱ぎ散らかしたジャケットがベッドに置きっぱなしだったので、形が崩れるからハンガーにかけろ、と助言した。

何度かそういったやり取りを繰り返しているうちに、じわじわとアントーニョにロヴィーノのことを認識されるようになっていった。しかし洞察力が良いと言われても、ロヴィーノは家族と映画やテレビを見ていても主で映っているものより、背景や脇役が身に着けている小物に目がいくことが多く、それを普通だと思っていたからピンとこない。何よりアントーニョの動画は相変わらず隙だらけだったので、いろいろと言ってやりたいことがたくさんあった。そんな隙だらけだから、脇が甘くて動画に変なものを写り込ませてしまうんじゃないかとも言った。

さてアントーニョはロヴィーノがコメントをしはじめた頃から、クラスメイトに気になっている女の子がいるのだという話をよくしていた。気さくで明るい彼のことだから、女の子にも積極的にアプローチをしているのだろうと思いきや、しかしどういうわけなのかイマイチ恋の行方は明るくない。彼女にはボーイフレンドがいるし、アントーニョは彼女に上手く話しかけることもできず停滞しているようだった。
動画の視聴者たちの専らの関心事はアントーニョの恋の行方だった。皆、毎回コメント欄でああでもない、こうでもないと恋のアドバイスをして盛り上がっていた。
いつの間にかアントーニョの動画の常連になっていたロヴィーノも、彼の恋のことは知っていた。なかなか発展しない片思いに焦れったいような、初々しい初恋を謳歌しているアントーニョがくすぐったいような複雑な気持ちも抱いていた。

ある時、何気ないことをきっかけにコメント欄で話が盛り上がったアントーニョとロヴィーノは、その場のノリでボイスチャットをしようという話になった。そしてアントーニョからは動画一回分をその時間に割くから、ロヴィーノも声だけ出演してみないかとも誘われる。はじめは声だけとはいえ不特定多数の人間が見えるところに配信されるのは抵抗があったのだが、毎日のようにアントーニョの動画を見ていて感覚が麻痺してきていたのか、ついにロヴィーノは出演することをOKした。
動画の打ち合わせのためにメールアドレスを交換し、何通かやり取りをする。アントーニョは動画のイメージ通り気さくで話しやすい男で、あっという間にふたりは打ち解けた。
いざボイスチャットをしている間も収録していることを忘れて大いに話が盛り上がった。時間を忘れて話し込んだので、ロヴィーノは配信できるのか心配になったが、後から編集して時間を調整するから大丈夫だとアントーニョは言った。事実、後日アップロードされた動画では適切な時間に編集されていて、しかも面白いように構成されていたので、さすがは上手いなあと他人事のように感心したのだった。

その一件以来、ロヴィーノはアントーニョとメールをするようになった。内容は他愛もない話ばかりだったが、今までアントーニョの動画の一部分にだけロヴィーノがコメントをして、それに返事があるだけのやり取りだったからロヴィーノの話を聞くのが新鮮だと感動された。ロヴィーノもアントーニョとダラダラとおしゃべりしているのが楽しかった。ふたりはたまにボイスチャットもするようになった。ロヴィーノにとってアントーニョはインターネットで知り合っただけの間柄だとは思えないぐらい話しやすくて、親しみを持っていた。

しかし、ある時アントーニョの動画に、アントーニョという男は実在しないのではないか、といったコメントが書き込まれるようになった。はじめはよくある荒らしの類だと流していたロヴィーノだったが、その勢力は次第に強くなっていって、視聴者たちの間でもアントーニョが実在するのかしないのかで二分するほど話が大きくなっていった。
実在しない派の意見はこうだった。動画があまりに良くできすぎている。特にアントーニョの恋の行方はコメント欄の意見を参考にしながら行動を起こしていくのだが、まるで脚本でもあるかのようだ、というのだ。そう、全ては作り物で、アントーニョは視聴者たちのことを騙しているのではないか、と。

実際にアントーニョと通話し、メールでも話しているロヴィーノは彼がただの役柄に過ぎないとは到底思えなかった。実際ロヴィーノが話をしているアントーニョは動画の通り親しみがあって隙が多く、話しやすくて社交的で、とても陽気な良い奴だ。だから非実在派のコメントに対して、動画が人気だからってやっかんでいるんだろう、とタカを括っていた。

