枕営業

人気アイドルを起用し、大々的なキャンペーンを打つことにしたワールド・ヘタリア社。しかし何度会議を重ねても肝心のアイドルを誰にするかがなかなか決まらず選考は難航する。そこで去年、営業部トップ成績をたたき出した「持っている男」スペイン(25歳・童貞)に一任し、スペインがピンと来た子を起用すれば良いのでは、という話が持ち上がる。ところがスペインは地下アイドルろまちゃんに枕営業をかけられて…?

という妄想も一応したんですが、140文字ぐらいで終わったので方向性を変えて。

世の中、枕営業と言えば抱かれる側ですが逆もあるということで、パトロンを抱いてくるよう指示された親分がロマーノと出会う的な妄想です。例の如く長い。

話題的に続きからR18。西ロマ以外認めない。

1960年代、映画俳優に夢見てのどかな田舎町を飛び出してきた若者スペインは小さな劇団に所属することになりました。都会に出てきたばかりのスペインには人脈もお金もありませんが、大好きな芝居ができる環境に身を置き、夢に一歩近付けたことに胸を躍らせていました。

ところが現実はそう甘くはありません。スペインが所属して僅か一週間、劇団が細細と公演してきた小劇場が取り壊しになったのです。後にできるのは施設が整い近代的になった大劇場。コネクションも実績もない小さな劇団が借りれるものではありません。他の劇場を当たってみても条件に合って予定が空いているところはそうそうなくて、ついに劇団は活動休止に追い込まれてしまいます。

掴みかけていた夢が遠ざかり愕然としたスペインでしたが、落ち込んでいたって何も始まりません。早速、別の劇団で臨時のオーディションがあると聞いて応募しました。ところが、そのオーディション会場の控え室で不穏な噂を耳にします。

「この世界はコネか金がないと端役にも通らない。どちらもないなら社交界に顔のきく女と懇ろになるしかないな」

これには女性とお付き合いをしたことのなかった純朴なスペイン青年はびっくりします。そんなまさか、自分が夢に描いて目指していた世界が、純粋な実力や才能で成り立っているものでもなかったなんて……! 今まで信じてきたものが一気に崩れ去るような衝撃がありました。
程なくして監督から個別で話があるからと呼び出されます。

「スペイン君……だったね。以前はアラゴン劇団に所属していたようだけど……」
「はい、そうです」
「ふーむ……そうか。君は実績は乏しいが演技は良かった。そこで端役でも良いなら一度舞台に立ってみてほしいんだけど……」
「え、は、はい……! もちろん! 何でもやれます!」

突然のチャンスに思わず食らいつきます。監督は複雑な表情をしていました。

「けど一つ条件があるんだ。予定していた採用人数より増えるだろ。だから、そのー……我々のスポンサーに“挨拶”してきてほしいんだ」
「挨拶、ですか? はい、そんなことで良いならいくらでもしますよ」
「それが普通の挨拶じゃないんだ……。その、あの方はどうやら君のことを気に入ってしまったようでね」

言いながら監督が鍵を差し出しました。それはルームナンバーのついた立派なものでした。スペインは実物は見たことがありませんでしたが、映画で目にしたことがあります。それがホテルの鍵だとすぐにピンときました。

「えーと、これは……」

まだオーディションが続いているのかと思うような非日常的な出来事でした。監督は浮かない顔で続けます。

「大人なんだからわかるだろ。君はその鍵を持って大通りのエスパーニャホテルに行く。最上階のスイートルームだ。そこに我々の大事なスポンサーがいるから、あとは……」
「それってつまりーーー」
「……そういう接待だと思ってやるか、今回は縁がなかったと聞かなかったことにするか。どちらかだ」

先ほど控え室で聞いた噂話が頭をよぎります。ようやく手に入れかけたチャンス。しかしそれを掴むためには今まで不道徳だと思っていた行為に手を染めなければなりません。

「まあ安心したまえ。君は抱く側だよ」

一体何をどう安心すれば良いのか。そう思いつつも、暫しの沈黙の後スペインは鍵を受け取りました。

「物分りが良いようで助かるよ。あとは上手くやってくれ」

監督はどこか他人事のように言いました。それに対して恨みがましく思いつつも、今すぐ行ってくれとスペインはホテルへ送り出されたのでした。
 
 
 
スペインがホテルに着いてホテルマンにルームナンバーを告げると、少しの間待つように言われました。手持ち無沙汰でロビーのソファに腰をかけ待っていると、悪い想像がどんどん膨らんでいきます。

(あーどないしよぉおおお! 勢いで来てもうたけど、これってそういうあれやんな……。ちゅーか俺やったことないけど大丈夫なんかな。ちゃんとできるんやろか……。あ、というかかえって怒らせることにならへん? 大丈夫なん?)