しかし、ある時ふとロヴィーノはアントーニョが自分の前では一度も恋の話をしたことがないことに気がついた。彼とはいつも他愛のない話や、学校であったことをダラダラと喋っているが、その中には不自然なほど女の子の話題が出てこない。動画では相変わらず一進一退で彼女の話が出てきているのに、ロヴィーノには一切その話をしてこないのだ。
確かにロヴィーノは自分以外の男の恋愛になんて興味がない。アントーニョの恋バナには一度も自分から触れたことがないし、コメントだってしたことがなかった。しかし向こうから話を振られたら聞いてやることぐらいはできるだろう。ロヴィーノにも大して恋愛経験はないからアドバイスはできないかもしれないが、恋の行方を応援する気持ちはあった。

そこまで考えて胸がチクリと痛む。喉元までモヤモヤとせり上がってきた嫌な気持ち。それはロヴィーノが今まで感じたことのないようなものだ。

程なくしてアントーニョと通話する機会があった。彼は動画のコメント欄のことで、多少落ち込んでいるようだった。
「まあそんな気にすんなよ。最近あの子とは上手くいってんだろ?こないだの動画で、デートに誘えたって言ってたじゃねぇかよ」
「へ?」
「へ?じゃねぇよ。良かったな。で、初デートはどこに行くつもりなんだ?」
できればロヴィーノの思い過ごしであってほしい。そう思いながら話を振ると、アントーニョはあからさまにうろたえだした。え、あ、あの……、そのままどもってしまいハッキリと答えない。
結局、その日はほとんど会話にならなくて、気まずい空気のまま通話を切った。

ほどなくしてアントーニョの動画と同じタイトルのウェブサイトが見つかった。そのサイトは学生の自主制作映画のオフィシャル告知サイトで、内容は視聴者参加型の青春群像激だった。ドキュメンタリー部分は視聴者とのやり取りだけで、アントーニョの相手役とされる女の子も女優である。彼女はロヴィーノも聞いたことのある、最近若者たちの間で人気のシンガーソングライターでもあった。

騒動が大きくなったことを受けて、アントーニョの動画が更新された。最新の動画はアントーニョのほかにフランシス、ギルベルトと名乗る男も出ていた。この一連の動画のプロデューサーはフランシスだった。アントーニョはフランシスの脚本のためにオーディションで選ばれた俳優志望の専門学校生で、高校生ではなかった。ちなみにギルベルトは資金調達と撮影、音響、編集である。三人は本当はもっと早くにネタばらしをするつもりだったのに、思いのほか動画が人気になって言い出しにくくなったこと、視聴者を騙していたことを謝罪した。撮影した動画は映画にはしないとも約束した。三人とも潔かった。

かくして騒動は一応の収拾がついた。最終的にはきっぱり認めて、未練なく手を引いたことも印象が良かったのか彼らはそれ以上、とやかく言われることはなかった。動画の存続を求める声もあったほどだ。しかしそれはアントーニョの「一身上の都合」で継続はしないと公表された。

一方ロヴィーノは事を最後まで見届けると、動画サイトにアクセスするのをやめた。元々インターネットにそこまでのめり込むタイプではなかったので、ほとんどアントーニョの動画にコメントをつけるためだけに通っていたようなものだったから、それがなくなったらもうサイトを見る意味もなくなる。胸にポッカリと穴が空いたようなさみしさを感じていた。
今までロヴィーノが話をしていたアントーニョは、フランシスとかいう男の書いた脚本に沿ったキャラクターである。でも動画とは関係のないところでまで通話したりメールをしたりしていた。なのにそれは嘘だったのだ。じゃあ今までのふたりの時間は何だったんだろう。あの関係性は全部偽りだったのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなる。

動画サイトを見なくなったロヴィーノは、以前の淡々とした日常を送るようになっていた。同級生たちは動画サイトよりもSNSのほうに関心が移っていて、最近は一方的に配信されたコンテンツを見ることよりも、自分たちから何かを発信するほうが楽しいらしい。ロヴィーノはその輪の中には入らなかった。上手くやっていける自信がなかったし、何となくそういったことは苦手な気がした。

いつも通りの日常を送り、家と学校を往復する。言い知れないような喪失感は、そんな日々がゆっくりと埋めようとしていた。
「兄ちゃん、今度の修学旅行で自由行動の行き先調べたいからパソコン借りるねー!」
「おう……」
ピロリン
「あ、兄ちゃん!メール着ているよ!」
弟に言われてはじめて気がついた。動画サイトを見なくなっていたロヴィーノはパソコンすら開かなくなっていたからだ。メールの送信者は……アントーニョだった。
アントーニョ!
三ヶ月ぶりの彼からの連絡だった。

『ロヴィーノへ
アントーニョです。勝手かもしれへんけど、ロヴィーノにどうしても話したいことがあります。いつまでも待ってます。もしロヴィーノが俺の話を聞いてやっても良いと思ったら連絡ください。
アントーニョ』

それは脚本にはなかった、カメラに映っていない若者たちの話。

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