童貞に純潔も何もないと言われそうですが、スペインとしても初めては大好き子と想いを通い合わせて、と決めていただけに、この顛末は不本意でした。そして冷静に考えてみれば接待で相手を満足させられなかったらどうするのかと、それもまた心配です。

(スポンサーってどんな人なんやろ……俺、年上の趣味はないんやけどなあ)

劇団のスポンサーで、金持ちで、自身の権力を使って若い男を弄ぶような女……それがスペインの想像する相手でした。そういった相手に良いようにされる趣味は全くありません。考えただけで憂鬱な気持ちになってきて、今からでも断りたいような気になりました。

「スペイン様」
「あ、あの……」
「さあロマーノ様がお待ちです」
「俺やっぱり……、ってあかんですよね。ははは……」
「こちらです」

ホテルマンが呼び出した男に辞退を告げようとしましたが、恐ろしい形相で睨まれてしまいました。慌てて笑ってごまかしましたが、有無を言わさぬ態度で先を急がされます。
あっという間に最上階に着いてしまいました。

「ロマーノ様」

男が扉をノックします。中から何やら声が聞こえてきました。スペインには聞き取れませんでしたが、男にはわかったようです。一言二言、話をかわしながら頷いて、やがてスペインのほうへと向き直ります。

「さあどうぞ」

顎をしゃくって中へ入るよう促されました。
スペインはすっかり怖気づいていましたが、スペインが逃げないよう見張っているかのような男の視線から逃れられる気もしなくて、恐る恐るドアノブに手をかけました。

(ええいままよ!)

がちゃり。扉が開きます。

「し、失礼しまーす……」

そろそろと室内に入りドアノブを離すと扉がガシャンと音を立てて閉まりました。すぐさま外から鍵をかけられて心臓がドキリと跳ねます。偉い人のようだから警備の目的だろう。そうはわかっていましたが、閉じ込められたような気がしていよいよ逃げ場がないと思い知らされます。
室内はさすがスイートルームというだけあって、豪邸のようでした。廊下があっていくつも部屋があり、大きなクローゼットや備え付けのキッチンまでありました。スペインが今住んでいるアパートよりもずっと広くて立派です。
どの部屋に入れば良いのかわからなかったので、とりあえず正面の扉を開けます。ノックすることも忘れていましたが、それを指摘する者はいません。開けた部屋があたりだったようで、人の気配がありました。すかさず名乗ります。

「えーと、カスティーリャ劇団から来ました。スペイン言います。今日はご挨拶に……」
「遅い! どんだけ待っていたと思うんだ!」
「へ?」

ところが、部屋にいたのはスペインが想像していたような女ではありませんでした。中から出てきたのは可愛らしいワンピースを着てはいましたが、男でした。男、というには未成熟でしたが。少年と言ったほうが正しいかもしれません。スペインよりも若く見えますが、態度は偉そうです。

「俺を待たせるとは良い度胸じゃねぇか、このやろー!」
「え、あれ? 俺間違えた?」
「はあ? 何言ってやがるんだ」

少年は白い丸襟つきの黄色いノースリーブのワンピースを着ていました。第一ボタンまでキッチリ止められているのとは裏腹に、ノースリーブから伸びた肩や、丈の短いスカートの裾が気になります。最近若い女の間で流行りのデザインで、不思議とこの少年によく似合っていました。

「いや、舞台に出たいなら接待して来いって言われて来たんやけど……」
「合っているぞ。お前は俺をもてなすんだ」
「はあ」
「だから、その……接待しろっつってんだよ!」
「えーと何したらええの? ゲームして遊ぶ? カードゲームはあんまり得意ちゃうけど」
「ちっげぇよ! カードゲームなんかしねぇ! ベッドでもてなせっつってんだ!」
「え……!」

思いがけない言葉にスペインの思考回路が停止します。少年は顔を真っ赤にして居丈高に言います。

「お前、役者になりたいんだろ」
「はあ……そうやけど」
「だったら俺がパトロンになってやるぞ」
「え、あ……おおきに」
「……てめー俺が子どもだからってバカにしてんだろ!」

そりゃあまあそうやろ。
実際スペインには高校生か、下手をすると中学生ぐらいに見えました。どんなに金持ちの家の子息だからと言ったって、一体、中高校生に何ができるのでしょう。想像もつきません。

「言っておくけどな! アラゴン劇団が使っていた劇場は俺の劇場なんだぞ、このやろー」
「え、そうなん?!」
「ふふん、ようやく俺のすごさがわかったようだな」

自慢げにしていますが、スペインにはある疑問が浮かんできました。

「なんで劇場を作り変えたん? おかげで俺が所属しとった劇団なくなってもうてんけど……」
「ちぎっ……! そ、それは……でかくなったほうがお前が喜ぶかと思って……! まさか劇団が潰れるなんて思ってなかったんだよ!」
「え、そうなん? ん、でもそれって俺のためにやったってこと? なんで……?」
「ちぎー!! 何でもねぇぞ! この話は終わりだ、終わり!」

自分で切り出しておきながら耳まで真っ赤にして怒鳴りだします。その言動に引っかかるものはありましたが、彼がスペインにとっての大事なスポンサーで間違いないようなので、深く追求はしないでおきました。

「とりあえず君……えーと」
「ロマーノだ」
「ロマーノ……くんがスポンサーなのはわかったんやけど。それで俺に何をさせたいん?」
「な、なにをって……! そりゃあここまで来たらわかるだろ」

最後の方はごにょごにょと口ごもっているせいで、上手く聞き取れません。しかしいくら鈍感なスペインでも話の流れで何となく察しはついていました。

「……それってやっぱり、そういうこと?」
「…………」

むすっとむくれてみせるロマーノは、ひどく幼い表情をしていて、とてもスペインと寝たがっているようには見えません。しかし状況はしっかり整っていて、彼の要求ははっきりしていました。
金持ちの道楽なのでしょうか。少年ながらにこうやって気に入った男をホテルに連れ込んで、淫らな行為に耽る趣味でもあるのか。不意に過った想像にスペインの胸がざわつきます。

「ロマーノくんは、そういうのが好きなん?」

問いかける言葉は責めるようなものになりました。

「う、うるせぇ。とにかくテメー役者になりたいんだろ。だ、だったらグダグダ言ってねぇで俺を抱けよ、このやろー」

ロマーノは少し伏し目がちにねだります。強気な眦とは裏腹に瞳が不安げに揺れるのが気になって、思わず覗き込みたくなりました。スペインの喉が鳴ります。
それがロマーノとの出会いだったのでした。
 
 
 
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それでこの後いざ抱いてみたら、いくら初心者のスペインでもわかってしまうぐらいロマーノが慣れていなくて、これは初めてなのでは?となったり、いろいろ上手くいかなくて最後までできなかったりして、とりあえず触るだけで終わります。しかし上手くいかなかったロマーノはずっと泣き通し。スペインもすっかり参ってしまって、あの手この手でご機嫌を取ろうとします。それで翌日こっそりホテルから連れ出して、庶民的な店や公園を連れ回してデートするんです。何やかんやでロマーノのお付きの人に見つかってこってり絞られますが、後日スペインは晴れて端役に採用されて舞台に立てるようになります。

その後も何やかんやでいろいろあって、スペインはゆっくりながらも着実にスター階段を上っていきます。が、一方恋愛のほうはと言うと、やっぱりロマーノは誰でも良いのか、と疑ってみたり、逆にロマーノもスペインを無理やり付き合わせてしまっていると悩んだり、すれ違います。スペインにスキャンダル疑惑がかけられたり、ロマーノが家族から芸能人なんかと付き合わせられない!と反対されたりね。でもやっぱり相手のことが好きだってお互い気付いて、スペインが舞台の上からロマーノにプロポーズするんじゃないですかね。一大スキャンダルになりますが、ロマーノもスペインの愛を受け入れてゴールイン。ハッピーエンドです。良かったね。

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